平民令嬢
退屈だった。何もかも。
ここは息が出来ない。
着なれないドレスで動きにくい上に、強要される笑顔がひきつる。
無愛想に接すれば失礼だと遠回しの遠回しで罵られる。
7年前来たときは地獄かと思ったけれど、7年も経てばいき方を学ぶ。
だから、私は退屈な騒がしいパーティを、そつない笑顔と挨拶で乗りきって、壁の華をしてる。
元々、私は平民だった。まぁ、こんなところにいるわけだから、ただの平民では無いけれど。
そう、私は貴族の落とし子。御落胤ってやつだった。
私は父も母も知らない。育ててくれたのは気難しい祖父とその弟子の少年だった。
母は、私を生んですぐに死んだ。とても言えないほど傷を体全身に負ってたらしい。
そう、私の本当の父なる人が貴族。それも、四大侯爵の一角を担う南侯爵グリス・ズードゥンその人という。何と言う驚き。
10歳の時、迎えだと言ってその本人が現れたときは開いた口がふさがらなかった。
人違いですと言って逃げようもなかった。
だって、私の顔は、その男に瓜二つだったからだ。
祖父は、引き渡さないと粘ったけど無駄だった。大貴族には手打ちなんて出来ない。
男の家に引き取られてからは地獄だった。
母の体が傷だらけの意味をすぐ知った。
男は、苛虐趣味だった。
しかも自分より美しい者を見ると苛立つという。
私の母は、美しかったらしい。だから、狙われた。標的にされた。ズタズタにされて、無理やり犯されて、私を孕んで、命からがら逃げ出して私を生みそして死んだ。
その事実に気づいたとき、私は腑に落ちた。
そして、母を尊敬した。
よく発狂して、自殺を考えなかったな、と。
あぁ、私は別にあの男の苛虐対象には入ってない。
あの男と私は瓜二つだから。自分の顔を傷つける趣味は無いようだった。
だから、私はここにいる。
全寮制の学園。貴族たちにとっては楽園。
私にとっては強大な牢獄。
一際辺りが賑やかになった。
温くなったオレンジジュースから目を話し、顔をあげると、目があった。
完璧超人と名高い王子の、仄暗い藍色の瞳と。
表記ミスがあったので修正しました。