二話、魔神の巫女の力
ホーワの町、冒険者ギルド
ホーワの町の冒険者ギルドにて早朝に起こされたアーリアはウトウトとしていた。
「ほーら、起きなさい」
受付嬢の名はミランダはアーリアの目の前にコーヒーを置いてあげる。
「ありがとう」
アーリアはお礼を言うとコーヒーを一口飲む。
少し苦いコーヒーの味はスッキリ爽快寝ぼけたアーリアの頭を目覚めさせた。
「それで?あなたなんであんなところで寝てたの?」
「ええっとちょっと込み入った事情がありまして・・・」
流石に元お姫様で国から追い出されました!などとは言えないアーリアは頬を掻きながら誤魔化す。
「・・・言いたくないなら仕方ないわね、それで?見た所荷物もないみたいだけど、あなた冒険者?」
「になるつもりだよ」
冒険者になるつもりのアーリアはやる気あります!ガッテン!とガッツポーズを取った。
「なりたいと言う事はなってないのね、なら登録料は2万ゴールドよ」
「あ、後払いで、お願い出来ませんかね・・・?」
「・・・そう言うと思ってたわ、良いわよ、特例で許可してあげます」
「あなたみたいな女の子に毎日ギルドの前で寝られるとあんな子に外で寝させるなんてうちのギルドに何やってんだ?ってクレームが来るからね」
「だからここでお金を稼いで登録料を返済しなさい、まっ2万くらいはすぐよ、ここで働けばね、それじゃこっちにいらっしゃいな」
ミランダは手招きするとカウンターに向かう。
アーリアはトコトコとついて行く。
「これに触って?、そしたらあなたの名前を世界冒険者ギルド協会のデータベースに登録出来るわ」
(な、名前・・・、ここで触ったらさっき隠した意味が・・・、でもお金稼がないと野垂れ死だし仕方ないか・・・)
野垂れ死などするつもりはないアーリアは名前はバレるがミランダが差し出して来た水晶に触れる。
「!、なるほどね、あなたラーメイヤのお姫様か」
「分かりますよねー」
「そりゃあね」
名にラーメイヤとある時点で正体など即バレである。
「まっ隠さなくても問題はないわよ、だってあなたどう見てもお金なさそうなんだもの、名前でお姫様って分かってもだぁれも狙わないわ」
「虚しくなるからそう言うの言うのやめて下さい・・・」
「あはは、ごめんごめん」
ショボンと俯くアーリアの髪を撫でたミランダは水晶を弄りアーリアの冒険者カードを作り出し手渡す。
「これで晴れてあなたもギルド協会の一員よ、これから頑張りなさい」
「うんっ!頑張る!、目指せ!お金持ち!!」
「随分と現実的な夢ね・・・」
まだ人のいないギルドの中でアーリアは初仕事を選んでいた。
「ちなみにギルドにはギルドランクと言うものがあって、あなたが受けれるのは最下位のCランクよ、上位はSランクになるからね」
「はーい」
カウンターから話しかけてくるミランダに返事をしたアーリアはとりあえず2万ゴールドを返せる仕事を探す。
「これだね!」
「どれどれ?」
「ひゃあ!?、い、いつの間に・・・」
さっきまでカウンターにいたのにいつの間にか真後ろにいたミランダにアーリアは悲鳴を上げる。
「人の後ろに気配なく忍び寄るの私の特技なのよ」
ちなみにミランダは冒険者であり現在はそこそこ報酬の良い受付嬢のバイト中である。
このギルドの受付嬢が何人か辞めてしまったための緊急公募でそれを見たミランダは給料が良いからと応募したのだ。
「薬草収集か、慎重派なのねあなた」
「いきなり難しい依頼から行くのは怖いもの、それにこれ見て!」
アーリアは依頼書の文章を指差す。そこには採れば採るほど報酬が上がります!と書いてあった。
「あーなるほど・・・、頑張って集めて来なさい、ここに持ち込めばその時点で報酬になるから」
「はーい!、行ってくるね!」
元気良くアーリアはギルドから飛び出して行く。
イート平原
穏やかな朝日が照らすイート平原にてアーリアは薬草収集をしていた。
その背には木の枝と草で作った籠がありアーリアは薬草を見つけるとその籠にポイポイと薬草を入れていっている。
「一枚取ればー、十ゴールドー、百枚取ればー」
嫌な歌を歌いながらアーリアは薬草収集をする。
早朝と言う時間は物流が始まる時間であり町からは馬車が出て来る。
アーリアは薬草を取りながら彼等に手を振り馬車の御者達は頑張る少女に向けて手を振り返してくれた。
「いっぱいになっちゃった、もう一個作るか」
自作の籠が一杯になってしまったためアーリアは新しい籠を作る事にし素材をパパッと集めると新品の籠を作り体の前面に取り付けた。
「まだまだ入るぞー」
この後籠を更に二個作りそれも全て満杯にしたアーリアは一度町に戻る。
ギルド
「お帰り」
ギルドに戻るとミランダが出迎えてくれた彼女は体の前後と両足に籠を取り付けたアーリアを見て呆れた顔をする。
「一度帰って来たら良かったのに・・・」
「面倒臭かった!」
「可愛い見た目してる癖に結構物臭な所あるわねあなた・・・、それじゃその籠を貸しなさい、精算してあげるわ」
ミランダは受け取った籠を精算用の魔道具で調べどれだけのゴールドになるか計算する。
「やるじゃない!、二万ゴールド丁度よ!」
僅か二時間での借金返済である。
「・・・借金は無くなったけどまだ無一文じゃないですか」
「まぁね、でもこれから稼ぐお金は全部あなたのものよ!、頑張って!」
「まぁ頑張りますけどね」
ミランダにヒラヒラと手を振ったアーリアは次の依頼をクエストボードから探す。
「ゴブリンの討伐かー、五千ゴールド、これだけあれば宿代になるのかな?」
「この町の宿の相場は五百ゴールドよ、何故か安いの」
「わぁ!?、なら十分だね、行ってくる!」
続いてアーリアはゴブリン討伐の依頼を受け町から旅立った。
今回の依頼の討伐ノルマは三体である。
イート平原
イート平原にはゴブリンがそれなりの数暮らしている。
外敵が冒険者以外殆どいないこの平原は彼等にとって理想的な移住地であり各地から集まって来ては住み着くのだ。
そう言ったゴブリン達が馬車や農園などを襲うため定期的な討伐が行われる。
それに加えてゴブリンは三ヶ月で大人になり放置しておくと爆発的に増えるため尚更放置は出来ない。
「いたいた、丁度三体」
複数あるゴブリンさん宅を周り、三体だけいる家を見つけたアーリアは剣を引き抜く。
アーリアの剣術は父が聖域の家に来る度に仕込んでいたラーメイヤ流の正統剣術であり、暇な時は毎日自己鍛錬を行っていた為かなりの腕である。
それに加えて魔神の巫女としての力を扱うアーリアは闇属性の魔力を剣に乗せて磨かれた剣術の威力を向上させる事が出来る。
「こんにちはー!」
お宅訪問である為挨拶をしながら木の影から飛び出すアーリア。
反応したゴブリン達は近くの鉈を手に取るとうまそうな肉であるアーリアを殺して食うため接近してくる。
「シネェ!!」
ゴブリンの一体が鉈を振り下ろす。
落ち着いた様子のアーリアはそれを剣で逸らすと足払いをした、足払いをされたゴブリンは姿勢が崩れた。
アーリアはゴブリンの姿勢が崩れている間に更に一歩踏み込むと下から剣を振り上げゴブリンを斬り伏せた。
「ナカマガヤラレタ!!」
「ヨクモ!!」
ゴブリン達は仲間を殺したアーリアを絶対に殺すべき敵だと認定した。
同時に駆け出した二体はアーリアの真後ろに迫ると鉈を同時に振るう。
その鉈を振り返らずにしゃがんで避けたアーリアは剣に闇属性の魔力を乗せる。
「ブラックソード!!」
黒い光を放つ剣をアーリアは回転斬りをしながら放つ。
その高威力の一撃を喰らったゴブリンの体はなす術もなく真っ二つになり地面に落ちた。
「初の討伐依頼成功っと」
討伐依頼を成功させたアーリアはうん!と頷くと剣を鞘に収めギルドに帰る。
ギルド
ギルドカードは自動的に討伐した魔物の数をカウントしてくれる。
その為討伐依頼の後は受け付けのお姉さんにギルドカードを渡せば報酬を渡してくれるといった仕組みである。
「やるわねぇ、こんなに早く戻って来るなんて」
「ふっふっふ、父様に教わった剣術は本当に強いのですよ!」
「ほほう?、このバイトが終われば是非近くで見せて貰いたいものだわ、はい、確かに三体のゴブリンの討伐履歴が残っていたので、報酬の五千ゴールドよ」
ギルドカードの確認が終わり確かにアーリアは三体のゴブリンを倒していたため報酬が手渡される。
アーリアは報酬を嬉しそうに受け取るとポケットに入れた。
「これでやっとまともなご飯が食べれるよー」
「ふふっ、良かったわね」
嬉しそうな顔のアーリアの髪をミランダは撫でるするとアーリアはえへへーと笑った。
「ここでお姉さんのアドバイス!宿代と食代を差し引いてもそれなりに余るだろうし、とりあえず、鞄と財布買って来なさい!」
「ですよね・・・、買って来ます・・・」
お姉さんアドバイスに従う事にしたアーリアはミランダに道具屋の場所を聞くと財布と鞄(合わせて二千五百ゴールド)を買い宿屋に入る。
「はぁー・・・、ベッドだぁ・・・、ベンチとは全然違う・・・」
柔らかいベッドは少女の眠りを誘う、夕食を食べていないのにウトウトし始めてしまった少女は夢の世界に旅立った。




