五話、血の記憶
聖域
「・・・」
ここに来ればすぐに思い出せる、なぜならここにずっと一人にいたのだとアーリアは覚えているのだから。
「そうだね、私は寂しかった、置いて行かないでって帰って行くお父様やお母様が乗る場所を見ていつも思ってたんだ」
「・・・」
過去の記憶が思い浮かんだのかアーリアは涙を流す、ダリアはそんな彼女を優しく抱きしめた。
「でもさ、アーリア、いつでも父ちゃんにも母ちゃんにもお前はもう会えるだろ?」
「あはは、そうだよね、そうなんだよ、お父様とお母様にはいつでも会える、それに城に帰ればみんながいるし、イリシアもいる、贅沢だよね、今の私、なのに後ろばっかり見て、過去のちょっと辛かった思い出程度で、大好きなお父様とお母様を恨んで、馬鹿だよ私って」
自分を馬鹿だと言ったアーリアは自分でも気付いていた最近の自分は後ろ向きだったと、だからこそ思う、もうそんなのはやめると。
「お城に帰ろうか、次はシオンに会う」
「おう」
今は十分なら過去などどうでも良い、そう思えるようになったアーリアは転移してラーメイヤ王都に戻る。
シオンの部屋
「あら!良い顔してるじゃない!」
明るい表情になったアーリアを見てシオンは嬉しそうに駆け寄って来る、彼女は聖女、そして大聖女であるメーリスは敵である、その関係からアーリアはメーリスやレイミがクリセリアの物になったのは自分のせいだと思い出した。
「シオン、私・・・」
「メーリス様の事を思い出したのね?、それならそもそも私とあなたで助けようって話だったのにあなたいつの間にか、あなただけで助けるとか思ってたのがダメなとこじゃない、私達は仲間なのよ?、なら助けたい人がいるなら協力して助ければ良い話じゃない」
「その通りです・・・」
面目ないとアーリアは俯く、シオンはそんな少女を見て優しく微笑むと抱きしめた。
「仲間を信じなさい、アーリア、私達はどんな時でもあなたを助けるし、あなたも私達を助けてほしい」
「うん、これまでよりももっともっとあなた達を信じるし助けるよ」
「それで良し!、さぁ最後、行って来なさい、あなたの大切な妹の所へ」
「うん」
アーリアはメーリス達の事を思い出したのと同時に兄殺しをしてしまった事も思い出していた、シオンの言葉に頷いたアーリアはイリシアの部屋に向かう。
イリシアの部屋
「ただいま、イリシア」
一人、アーリアはイリシアの部屋に入る、勉強を終えてくつろいでいたイリシアは姉の姿を見ると柔らかく微笑み姉に駆け寄る。
「お帰りなさい!」
そして抱き着いた。
「イリシア、思い出したよ、私のお兄様、あなたのお父さんを殺したのは私だって」
アーリアは恐る恐るとイグルを殺した事を口にする。
「そうですか・・・」
イリシアはアーリアの胸の中で俯いた、しかしすぐに顔を上げて微笑む。
「なら許します、お姉ちゃんは考えすぎるところがありますから、こうして単刀直入の方が自分を許せますよね?」
「でも・・・、お兄様達の中にも扉があったんだ、それを壊せば、あなたはお父さんの側にいれたかもしれない」
「そんな二年前のお姉ちゃんが知らない情報を今になって気にしてどうするんですか、二年前に出来なかった事は出来なかったと諦めるしかない、そうでしょう?」
イリシアの力強い言葉にアーリアは頷く、そう先程も聖域で行った、過去ばかり見ていても何もならないのだ、これは古代人達にもアーリアが言った言葉だ、過去ばかり見てクリセリアに堕とされたアーリアは古代人と同じ過ちを犯していたのである。
「古代人達のように私がなっちゃ、ダメだよね」
「その通りです、もう一度言いますが、私が許します!、だから、もう後ろばかり見ないで、いつものお姉ちゃんみたいに、前だけを見ていて下さい、真っ直ぐ突き進むあなたを私達が支えますから!」
イリシアの言葉を聞いたアーリアは胸に手を当てながら微笑む、妹に言われている時点で自分もまだまだだなと。
「こんな弱い私だけど、これからもよろしくね、イリシア、私はもう迷わない!」
「はい!」
抱き合う姉妹は微笑み合う、これでアーリアの記憶の問題は解決となった。
しかし・・・。
アーリアの部屋
「・・・」
部屋に戻ったアーリアはエレムスに背中から抱き着いた、しかしやはり彼が好きだと言う気持ちは出て来ない。
記憶の問題を解決してもクリセリアが施した何かは消えたりしないようだ。
「・・・ごめん、エレムス」
アーリアは俯き彼に謝ると部屋から飛び出して行く。
「こんな事で謝られたくなかったんだがな」
エレムスは少女が出て行った扉を悲し気に見守る。
廊下
窓から月を眺めるアーリア、どうすればクリセリアの影響を追い出す事が出来るのかを考えているのだ。
「分かるはずないよね・・・、ダリアの光でもダメなんだもん、どうすれば良いんだよ・・・」
このままだと益々エレムスと気不味くなる、折角記憶の問題を通して仲間との絆を深める事が出来たのに、エレムスとの関係が悪くなるのはアーリアの望む所ではない。
「こんなところでどうかしましたか?、アーリア」
そこにリアリンがやって来る、ウェンディも一緒だ。
「考えてたんだ、どうすれば私に仕込まれた何かの影響を受けずに済むのかって」
「・・・影響を受けたあなたがどんな風になるのか分からないから、対策のしようがないのが厄介ですね・・・」
リアリンも対策のしようがないと俯く。
「・・・私はここだと思うな」
ウェンディは拳を突き出すとアーリアの胸に拳を当てた。
「アーリア!!、ウェンディが胸を触る変態になりました!!」
「やーん!こんな廊下でー!」
十四歳の頃の性格に近くなったせいか、アーリアには二年前の子供っぽさが戻っている、同じく子供であるリアリンと一緒に子供っぽくウェンディを揶揄う。
「こ、この・・・、こっちは真剣なのに・・・」
「あはは、冗談冗談、それで?どう言う意味?」
「もし、クリセリアに操られたとしても、心を強く持って追い出してやれって言ってんのよ!」
フン!と言い終わったウェンディはそっぽを向いた。
「そうだね、私に出来ることって、今は心を強く持つって事くらいだ」
アーリアはウェンディの言葉通り心を強く持ち、クリセリアを追い出すしかないと思う。
「リンちゃん、みんなを呼んで?」
「はい」
皆を呼んで欲しいとアーリアに頼まれたリアリンは言われた通り皆をこの場に集める。
「みんな、私はこの後正直どうなるか分からない、またクリセリアに操られるかもしれない、その時は、私を全力で止めて欲しい、頼めるかな?」
「勿論さ、操られたお前をボッコボコにしてやんよ」
「まんまと操られた事を後悔させてあげますとも!」
「うわぁ・・・、止まる事が出来ても酷い顔になってそうだな、私・・・」
アーリアは皆の言葉を聞きクスクスと笑う。
「その時が来るかもしれないし来ないかもしれない、どちらにせよ、私はこれから前だけを見て進むよ、私が自分からクリセリアに負ける事は二度と無いってみんなに約束する」
「私達もお姉ちゃんに何かあったら助けるって約束します!」
「良し!、それじゃあ前向きに私達らしく行こう!、ウェンディも増えたし新しいチーム名考えよう!、チーム名!!」
アーリアは皆に新しいチーム名考えよーぜと言う。
「そうだなぁ、希望で、ホープ、これでどうだ?」
「あ、あら、あなたにしてはまともなセンスね」
「普段の私がセンスないみたいに言うのやめてくれません!?」
「あはははは、ないじゃん」
「てめー!」
希望の名をチーム名とした少女達はきゃっきゃっと騒ぐ。
「うむ、良い顔だ」
「ええ」
仲間達と楽しそうに笑うアーリアを見てクインとミーヤはもう何も心配はいらない、そう思いその場を離れた。
アーリアの夢
仲間達と笑い合い楽しんだ後、アーリアは夢を見ていた。
「ここはどこ?」
周囲には遥か高いビル、周囲を見渡しても誰もいなかった、アーリアは不安になりつつ街を進み一人の女を見つける。
「おや?、ここに来るのはクリセリアだと思っていたが、君だったか、アーリア」
「あなたは・・・?」
「私かい?、君とクリセリアの先祖さ」
「私とクリセリアの?、それじゃあ、あなたも神様なの?」
神なのか?と問うアーリア、彼は首を振った。
「私は人間さ、クリセリアも元はね?、でもあの子は・・・」
その時だ、世界に振動が走り周囲のビルが崩れて行く。
「時間のようだ、すまないね!、次会ったらまた話そう!」
「くっ!、待って!!、せめてここがどこなのかだけは教えてよ!!」
「ここは、クリセリアの故郷である世界の風景さ、君の血が覚えていたね、つまり君は・・・」
異世界人であるクリセリアの子孫なんだ。
この言葉がアーリアの耳に届いた瞬間、世界は崩壊しアーリアは現実世界で目を覚ます。
「私が異世界人の子孫?、クリセリアも元は異世界人・・・、そんな秘密があったなんて・・・」
アーリアは顎に手を当てながら何故今、血の記憶が目覚めたのか考え始める。




