二粒目
シャスカはぐっと嗚咽を噛み殺した。泣いたら打たれるからだ。
日干しレンガが敷き詰められた道で、一輪の手押し車をごろごろと押して歩く。積まれているのは、カゴいっぱいのコルミー。砂漠の、コルミーが山のようにある砂丘から、掬い上げては都市に運ぶ。
まだ十歳の女の子にはあまりに辛い仕事だった。それでも、朝から晩まで働けば、四個のパンと二個のオレンジが買えるのだ。働かないわけにはいかなかった。
コルミーの砂漠に囲まれた、オアシスを抱える都市、マイルーン。吹き荒ぶ風から守る城壁に囲まれたこの都市では、食べ物はほとんどとれない。壁のすぐ外にある、小さな農園だけでは、人の腹を満たすことができないのだ。
マイルーンは食料を、輸入に頼っている。それを買うための金になるのが、コルミーの輸出だ。コルミーは上質な燃料になる。コルミーがあれば容易く鉄を打てる。採れば採るだけ売れた。だから、子どもまで都市の管理の元で、コルミーを採っては運んだ。
マイルーンのコルミー倉庫で、草の茎を編んで叩いた紙に判子を貰う。砂丘で貰える判子と対になった割印が、きちんと両方揃うと賃金を貰えるのだ。ズルをして近場から拾ってきても、これがあるからすぐにバレる。
倉庫の横で、弟のジャスパが両足を放り出して座り込んでいた。
「ジャスパ、あと一回だよ」
「もうやだよ。足が痛い。歩きたくない」
駄々をこねるジャスパの頬には、青黒い痣があった。シャスカは何かを言おうと口を開き……そのまま閉じた。困ったように見上げた空は、もう朱が混じり始めている。
シャスカは表情の抜け落ちた顔でジャスパに言う。
「良いよ。先に帰ってて。お母さんにちゃんとお金を渡すんだよ。悪い人がいるから、真っ直ぐに帰らなきゃ駄目だよ」
「うん。でも、明日のパン……」
「私が、あと二回運ぶから。早く帰りなさい」
「うん」
裸足でとぼとぼと歩いていくジャスパの背中を見送り、シャスカは呟いた。
「お姉ちゃんだもん」
何度もマメが潰れて硬くなった手のひらで。力仕事をするには小さ過ぎる手のひらで。シャスカはまた、一輪車の把手を握りしめた。木の車輪が、ざりりとコルミーを踏む音がした。




