シロとクロ
──名は体を表すとは、一体誰が言い出したのだろう。
僕には、友人と呼べる人間がいない。
そんな事を言うと、まるで僕がイジメを受けてでもいるかの様に聞こえてしまうだろうが、その様な事は断じてない。
クラスメイトは勿論、学校の生徒達から教師に至る全ての方々の名誉の為にも、それは断言しておく。
僕は、『御影 句路』という何とも御大層な名前を持つ、片田舎の公立高校に通う高校三年生だ。
名は体を表すとは、一体誰が言い出したのだろう。
というのも、僕の肌はまるで不健康かの様に青白く、髪は赤みがかった地毛を持ち、瞳は明るい茶色をしている。
全然黒くないじゃないか。
まぁ確かに、性格に関しては、他人はおろか家族とさえ会話をする事が苦手で、誰に対しても心を開かない。
世間的には根暗と呼ばれる類の人間だ。
そう。
それこそが、僕には友人と呼べる人間がいない一番の原因なのだ。
ただ一人を除いて。
「クロ、悪いな。待たせた」
学校の校門で佇んでいると、背後から声がした。
「平気だよ、そんなに待ってない」
僕は、声の主にそう応えて、一緒に歩き出す。
彼は『日向 詩朗』。
僕の幼馴染であり、唯一無二の親友だ。
「で、何だったの? なんか数人に囲まれてたみたいだったけど。 もしかしてイジメ?」
僕は茶化す様に、シロに聞いた。
シロは
「そうそう、俺、いじめられっ子だから」と、ハハッと笑いながら答える。
「いや、アイツらバンド組んでてさ。 今度の土曜にライブあるから、来ないかーってさ」
「へえ、面白そうだね」
僕は、心にも無い事を言う。
シロは、そんな僕の反応を理解した上で、またハハッと笑う。
シロは僕とは何もかも正反対で、誰とでも別け隔てなく接し、クラスでも人気者だ。
部活には所属してないが、まるで子供の様に外で遊ぶ所為か、健康的な日焼けした肌と黒々とした髪をしている。
──全く以って
名は体を表すとは、一体誰が言い出したのだろう。
僕は、そんな事を呆れて思いながら、シロと親友である事を何よりも誇りにしている。
一度しかない人生の中で、こんなにも信頼できる友人と出逢えた僕は、きっと幸せ者なのだろう。
もうすぐ、夏休みだ。
高校最後の夏休み。
きっと、ずっと思い出に残る、忘れられない夏休みになるだろう。
────遠くの山から、カラスの鳴き声が、聴こえる。