五粒目
砂漠の営みは変わらない。季節は無く、似たような日々の繰り返しの果てに、似たような暮らしが繰り返され、似たような人々が生まれては似たようない生き死にを繰り返す。まるで砂漠自体がひとつの生き物のように。細胞が生まれては死んでいくように、個々の生死の上に「形」は保たれる。けれど。シャスカという一人の少女の目から見ても、小さな変化は産声を上げていた。
コルミーを採る場所がだんだん遠くなっている。
これは、シャスカにとっては自分の体調よりもずっとわかりやすい、確かな変化だった。それは、不安だった。一往復でもらえる賃金は変わらないのに、歩く距離は日々遠くなっていく。先細っていく生活が、砂漠に伸びる道の先にあるような、そんな予感が少女につきまとう。
歩く距離が伸びたから。シャスカは、ジャスパを一往復早く帰らせるようになっていた。それを許すだけの理由もあった。ジャスパを学び舎に送るための資金も貯まりつつあったのだ。
夜の街を、少女が一人で歩いて帰る。しかし、シャスカは危機感を抱いていなかった。帰り道を変えたのだ。戦士階級が見張りをしている、牢屋の近くを通るようにした。戦士階級が見張っているところで悪いことをする人もいないだろう。弓と曲刀で武装した戦士階級は、彼ら自身が触れれば切れそうな覇気を放っていた。
見せしめのように通りに向いた、牢屋の鉄柵。中では乾ききった囚人たちが、虚ろな瞳でシャスカを見上げる。足早に通り過ぎようとするシャスカを、一人の囚人が呼び止めた。
「なあ。お嬢さん、ちょっと聞かせてくれないか」
足を止めたことを恥じるように、シャスカはすぐに聞かなかったふりをして、立ち去ろうとした。しかし、再び投げかけられた言葉にもう一度足を止めることになる。
「コルミーが増えたら嬉しいかい?」
「……おじさんは、増やせるの?」
一人だけ、目の輝きを失っていない囚人がいた。立派な身なりの、中年にさしかかったくらいの男だ。街では見かけない異国風の顔つきだが、着ている衣服は、この街の政治を行っている元老院議員のものだ。
そっけないが、しかしどこか興味を持ったようなシャスカの問いに、囚人は首を振る。
「私は魔法使いじゃない。手からざらざらとコルミーを出すようなことは出来ない」
「そう」
「だが、徐々に砂漠のコルミーを増やすことは出来る」
「じゃあ、増やして」
率直なシャスカの言葉に、囚人は苦笑いした。
「やっぱり、そんなもんか」
と。




