六粒目
「コルミーが増えたら、砂漠はもっと広くなる。そうしたら、外の世界にも行けなくなる。それでもコルミーが増えた方がいいのか?」
囚人は問いかける。けれど、シャスカの答えはそっけないものだった。
「どうでもいい。外の世界に行くつもりもないし……」
「そうか。外の世界に興味は無いのか?」
「無い」
返されたのはそっけない返事。はっきりいって、シャスカにとって外の世界などどうでも良かった。この街で生き延びるために、日々ぎりぎりの生活をしている中で、外の世界を想う余裕なんてない。今日のパン、明日のパン、未来の弟の学費、母の薬代。それ以上は求めてないし、手に入るとも思っていなかった。
抜け出せない日々の中に、希望も知識も要らない。そんな少女に、囚人は悲しみを押し殺したような、歪んだ笑顔を向けた。シャスカはどうしてか、ささやかな罪悪感を覚えた。
「外の世界とか、何も知らないし……」
言い訳のように付け足したその一言は、囚人のみならず、口にしたシャスカにも納得を与えた。いかにも「それらしい」理由だった。
「それでは、私が外の世界を教えてあげよう。私はあと三日はここにいるはずだから」
「……気が向いたら」
あまり気乗りのしない様子でシャスカは言った。それでも囚人はほっとしたような表情を見せる。
「きっと、聞いておくといい。私は元老院で働きいまでこそ囚人でしかないが、昔は吟遊詩人をしていてね。世界中を旅しながら歌っていたんだ」
「え、すごい。歌って」
「いや、流石にここで歌ったら戦士に怒られる」
「本当に歌っていたの?」
「本当だ。そんな嘘はつかない」
シャスカは気づいていなかった。ここまで相手に、率直に求めたのは初めてだということに。相手に遠慮させない雰囲気を出す囚人は、まさに吟遊詩人こそが天職だったのかもしれない。
「それで、なんで捕まったの?」
シャスカの問いに、囚人は意表を突かれたように口を閉ざした。それはシャスカが直球で問いかけてきたことに驚いたようでもあり――問われないと思っていた自身に驚いたようでもあった。
ゆるゆると我に返った囚人は、月明かりに伸びるシャスカの影に視線を落として、ぽつりと言う。
「首長の提案に反対した。強硬にな」
「首長に逆らったらダメに決まっているじゃない」
「ああ。ダメだった。おかげ様でここにいるよ。砂漠の暗黙の了解ってやつを甘く見ていた」
砂漠には砂漠のルールがある。
元老院が都市のことを決める、立法機関であり行政機関であったとしても、その上には首長の厳然たる無言の権力がある。話し合いで決めることを良しとするが、いざというときは、強いリーダーに率いられることを砂漠の民は望むのだ。
首長に逆らった場合。首長を説得しきれた者は褒賞を与えられ、説得しきれなかった者には死が与えられる。
この囚人は……そういうことだった。




