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そして、燻む。美しく。  作者: 頭痛
第一章
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眩耀

 「そういえば」

シロが思い出した様に話し出す。

 「クロは、A組の山下の話、聞いたか?」

「山下・・・誰?」

知らない。

そもそも、同じクラスの生徒全員の名前でさえ、言える自信がない。


 「山下・・・確か、下の名前は『ゆいな』って子なんだけどさ。まぁ、俺も話した事は無いんだけど」

「そうなんだ。 で、その子がどうしたの?」

 「何かその子、先週から行方が分からないみたいでさ。今日、家族が捜索願いを出したらしくて」

「え!大事おおごとじゃん!」

知らない人とはいえ、同じ学校の生徒だ。

しかもまさか、こんな身近に行方不明者が出るなんて、正直驚きを隠せない。

「家出とかなのかな」

僕がそう言うと、シロは口を片側にキュッと寄せ、うーんと唸る。

 「それがさ・・・」

シロが何かを言い出したその時だ。


 「おーい!白黒ペア!」

と、僕達に呼び掛ける声がした。

呼ばれた方に目をやると、学校の女子生徒が嬉しそうに此方に駆け寄って来ていた。

 「またうるせーのが来たな」

と、シロがボヤく。

「聴こえたらまたアヤが怒り出すよ」

 「いや、完ッ全に聴こえましたけれどもー」


 彼女は『中塚ナカツカ アヤ』。

彼女もまた僕達の幼馴染で、小さい頃はよく三人で、朝から晩まで遊びまわっていた友達()()()


 「で、二人して仲良く何の話をしてたの?」

アヤはニコニコしながら聞いてきた。

 「ああ、そうだ。アヤはA組だろ?山下の話してたんだよ」

シロがそう言うと、ニコニコしていたアヤが真剣な表情に変わる。

 「ゆいなちゃんの話か。まぁ、そうだよね」

「そうだよねって事は、やっぱり大騒ぎになってるんだ?」

 「ん~、大騒ぎってワケじゃないんだけどね。ご両親もあまり大事おおごとにはしたくないみたい。でもまぁ、今日の事だから噂にはなっちゃうよね」

アヤは、少しだけ苦笑いする。


そういえば。

「そうだ、シロはさっき何を言いかけたの?」

シロはさっき、何かを言いかけた。

 「あー、いや、やっぱりいいや」

どうやら都合が悪いらしく、シロはお茶を濁す。

恐らくアヤには聞かれたくない話なのだろう。

だがそれは、アヤに対して逆効果にしかならない。


 「ちょっと、何それ。何の話をしようとしてたのよ」

ムッとしたアヤが、シロに詰め寄る。

 ──しまった。

やはりそうなった。

アヤは子供の頃から、僕達の間に入れない事をとても嫌う。

ましてや、シロに冷たくされたら尚更だろう。


 アヤは、シロの事が好きだ。


いや、特にそんな場面を目撃したとか、そんな話を耳にしたワケではない。

だが、わかるのだ。

僕が、アヤを好きだから。


それこそが、シロが僕の唯一の親友と思う部分であり、アヤの事を友達()()()と思ってしまう部分でもある。

これは、僕が勝手にそう思っているだけであって、二人はこの事を知らない。


そう、僕が勝手に心を閉ざしてしまったのだ。

僕がアヤの事を好きだと気付いた時に。

アヤがシロの事を好きだと気付いた時に。

だから、二人に非はない。

非があるのは、僕自身の弱い心で、僕自身の不甲斐ない性格の方だ。


僕は、シロとの友情を失いたくなくて、アヤとの間に壁を築いてしまった。

そんな僕が、友達だなんて言える筈がないじゃないか。


シロは、アヤの気持ちに気付いているのだろうか。


仲間外れにされて不機嫌そうに問い詰めるアヤと、笑いながら謝り続けるシロを見て僕は、

 (やっぱり二人はお似合いだなぁ)

と、笑顔になる。

嫉妬心などはない。

羨望ともまた違う。

これは例えるなら、──眩耀げんよう


初夏の下校路、夕陽をバックにじゃれ合う二人を眺め、眩しくて目が眩む。



僕はこの光景を、何よりも大切にしているのだ。

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