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1歩目



___世界には、私の知らない人がいて。

知らない街があって。

知らない常識がある。


動物だって、喋ったり笑ったり、彼らの生活だってあるはずだ。

これは、異国の地・エドラーで、少女がイヌによく似た"オオカミ獣人"と出会うお話。



*犬の国・エドラー*


荷車は、自然の獣道へ入ったようだった。

荷台に寝転びうつらうつらしていた少女は、車の揺れに驚いて意識を取り戻し、辺りを見回した。

車は後ろの部分が空いているもので、少女は運転席後方の荷台に寝転がっていたのだった。

「悪いね嬢ちゃん、ここらは揺れるんだ」と、車の前の方から低い声が飛んだ。

なにせこの車、結構なスピードを出しているので、風の音に負けないように声を張り上げなければいけないのだ。

少女は大声に自信が持てなかったので、黙ることにする。

しばらくして、獣道が手の入った道に変わり、景色が森林から草原へと変わると、車は停車した。

「気分はどうだい、ひどい道だったろう」

車の運転席から降りた男性は、少女を気遣って声をかけた。

運転手の男性の耳は大きく垂れ下がっており、顔の中央の鼻と口が突出している。

少女の国では"イヌ"のビーグルと呼ばれる動物に似ていた。

「いえ。乗せて下さるだけでも助かるんですもの。ルーファスさんがいらして良かったわ。関所から首都へは遠いと聞いていたものだから」

それを聞くと、ルーファスは顔を伏せ、恥ずかしそうにした。

「もうすぐ、ちっこいが栄えた田舎街に着くから、そこで嬢ちゃんは次の奴を探しな。旅の商人なんかに着いていくといい」

「親切にどうもありがとう、ルーファスさん」

少女は深々と頭を下げ、顔に笑顔を浮かべた。少女の綺麗な黒髪が午後の日差しに光る。

頭を下げたことで髪が流れ、頭に載せていたベレー帽が落ちそうになるのを、彼女はあわてて抑えた。

ルーファスは笑う。

すぐに出発した彼らの車は、ルーファスの言葉通り、すぐに街へ到着した。

農村を市場として発展した街だというが、行商人たちがわざわざ立ち寄る程でもあるらしい。

なかなかに大きく、人が多く行き来しているのが伺えた。

たしかに栄えているようだ。

2人が車を降り、街の入り口へ向かうと、なにやら人だかりができていた。

男性が二人程で、街へ入る人を調べている。

「関所のつもりか…?あんなものはなかったはずなんだがな」

ルーファスは目を細め怪訝な顔をした。

しばらくすると、彼の同業者らしい男性が近づいてきて、「街へ入るにはこの関所に並ぶそうですよ」と言った。

「俺が一週間前に来たときはこんな物なかったんだがなぁ」

少女は、ルーファスが、関所と街を行き来する仕事をしていることを思い出した。

男性は、「関所の男性、軍の要員らしいですよ…世の中物騒になったもんだ」と言って去って行った。

一時間程待って2人の番になり、男性の前に連れて行かれる。

少女は、この男性は"シベリアンハスキー"に似ていると勝手に考えてしまう。

彼の大きな体躯が、行商人たちに威圧を与えているのが分かった。

「街に入りたい奴は、姓名と種族と目的を言っていけ。いいな」

男性は2人に淡々と告げた。

ルーファスは少女を一瞥した後に「ルーファス=バウアー。イヌ族の男だ。関所からの荷物を届けにきた。これでいいな」と告げた。

一瞬の目線は、上手くやれるな?の確認だと少女にだけ分かる。

男性は頷きルーファスを通した。

次の奴、と男性が目を向けた少女の身長は、他のどんな人よりも低く、幼く見える。

「名前は」

「とうどう…藤堂 澄香」

「スミカ?聞きなれない名前だな。種族は」

男性の言葉に、澄香は口をつぐんだ。

「種族だよ、自分に付いてる耳は何のためにある?名前なんかよりこれを聞きたいんだ」

「……ヒトです」

男性が体を強張らせ息を飲んだのがわかった。

澄香は男性にだけ聞こえるよう小声で言ったつもりだったが、周りに聞こえていたらしい。

辺りにざわめきが広がった。

澄香は、こうなったら腹を決めよう、と思った。

頭に載せた赤いベレー帽を下ろすと、そこには周りの人間とは違い大きな耳はなく、綺麗な黒髪があるのみだった。

「…藤堂 澄香、22歳。隣の国からやってきました。ヒトの女性でございます。なにか文句はございまして?」

少女のように見えた彼女は、童顔だが妙齢の女性だった。

さっきまでの態度と違い、声には凛とした強さを感じさせる。

澄香は、頭の横にあるヒトの耳を強調するかのように、髪をかきあげた。

後のルーファスは、この時の澄香は別人のようだった、と言ったという…。

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