プロローグ
「ここは何処?」
緑豊かな森林公園の芝生の上で目を覚ました私は、辺りを見回すと、少しはなれた所にログハウスが見えたので、一先ずログハウスに向かうことにした。
ログハウスに着くまでに現状を確認してみよう。
私は 中尾 六夏 16歳
身長150cm 体重・・秘密
特技 絶対記憶 速読
東大阪市在住で両親と弟、ネコ3匹と暮らしている。
夕べは自宅のベッドで寝たはず。
うん、大丈夫・・・
「すいませ~ん」
私が恐る恐るログハウスの扉を開けると、中には10年前に亡くなったおじいちゃんがお椀で何かを飲んでいるところだった。
「ぐぅ・・・六夏ちゃん良く来てくれた」
おじいちゃんは慌ててお椀を置いてお茶を飲み干すと、少し青い顔をして迎え入れてくれた。
横目でお椀を確認すると、中身はお汁粉だった・・・確かおじいちゃんが亡くなる前に食べたのもお汁粉だったって聞いたなぁ。
「夢にしてはリアルだよね?」
「ほほほ、現実じゃよ」
「じゃあ、おじいちゃんは幽霊?」
「ほほほ・・・・・・」
おじいちゃんは暫く固まった後、私の腰にすがり付いてきた。
「六夏ちゃん!じーちゃんを助けておくれ!!もう頼れるのは六夏ちゃんだけなんじゃ~
じーちゃん一生のお願い」
「え?え?え?一生っておじいちゃんもう死んでるじゃん」
おじいちゃんはピタッと止まって、つるりと禿げた後頭部を”ぺし”っと叩いてウインクすると
「そうじゃった。
でも、事は深刻なんじゃよ」
「で?いったい何なの?」
夢でも良いや。小さい頃から大好きで、お茶目で面白かったおじいちゃんの夢だし、付き合うことにしよう。
「六夏ちゃんは絶対記憶持ってたよね?持ってるよね?持ってると言っておくれ」
「も、持ってるけど、それがどうしたの?」
「実はワシ死んだ後に、とある理由からある世界の管理神にされたんじゃが、ワシの性格上、回復魔法と薬学が全く発達せんでな。
創造神様にそっち方面を延ばさないと、お仕置きされるんじゃ。
でも、ワシ回復系は教えるのも苦手でな、結局戦争の切欠を作っただけじゃった・・・
そこで、創造神様に相談して、ワシの血縁で絶対記憶を持つ六夏ちゃんにこの薬学と回復魔法の知識を覚えてもらって、ある程度の魔法とスキルを与えて現地で活動してもらう事で上手く薬学や回復魔法が広まれば良し、ダメならワシがオシオキされるだけじゃ」
回復魔法と薬学を伝えて何で戦争に?それに創造神様のオシオキって・・・どんな夢よ
「まぁ行くのは良いけど現実の私はどうなるの?」
「六夏ちゃんのコピーを置いておるから大丈夫じゃ。
ささ、この本を読んで覚えておくれ」
おじいちゃんはそう言って百科辞典のような大きさの本を40冊近く出して机の上に乗せたけど、多すぎ!私でも4時間はかかるわよ。
付き合うと決めたから私はその本を読みながら、気になった事を聞いてみた。
「ねぇ、おじいちゃん、何で薬学と回復魔法を伝えただけで戦争になったの?」
「そ、それがじゃな・・・なぜか勝った国がワシからの褒美をもらえる事に”めぎ”」
「適当な事を言ってごまかすな!」
おじいちゃんの頭を握り締めた壮年の男性が、切れた良い笑顔を浮かべて立っていたの。
「えっと?」
「お初にお目にかかる、我輩は創造神:ツレツカ、こやつに代わって我輩が説明しよう。
こやつはよりにもよって世界中の神殿を通じて「ワシの秘術を知りたければ、神霊島に来い!教えるのは一人だけじゃがな」と言いおった。
結果、世界中の国々が争い始め、その争いは混迷を強めた。
その争いを沈静化するために共通の敵となる、モンスターを生み出し、それが更なる混乱の元になったのだ。
神は何時までも神霊島にたどり着かない人類に対してお怒りなのだと、モンスターの討伐と激しい戦争の激化、今は我輩が神殿に人同士の争いを禁止し、神霊島への出入りも禁止した事で、一先ずは人類の敵モンスターの討伐が目下の国家ごとの目標となっている」
「あはは、昔からおじいちゃんっては大雑把で適当っておばあちゃんも言ってたしね。
まぁ良いか・・・」
私はこの際だから、この夢を思いっきり楽しむ事にした。
現実の知識に無い魔法の知識や薬学の知識が私のやる気を刺激してドンドンと覚えていく。
ツレツカ様とおじいちゃんはお茶を飲みながら私をチラチラと見ている事に気がついていたんだけど、最後の本を読み終えたとき、二人は驚いたような顔をして私を見つめていた。
「覚えたけど、二人ともどうしたの?」
「・・・は、はやいのう」
「これが絶対記憶か・・・」
私が首を捻っていると、ツレツカ様が頷いて
「これで準備は整ったが、六夏には少しサービスしておくか」
そう言って私に手を伸ばすと光の球が6個私の胸に吸い込まれていった。
「よし、では、爺がおかしな事をする前に送るか・・・現地に着いたら東に向かうのと、ステータスと心で思うだけでステータスが見れるからな」
私の意識はドンドン消えて、再び気がついたら見知らぬ草原に立っていた。