すべてを見ていた者の日記
「リーテ・エルドルテ!性根の腐ったお前を王妃の座につけるわけにはいかない!よって、ここに婚約破棄を宣言する!」
更々と靡く王譲りの金髪に疑うことを知らない純真な王妃譲りの藍い瞳。
溌剌と高らかに宣言するその声は、一年前までは国について語っていた。
『”完璧王子”シャルル・エンゲーベルトは、僅か一年で変わり果てた。』
人々はそう口にする。
その全てがこの宣言で分かるだろう。
壇上で宣言を口にするただの男と成り果てたシャルルの横にか弱く震える一人の令嬢。
平民令嬢とあだ名される、アリッサ・ズゥードン。彼女とシャルルの出会いが全ての始まり。完璧王子がただの男と成り果てたきっかけ。
曰く、シャルルとアリッサは心から愛し合う仲。
たが、王子には幼い頃からの婚約者がいて、シャルルとアリッサの仲を妬んだ婚約者は、アリッサを虐めだす。
耐えに耐えていたアリッサも、母の形見であるブローチを盗まれたところで、シャルルに助けを求め、今日に至る。
その事実を叩きつけられた、リーテ・エルドルテ東侯爵令嬢は、毅然と立っていた。
「お言葉ですが、王子」
そこからは、リーテの独壇場であった。
よくある流れ。
曰く、リーテ・エルドルテがアリッサ・ズゥードンを虐める理由はどこにもない。なぜなら、リーテ・エルドルテは、シャルル・エンゲーベルトに対して恋愛感情を持っていなく、ただ義務として付き従っていただけであるから。また、アリッサ・ズゥードンが虐めを受けていたとき、リーテ・エルドルテにはアリバイがあると言う事実。そして、虐めの内容は全て、アリッサ・ズゥードンの自作自演であることを、流れるように発言した。
その間、シャルル・エンゲーベルト及びアリッサ・ズゥードンは、口汚くリーテ・エルドルテを罵っていた。
シャルル・エンゲーベルトも墜ちたものだと誰もが落胆していた。
そこに、颯爽と現れたのは、病弱と噂されていたルイス・エンゲーベルト第二王子。
彼は、シャルル・エンゲーベルトに王からの託宣を告げ、王家からの追放さらに国外追放を申し渡す。さらに、アリッサ・ズゥードンも、平民に落とし、同様国外追放となった。
喚きながら騎士達に連行される二人は、見るにも絶えず多くは目を逸らしていた。
が、私は見た。
喚きながら去っていく王子の顔は笑顔であったこと。アリッサ・ズゥードンもまた、涙で顔を濡らしていたが、もしや歓喜によるものではないかと伺わせる表情をしていた。
フロアに視線を戻すと、第二王子……今にして、第一王子となり王太子となったルイス・エンゲーベルトがリーテ・エルドルテに求婚をしているところだった。
そして、それに対して、誰も見たことの無いような笑顔でリーテ・エルドルテはその手を強く握っていた。
先程までの断罪など忘れたかのように、周囲が歓喜する中、私はただ物語の中にいるような感覚から抜け出せずにいた。