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21話 介護士はカロリーゼロの砂糖を教える。

「いいですか、糖尿病を患ってしまった方は、これらの食べ物を控えてください」


 慈善に出されたNG食材の早見表を渡され、スライム夫婦は顔をしかめた。

 糖尿病にかかった場合、GI値の高い食品、要は消化の良い物は避けなければならない。

 白米やパン、うどんに蕎麦。これら炭水化物は速攻で糖に変わってしまう。更には揚げ物も当然ダメ。油は超高カロリーだ。

 他にもトウモロコシやカボチャと言った甘い野菜、栗やピーナッツといった種実類、炭水化物を多量に含む芋類全般……アウト食材があまりにも多すぎる。


『谿?←縲∽ス輔b鬟溘∋繧峨l縺ェ縺?§繧?↑縺?°』

「殆ど何も食べられないって怒ってますね……」


 キュリーは呆れた顔になった。慈善はため息を吐き、


「残念ですが、自業自得です。きちんと自制してカロリーコントロールが出来ればいいのですけど、【記録帳】で見た限り絶対に不可能だと判断しました」


 慈善はいつになくきつく言いつけている。あまりの迫力にスライム夫婦は怯み、後ずさりをしていた。


(ちょっと、恐いですよ。そんなにきつく言わなくても……)

(普段だったら避ける発言だけど、この二人の場合はこれくらい言わないとダメだよ)


 自制できない位自分に甘いスライムだ。ここで甘い顔を見せれば調子に乗って、勝手に暴飲暴食を繰り返すに決まっている。


(糖尿病は日常生活から戦いが始まっているんだ。厳しくきつく言いつけて、自制心を促すようにしないといけない。介護は自立した生活を援助するのが目的だからね)


 勿論縛り付けるだけじゃ続かない。最初に縛りをかけた上で、食べられる物をしっかり示していく。


「キュリーさん、健康診断から逆算して、一日に食べられる食品の目安表は作れますか?」

「そっか、それなら……はい! できますできます! ささっとやれますよ!」


「よかった。はい、食事はキュリーさんの目安表を元に食べてください。隠れてこそこそ食べても無駄ですよ、私の魔法【記録帳】は、あらゆる嘘を暴きます。週一回訪問して、どんな食事を食べたのか確認させてもらいますよ。もし約束を破ったら……私 怒 り ま す か ら ね」


 いつになく威圧的な笑顔で、きつく釘を突き刺す慈善。あまりの剣幕にスライム夫婦は竦み上がり、ラウラとキュリーも思わず抱き合った。


(こ、恐いぃ……!? じ、ジゼンさんってこんな人でしたっけ!?)

(あはは……そう言えば帝都から脱出する時、凄く大がかりな事をしてたっけ……)


 普段温厚な人間ほど、キレたら危ないという典型例だ。

 スライム夫婦は何度も頷き、誓約書を書いて提出してきた。それを受け取り、慈善は頷く。


「確かに受け取りました。それでは……約束の糖尿病でも食べられるお菓子を教えてあげましょう」

「あ、元に戻った」


 キュリーは思わず安堵する。その間に慈善はカバンから、茶色い粉末の入った袋を取り出した。

 ふんわりと甘い香りが漂ってくる。ラウラは試しに舐めてみると、ひんやり涼やかな甘みを感じた。砂糖に似ているが、それよりもずっと強い甘みだ。

 飲み込むと喉から胸が潤う感覚が広がってくる。風邪薬か何かに使われる物だろうか。


「これ、砂糖……じゃないですね」

「うん。里の外れに羅漢果(らかんか)が自生していたのを見つけてね、それを煮だした物を【性質変化】で粉状にしたのが、この粉末なんだ」


 羅漢果は中国の一部地域のみで取れる植物である。

 見た目はくるみの実によく似ており、漢方で使われているのだが……実はこの羅漢果にはモグロシドと呼ばれる、砂糖の50倍もの甘さがある成分が含まれているのだ。


 この成分は喉や肺への機能改善効果があり、主に咳止めの効果が見込まれている。そのため現代ではのど飴などに使われる事が多いので、知らず知らずのうちに口にしているはずだ。


 だが注目すべきなのは、このモグロシド、ブドウ糖に変質しない。


 かなりざっくりした言い方になるが、羅漢果の粉末は「とても甘いのにカロリーゼロ」という、相反する特徴を持つ魔法の調味料と言う事になる。


「この羅漢果の粉末を使った、超低カロリーケーキを教えましょう。糖尿病の人にはかなり救いになるメニューだと思いますよ」

『雜?ス弱き繝ュ繝ェ繝シ繧ア繝シ繧ュ窶ヲ窶ヲ逡ー逡後↓縺ッ縺昴s縺ェ迚ゥ縺セ縺ァ縺ゅk縺ョ縺具シ』


 そんな物があるのか? とでも言っているのだろう。ついでになぜか、キュリーとラウラも興味ありそうなそぶりを見せている。


(カロリーオフに食いついたか。どの世界の女性も自分の体形を気にする物なんだな……)


 ともあれ料理に取り掛かる。慈善は炊事場を覗き、使えそうな食材を取り出した。

 薄力粉に卵、バターと、ケーキに必要な素材がある。それにヨーグルトとビスケットも見つけた。


「これはいいですね。では早速、ヨーグルトケーキを作っていきましょうか」


 まずはヨーグルトに【性質変化】をかけ、水気を一気に抜いていく。本来なら数時間かかる工程を六分で仕上げると、ビスケットを砕いていった。

 砕いたビスケットをココナツオイルで揉んでから、ケーキ型に入れておく。


 次に常温にした卵と……羅漢果の粉末を白く、もったりするまで混ぜ合わせてから、水きりしたヨーグルトを投入、更に混ぜる。最後に薄力粉を入れて型に投入し、隠し味のラム酒とバニラオイルを入れて、170度のオーブンへ。


「あとは、四〇分位焼けば出来上がりっと」

「結構簡単にできるんですね」

「まぁケーキは乱暴に言えば、混ぜれば出来るからね」


 そんなこんなで四〇分後、こんがりと焼き目の付いたヨーグルトケーキが出来上がった。

 甘い香りが漂い、ラウラ達が色めき立つ。粗熱が取れた頃に切り分け、試食と相成った。


「本当は一晩おいた方が美味しいんだけど、そんな反応をされちゃったら、ね」

「いいや、こんな綺麗に出来ているのに食べられないなんて、そっちの方が嫌ですよ」


 ラウラはすっかりケーキに夢中だ。この反応を見ると「女の子だな」とつくづく思ってしまう。


(カロリーオフのケーキ、どんな味なんだろう)


 フォークを入れるなり、柔らかな手応えが返ってくる。わくわくしながら一口食べると、ヨーグルトの酸味と風味が立ち上ってきた。

 まるでチーズケーキのような食感だ。だけども口当たりが柔らかく、チーズケーキ特有の重さが全くない。砕いたビスケットのザクザクした歯ごたえがアクセントになって、食べていて飽きが来なかった。

 スライム夫婦は勿論、ラウラとキュリーも夢見心地だ。しかもこれでカロリーはかなり抑えられているのだから驚きである。


「あ、甘い……! これで本当に、太ったりしないんですか?」

「生クリームを使わず、ヨーグルトで代用しましたので。そしてこの羅漢果の粉末を砂糖の代わりにする事で、より脂質と糖質を抑えているんですよ」

「異界の知識って、凄いです……これなら、いくら食べても太らないんですね!?」

「いんや、残念ながら、そんな都合の良い物ではありませんよ」


 羅漢果の粉末は確かに、カロリーゼロだ。しかし、それゆえの落とし穴がある。

 生物の脳は甘い物を栄養ある物と認識する。だが羅漢果の粉末などを使った甘い物にはカロリーがないため、栄養ある物を食べたのに脳が栄養不足と誤認してしまう。


 そのためゼロカロリーのお菓子や飲み物を大量にとってしまうと、体がより多くの栄養を取り込む状態に切り替わってしまい、逆に太りやすい体質を作ってしまうのである。


「それにあまり食べ過ぎると脳が錯覚を冒して、膵臓にインスリンを出すよう指示して負担を掛ける危険があるんです。カロリーゼロと言っても、神の食べ物ではない。適量を食べなければ当然毒になるので注意してください」

「あうぅ……異界の食べ物と言っても、万能じゃないんですね……」

『谿句ソオ縺?縺ェ縺≫?ヲ窶ヲ縺ァ繧ゅ?√%繧薙↑繧ア繝シ繧ュ縺後≠繧九↑繧峨???大シオ繧後◎縺?□繧医?』


 糖尿病でも食べられるおやつがあると分かり、レリックはやる気を見せていた。

 慈善は羅漢果の粉末を渡し、最後に釘を刺した。


「こちらは差し上げます。ただし、三ヶ月くらいをかけてゆっくり使ってくださいね。一気に全部使えばどうなるか、当然……理 解 し て い ま す よ ね?」


 スライム夫婦はまた竦み上がった。やはりこの男、怒らせれば恐い奴である。


「お、大人しい人ほど、怒ると恐いって事ですよね……でもそんな所も、私、好きだなぁ……」

(! キュリーさん……やっぱりまだ、狙ってるんだ……)


 少し不安になるも、出かける前に慈善から貰った言葉を思い出す。それだけでも少しだけ、気持ちが楽になった。


「でも、ちょっと分からない事も、あるんですよね」

「と、言いますと?」

「ジゼンさんって、どうしてあそこまで、人のために動けるんでしょうか」


 介護士だからと言うには、慈善の行動はあまりにも他人本意過ぎる。

 ラウラを助ける時も、迷う事無く自ら国一つを敵に回す発言や行動をとった。よくよく考えると、かなりの狂気がにじみ出ていた。


(いくら母様に頼まれたからって、私のために命を懸けて動いた……確かに、考えてみるとちょっと、変かも)


 彼がどうして、何を思いそんな行動をとるのか。彼がどうして他者のために、執着めいた行動をとれるのか。考えてみると、確かに不自然と言うか、理由が分からぬ事ばかりだ。


(……元居た世界で、貴方は一体、どんな経験をしてきたの? ……ジゼンさん)

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