プロローグ
新作ですよろしくお願いします。
ラーメイア王国
ラーメイヤ王国には五人の兄妹がいた。
長男の名はイグル・ラーメイヤ。
長髪の男で次期国王候補の有力株とされている。
性格は国のためならばどんな非情な選択も出来るタイプ。
その性格は兄弟の祖父に似ていると言われている。
次男の名はキーン・ラーメイヤ。
短髪の男で鍛え上げた身体による優れた戦闘能力を持つ。
軍部からの信頼が厚く彼こそ王に!と推す者も多く。
キーンもその期待に応えるため日々努力を重ねている。
三男の名はイグルス・ラーメイヤ
本や音楽が好きな静かな性格の男で国民からは彼が王になることはないだろうとされている。
しかし銃の扱いに長けており戦闘能力は兄二人に劣らない。
長女の名はレイラ・ラーメイヤ
派手な性格の女で素敵な旦那さんを得るのが夢であり日々自分磨きをしている。
潤沢とも言える魔力量を保有しており、その魔法戦能力はラーメイヤ王国一とされている。
次女の名はアーリア・ラーメイヤ
この物語の主人公である。
存在は一般に公開されているがその素性は兄妹ですら知らず、謎の存在とされている。
イグルの部屋
長男であるイグルが部屋にキーンを呼んでいた。
「ずっと気になっていた、何故、末の妹は俺たちにすらその存在を公表されない?」
「分からん、父上や母上に聞いても答えてくれんからな」
「・・・俺たちにすら隠すと言うことは、なにか秘密があると言うことか」
「あぁ・・・、探ってみる価値はあるだろう、兄上も知っているだろう?、父上と母上が月に一度我が国の南部に行くことを、後を追って見れば何か分かるかもしれん」
国の南部にはミルチェの森がある、聖域、とされている場所で魔神が封印されている場所でもある。
兄妹は両親が月に一度そこに向かうことを知っていたが深く追及はしてこなかった。
しかし・・・、いつまで経っても末の妹であるアーリアについて自分達に公開されないことを苛立ちを感じた上の兄二人は、両親が森に向かうこの日探りを入れる事に決めたのだ。
「行こう、父さんや母さんがアーリアを何故隠すのか知るために」
イグルとキーンは両親を追って王都から旅立つ、末の妹の秘密を知る為に。
聖域
聖域と呼ばれる場所の近くには湖がある。
アーリアはその湖で一人で水浴びをしていた。
「お前達も水浴びかい?」
金髪蒼眼、十四歳、背は146センチ、と言う特徴を持つ少女は周りで水浴びをする鹿達に話しかける。
アーリアと顔見知りである彼等は集まってくると少女の顔を舐め始めた。
「あはは!、くすぐったいよ、やめてー!」
顔を舐められるくすぐったい感触にアーリアはクスクスと笑う。
「はい!もう終わり、今日は父様と母様が来るからお料理を作らないといけないの!」
アーリアは父と母がこの場所に来る度に自分の手で毎日畑を耕し育てている作物で作った料理を披露している。
料理を作り披露する度に両親は喜んでくれ、この聖域で幼い頃から一人で暮らすアーリアは両親の喜ぶ顔を見てこの場所で一人で暮らすことへの寂しさを紛らわせていた。
「それじゃまたね」
アーリアは顔見知りである鹿達に手を振りこの場を離れる。
この日の触れ合いが彼等との暫しの別れとなることも知らずに。
服を着て剣を片手に家に戻って来たアーリアは料理を完成させていた。
メニューは畑で育てたカボチャスープに近くの町で買って来た小麦粉をこねて作ったパンと同じく町で買って来たステーキだ。
アーリアはここで一人で暮らす為にそこそこなお小遣いを貰っておりたまに贅沢をする余裕はあるのだ。
「来た!」
馬車が家の前で停車する音を聞いたアーリアは嬉しそうに扉に駆け寄ると扉を開けた。
扉の前には両親である、父クイン、母であるミーヤがいた。
「久しぶりだな、アーリア」
「風邪とかひかなかった?」
「大丈夫だよ!、ほら!、入って入って!」
両親に会えた嬉しさからテンション高めの様子のアーリアは父と母の手を引くと家の中に招き入れた。
「今回も豪華だな」
「上手になったわねぇ」
「父様と母様の為にご飯を作るのは、私の月に一度の楽しみだもん!、毎日努力して腕を磨いています!」
日々努力、それがアーリアの生き方、今披露した料理も、剣の腕も一人で努力し鍛え上げている。
それは・・・寂しさを紛らわせる為の努力である。
少女はこの家に連れて来られた時から寂しさを感じないように毎日頑張って来たのだ。
「それでは頂くとしよう」
「いただきます」
両親とその娘は料理を食べ始める。
「アーリア、右肩の刻印は大丈夫か?」
「うん、あの日、暴走を起こしちゃった日から今日まで一度も暴走はしていないよ」
「そう、それなら安心ね」
アーリアは右肩の刻印を両親に見せる、どこか禍々しさを感じる娘の肩に刻まれた紋章を見た両親は悲しそうな顔を見せる。
何故ならこの刻印が現れた者は必ず・・・。
「その紋章!!」
アーリアが捲り上げた服を元に戻そうとした時、イグルとキーンが部屋に入って来た。
部屋に入って来たイグルはアーリアの腕を掴む、両親はしまった!と言った顔を見せていた。
「魔神の紋章!、この紋章が現れた者は国から追放される決まりでしょう!」
「・・・」
アーリアの肩の紋章の正体、それは王族の血を引く女性に稀に現れる魔神の巫女である事を示す紋章であった。
紋章が現れた者はいずれ精神が蝕まれ闇に堕ちてしまうとされている為、国から追放するのが決まりである。
これこそクインとミーヤがアーリアをこの聖域に隠していた理由、両親はアーリアを隠し十四年間守り続けて来たが、兄妹の手によりその守りは潰えてしまった。
「父上・・・、母上・・・、この部屋を見るにこの子に愛情を注いでいるのは分かる、しかし・・・魔神の巫女は危険だ、過去にも父上と母上と同じように隠した王族がいるがその王族達が病に倒れたり疫病が起こったりと、よくないことが必ず起こる、・・・そして巫女を隠す事は重罪です」
国の法律で決まっているのだ、魔神の巫女が産まれ隠している事が判明した場合は隠した王族を粛清をする権限が生まれると。
「辛いでしょうがご決断を、俺もキールも父と母を討ちたくはない」
イグルは剣を引き抜くキールも拳を構えた。
二人ともここで二人が拒否するのならば父と母を討つつもりだ、国を守る為に。
「・・・父様、・・・母様」
アーリアは不安気に父と母の顔を見る。
クインとミーヤは悲しそうな顔でアーリアを抱きしめると口を開く。
「いつかこの日が来ると思っていた、すまない・・・」
「十四年間しか守れなくてごめんね・・・」
二人は家族で争うと言う悲劇を起こさない為魔法でアーリアを気絶させると馬車に運び込む。
国境
国境にある小屋でアーリアは眠っていた。
「ん・・・、んん・・・」
身動ぎをし身を起こしたアーリアは周囲を見渡しこの場所が見知らぬ小屋である事を理解すると慌ててベッドから飛び降りた。
飛び降りたベッドの近くにある机にはアーリアの剣と手紙が置かれておりそこにはこう書かれている。
『すまない、アーリア、家族で殺し合いをするという悲劇を起こさない為にはお前を追放するしかない、理解してくれ』
「・・・」
アーリアは手紙を抱きしめ涙を流す、その胸中には家族に討たれるかもしれないと言うのに十四年間守り続けてくれた両親への感謝の気持ちに溢れていた。
それはそれとして・・・。
「いきなり!、いきなり現れて!なんなんだよ!!、殆ど話した事ないのにいきなり来て追い出してくれちゃってさ!、コノヤロー!」
兄妹への怒りの叫び声を少女は上げた。
愛してくれた両親への怒りはないがいきなり現れしかも殆ど話した事がない兄妹への怒りは隠せないのだ。
「はぁ・・・、叫んでも仕方ないか・・・、これからどうしようかな・・・」
こうして私アーリア・ラーメイヤは剣以外の手持ちのものが何もない無一文少女となってしまったのでした・・・。




