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そして、燻む。美しく。  作者: 頭痛
第二章
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眩暈

 「クロ、待って」

公園から出ようと荷物を纏めていたら、アヤから呼び止められた。

 アヤは鞄から取り出したハンドタオルを水で濡らし、少し絞ったそれを僕の頰に優しく当てた。

「いてっ」僕は反射的に顔をずらす。

 「ほっぺた、赤くなってるわよ?軽い火傷かな」

そういえば踏切で倒れ込んだ時、頰が熱い地面に触れたのだった。

 「あー、ホントだ。髪の毛で隠れてて気付かなかったけど、クロは色白だから赤いのが判るな」

 「それ、今のシロには言われたくないでしょうよ」

アヤはシロに皮肉を言いながら、僕の頰にハンドタオルを当てて言う。

 「とりあえずそのまま家まで冷やしておいた方がいいわよ。そのタオル、貸したげるから」

「ありがとう」

──二人とも本当に優しい。

僕達はそのまま公園で別れ、後で各々が連絡する約束を交わした。


 公園から少し歩き、僕はやっと自分の家に着いた。玄関の鍵を回し、ドアを開ける。

「はぁー、ただいま」

僕の両親は共働きの為この時間は誰も家に居ないが、一人言の様に帰宅を報せる。

 溜息が出てしまうくらいに、今日は色々あり過ぎて疲れた。

お腹も減ったが、とにかく汗や砂埃や血を洗い流したいので、まずシャワーを浴びよう。


 しっかりと戸締りのされた熱気の籠る自室に入り、エアコンを起動し床に鞄を投げ置く。

そのまま脱衣所に向かい、脱いだ服と巻いて貰った包帯を洗濯カゴに放り込み、シャワーを浴びた。

 シャワーのぬるいお湯で、ちくちくと身体中が痛む。よくよく見てみると、身体にはちらほらと擦り傷ができている。

そうだ、消毒しないと。


 浴室を出て身体を拭き新しい服に着替える。

とりあえずアヤに言われた通り応急処置を施し、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出してコップに注ぐ。コップの麦茶を飲み干すと、疲れたからなのかやっと落ち着いたからなのか、少し眠くなってきた。

 母が帰って来るのは夕方頃なので、それまで少し寝よう。

自室に戻ると、起動しておいたエアコンで丁度よく部屋が涼しくなっている。

 僕はベッドに倒れ込み、ウトウトし始めた時、鞄が振動している音がした。

多分、鞄の中のマナーモードのスマホがメッセージかゲームアプリの通知を知らせているのだろう。いや、もしかしたら着信かも知れない。

スマホを取り出さなきゃ。

──でも、眠い。


 僕はそのまま、すぅっと眠ってしまった。



────────。


 どれくらい眠っていたのだろう。

目が醒めると、部屋も窓の外も暗くなっていた。部屋の外では、母が料理をしている音が微かに聞こえる。


「今何時だ・・・」

暗がりの中、枕元を探る。だが、スマホが無い。

ああ、そうだ。鞄の中にあるのだった。


 鞄からスマホを取り出し、スリープ状態を解除した画面を見て、僕は小さい叫声を発した。

──アヤから何件も着信とメッセージが来ていたのだ。

 「クロ、電話に出て」という最後のメッセージの本文だけがロック画面に表示されている。


何だ。

何が起きた。


ロック画面を開き、メッセージを全部読もうとした矢先、アヤから電話の着信が来る。


「もしもし」


 「ああ、クロ、やっと出た・・・良かった・・・」

僕が電話に出ると、アヤはとても安心したような口ぶりで言った。


「どうしたの?何かあったの?」

 「それが──」


胸騒ぎがする。


 「シロと、連絡が取れないの」

「えっ?」


とても、嫌な、胸騒ぎがする。


 「おかしいと思ってシロの家に行ってみたんだけど、まだ帰って来てないって」

「え・・・でも、アヤはシロと一緒に帰ったよね?」

 「うん・・・家に入って行く所も見た。でも、帰ってないって」


何が起きてるんだ。


 「シロのおばさん、今日は仕事休みだから一日家に居たらしいの。でも・・・まだ帰って来てないって・・・どうしよう・・・どうなってるの・・・」


頭が働かない。

思考が追いつかない。

眩暈がする。


──夏休み初日。

 僕の中で、僕達の中で何かが音を立て、崩れていく。

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