十七話、イリシアは考え始める
ラーメイヤ王都王城、王室
「・・・」
各国に水晶を輸送するための準備の指揮をこの王室で指揮をしているアーリアは困っていた。
「イリシア・・・、そんなに私を見つめても何にもならないと思うんだけど・・・」
そう、アーリアを越えるべき目標としたイリシアに四六時中監視されているのだ、アーリアの何もかもを研究して越えようとしているらしい。
「気にしないでください」
「するんだよ!、私仕事してるの!、見られてると集中出来ないの!」
「知りませんそんなの」
フンと言ったイリシア、敵地と言うのに豪胆な少女である。
「あーもう!、ダリア!、追放!」
「はいよ」
「放せー!」
女王にイリシアの追放を命じられたダリアはイリシアを背後から拘束するとイリシアを連れて部屋から出て行く。
「ククク、あの娘にすっかりと懐かれたようだな?」
「・・・」
懐かれて悪い気はしないアーリアは頬を掻きながら仕事を再開する。
暫くして、国別に送る水晶の箱詰めが完了した、後は各国に転移魔法士が送るだけだ。
「それじゃみんな、お願いするね、確実に届けて」
これで各国は自分の手で古代人達に対応出来るようになる、そうなればラーメイヤは古代人の本丸、グラファを叩く戦いに集中する事が出来るのだ。
次々と敬礼をする転移魔法士達は大量にある箱の一部に触れながら転移をした。
「次は僕達いつものメンバーで、グラファを叩く番だね」
「うん」
部屋には既にラーメイヤ王都戦で肩を並べたメンバーである、シーラとレイミヤとアンリとエリエルが集まっている、ラーメイヤ王都は属国である四つの国と共に古代人達との決戦を行うつもりなのだ。
「サキュバスの子達が追いつつ続けてくれたお陰で、奴らの居場所は分かっているわ」
「ああ、奴等は奴等の都市であった、古代都市に集結している、我等現代人を全て討ち果たした後はそこをこの世界の新たな首都とするつもりらしい」
「させませんけどね、ねっ?、おひいさま?」
レイミヤが微笑みながらアーリアに質問する。
「うん、勿論だ」
アーリアは力強く頷き、古代人達の世界征服を許さないと心に決めた。
「古代都市に集まっているそうですよ、お母様」
ダリアを振り切り、戻って来たイリシアはドアにもたれ掛かり部屋の中での話を聞いていた、そして母に古代都市に古代人達が集まると報告した。
「聞いていたわ、古代人達は我々の邪魔となる、確実に滅ぼすためにラーメイヤと合わせて我々も出陣するわ、イリシア、あなたはその情報をこちらに渡しなさい、・・・そのためにそこで遊ぶ事を許してあげるわ」
「・・・遊んでません、研究です」
「・・・その割にアーリアちゃんに懐いてる気がするのだけど?」
「な、懐いてませんよ!」
母の言葉を聞いたイリシアは頬を赤く染めながら否定する。
「本当かしら」
クスクスと笑いながらミランダは娘との魔導通信を切った。
「・・・私はあの女に懐いてなど」
「誰に懐いてないって?」
「はっ!、アーリア!」
「はいアーリアです」
「あなたは私の宿敵!、そうですよね!」
「?、あなたと一度も本気で戦った事なんてないし、私は別にそう思ってないけど?」
「なっ・・・、わ、私達は宿敵です!!宿敵なのです!、良いですね!?」
「・・・」
顔を真っ赤にして必死なイリシアを見て今ミランダに何か言われたのだろうなと思うアーリアはため息を吐くと、目の前の少女を抱きしめる。
「なっ、なんのつもりです!?」
「ねっ?私達戦う必要がある?、私は別にないと思うんだよね、だってあなた、あなたのお母さんの言う事を聞いてるだけで、あなた自身の意見はない感じだし」
「私自身の意見・・・、は確かにないです」
自分の意見がないと言われたイリシアは確かに自分には自分の意見はないと俯いた。
「ならさ、あなたはあなたの意見を見つけるべきだ、あなたのお母さんの言われるまま何かをするのではなく、あなたがどうしたいのかを考え、あなたがやりたい事を見つけなよ、それがあなたのやるべき事だと私は思うな」
「・・・私のやりたい事」
自分は何をやりたいのか、母に言われるまま動いていたイリシアにはそれが分からず、どうしたらいいのか分からないと言った顔をアーリアに見せる。
「自分で考えなさい、あなたにはそれを考える頭脳があるでしょう?」
アーリア自身もここで友達になろうと言いたいところだが、見た目よりも精神的に幼い目の前の少女には自分で考える事が必要だと思い、自分で考えろと言い突き放し、彼女から背を向けると部屋に戻った。
「私のやりたい事・・・、あの女を越えること・・・、それもあります・・・、でも本当にそれだけ?、本当は私は・・・」
初めて自分が本当にやりたい事を考え始めたイリシアは自分がやりたい事、それについて考えながら廊下を歩き始めた。
浴室
夜、明日、何も起こらなければ古代都市に攻め込むと決めたアーリアは体の疲れを完全になくすため風呂に入っていた。
そこにイリシアがやって来る。
「ふふっ、答えは見つかった?」
「まだ・・・」
答えは見つからないと言うイリシアは悩んだ様子でアーリアの隣に座る。
「あなたは私があなたを殺す事がやりたい事だと言えばどうするつもりです?」
「甘んじて受けるよ?、そしてあなたの考えを変えてやるさ、私を殺したいなんて思えなくしてあげる」
「・・・ふふっ、あなたなら本当に私にその思わせてしまいそうですね」
「あははー、本当に出来るかは分からないけどねー、確実に強くなってるあなたに殺されちゃうかもしれないし」
ここでアーリアは少し鋭い目を見せる、殺されるつもりはないと目で牽制しているのだ。
「フン、もしそうなったら、殺してあげますよ、絶対に」
イリシアも鋭い目を見せアーリアと目を合わせる、目を合わせあい睨み合う二人は、風呂場でこんな事をしているのが可笑しくなって来て共に笑い始めた。
「あなたは不思議な人です、最初は殺そうと思っていたのに、今は・・・」
「今は?」
「・・・言いません」
「ええー?、言いなよー、気になるじゃん」
「言いません」
プイッと言いなよーと言うアーリアからイリシアはそっぽを向く、アーリアはそんな彼女を背後から抱きしめた。
「私が伝えたい事を理解してくれてるみたいで本当に良かった、そうやって何かを考える事って本当に大切なの、あなたがあなたらしく生きて行くためにも」
「私らしさってなんなのでしょうか、それも分かりません・・・、これも私自身が考えないといけない事なのですね・・・」
「そう、考えること、それが私達のような考える事が出来る生き物に必要な事なんだ」
「はい、・・・ありがとう、アーリア、私は敵なのにあなたは本当に優しい、嬉しいです」
イリシアは顔だけをアーリアの方に向けるとアーリアが彼女が見せた表情の中で今まで見た事がない、輝いた笑顔をアーリアに見せた。
「素敵な笑顔だったよ、イリシア」
「ふふっ、そうですか?」
「うんっ!、とっても!」
アーリアはイリシアから離れまた隣に座ると彼女と楽しく話す。
「・・・」
アーリアとイリシアの会話を見ていたミランダは複雑な表情を見せていた、その表情はアーリアと触れ合うことで娘が成長する事への嬉しさと、このままアーリアと一緒にいれば娘はいつか自分を止めようとする敵に回ると言う感情が入り混じっていた。
「イリシア、私はあなたが幸せなら・・・」
ミランダは楽しげに笑う娘を見て決めた、娘がどんな結論を選んでも受け入れると。
アーリアの寝室
風呂から一緒に上がるとイリシアは一緒に寝たいと伝えて来た、アーリアは優しく微笑み良いよと答え、一緒にベッドに入るとイリシアはあっという間に眠りに落ちた、エレムスは気を遣い別の部屋で眠っている。
「アーリア・・・」
寝言を言うイリシアはアーリアの服を摘むと引っ張った。
「ここにいるよ、イリシア」
隣で寝転がるアーリアは引っ張る手を握ってあげる、するとイリシアは安心した表情を見せ深い眠りに落ちて行く。
「あなたのお母さんは必ず私達が助ける、だから安心してね、イリシア、あなたに悲しい思いを絶対にさせないから」
お休み、眠るイリシアにそう伝えたアーリアは明かりを消し、自分も眠りに落ちて行った。




