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そして、燻む。美しく。  作者: 頭痛
第一章
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 「もしもし、クロ、起きてたか?」

着信は、シロからだった。

「うん。もしかして、ニュースの事?」

 「やっぱり、お前も観てたか。じゃあ、話は通学路でするか。取り敢えず俺は朝メシ食うわ」

「うん、わかった」

通話を切る。

 恐らくシロも、先週の下校路、あの夕方の会話が脳裏に蘇ったのだろう。


──あの日、あの後、あのまま別の話になってしまい、山下さんの事はそれきり話す事はなかった。

シロが何かを言い掛けた事も幾度か思い出し、気にはなったのだが、まぁ、大事な話であればシロの方から持ち掛けてくるだろうと、僕の方から話す事は無かった。

そうしている内に日々は過ぎ、今の今まで山下さんの事とあの時の会話はすっかりと忘れていたのである。


 さておき。

朝食の残りを食べて、登校の支度をせねば。

父も母も、ニュースの件について幾度か僕に質問をしてきたが、僕もよくは知らないと答えると、そうかという風にそれ以上僕に聞いてくる事は無かった。


 朝食を食べ終え、自室で制服に着替えていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「はい」

 「あー、俺だ」

ドアをノックしたのは父だった。

 「父さんは先に仕事行くけど、まぁ、あれだ。気を付けて学校行けよ」

「うん、ありがとう」

どうやら先刻さっきのニュースの件で、心配してくれている様だ。

 山中で発見された遺体が果たして山下さんだと決まったワケではないが、流石にこんな身近でそんな事件が起これば、心配するのも無理はない。


 支度を終え、玄関から出ようとすると、母も父と同じ様に心配していた。


「いってきます」


 家を出て、家のすぐ近くにある街路樹の下に行く。

今日も空は晴れわたり、西の空には大きい入道雲がどっしりと踏ん反り返っている。

 朝だというのに、もう既に暑い。

いつも通りシロと登校する為、シロが僕の家の前まで来るのを待つわけだが、この暑さの中、日光を浴び続ける気にはなれないので、木陰に避難しておくのだ。


 今朝は変な夢を見た所為で、いつもより少しだけ早く起きたので、シロが来るまでまだかかりそうだ。


僕はスマホを取り出し、ネットで今朝のニュースを検索してみる。


 色々と調べてみたが、どうやら遺体が発見されたのは今日の早朝らしく、テレビで観た内容以上の情報はあまり出ていなかった。

 それもそうか。テレビのニュースを観てからそれ程時間も経っていないし、何か判ったとしても記事になるまでもう少し時間もかかるだろう。


 そうこうしてる内に、シロが小走りでやって来た。


 「ふぅー、悪い、待たせた」

「いや、大丈夫。そんな走らなくても良かったのに」

 「まぁ、あんなニュース観りゃあな。取り敢えず、学校向かうか」

「そうだね」

そう言うと、僕等は歩き出す。


 「で、だ」

口火を切ったのは、シロの方だった。

 「クロ、先週の帰り道にしてた話、覚えてるか?」

「うん、思い出した。山下さん・・・だよね」

 「ああ。俺もあの後すぐに忘れちまったんだけど、今朝のニュースで思い出してな」

「やっぱり、山下さんなのかな」

確定はしていない。

ニュースでは、身元不明の若い女性とだけ言っていた。

でも。

 「でも」

僕の心の声と、シロの言葉がハモった。

 「俺達は恐らく、同時にあの時の会話が脳裏によぎった」

シロの言葉に、僕はコクリと頷く。

 「あの時、アヤが居て言えなくてな。シロが家出かなって言ってただろ」


──そうだ。

シロが何かを言い掛けてたんだ。


 「俺実は、変な噂聞いちまってさ」

「噂?」

嫌な予感がする。

 「ああ。あくまで噂なんだけどな。山下・・・どうやら、イジメられてたらしくてさ」

「え・・・まさか」

 「いやいや、それは昔の話な」

シロは早とちりするなという風に、すぐ否定した。

 「イジメの件は教師とか両親に相談したりして解決というか、マジでなくなったみたいなんだよ」

「へぇ、そうなんだ」

 「ただ、それから少しして、山下がラブホから出てくるのを見た奴がいてな」

「えええ」

何だそれ。展開に追いつけない。

 「先週、バンド組んでる奴等と俺が話してたろ?アイツらの一人が見かけたみたいでさ」

「ははぁ。そう言えばそんな事あったね」

 「そいつ、あれ山下だよなーって思って見てたら、山下を隠れて見てる怪しいオッサンも見かけたらしくて」

「え・・・それって」

僕は眉間に皺を寄せる。

 「ああ。多分、ストーカーだろうな」

シロが僕の心を代弁して言った。


「確かに、それはアヤには聞かせられないね」

 「だろ。アイツの事だ、いらん事しかねねぇからな」

 アヤは何というか、姐御肌的な性格をしている。

正義感が強いというか、責任感が強く、困っている人を放っておけないのだ。


 「取り敢えずこの事は、アヤには内緒にしとけよ」

「うん、わかった」


 学校に近付くにつれ、チラホラと制服を着てる人が視界に増えてきた。

僕達の様に誰かと一緒にいる人たちは、今朝のニュースの内容らしき話をしている。

 僕達は、どちらが言うまでもなく、この話をやめた。


夏休みまで、あと二日。


蝉が鳴いている。

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