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閑話 ちび、消えたってよ



「貴女なんかどっかいっちゃえ」


 少女が力強く言葉を吐きだす。その言葉を言い終わると同時に彼ら、いや彼女達に守られるよう中心に居た一人の女性が忽然と消えた。まるでそこには最初から誰も居なかった、そう言われれば納得してしまうほど音も動きも魔力の気配さえなく、ぽっかりと空席が出来た。


「それでは失礼します。お邪魔しました」


 呆然と空席を見つめていた彼女達に少女が暇の挨拶を告げるその声音はどこか清々しさへ含んで用は済んだとばかりに帰ろうと歩き出す少女だが、リビングと玄関ホールを繋ぐドアは激しい音と衝撃を立てて閉まる。

 

「あの子をどこへやったの?」


 閉まったドアに手をかけたまま問いかけるのは長い前髪が特徴的なアンジェリカだ。低い声には怒りが含まれていると容易に察せられる。身長180cmはあろうかという体格のいい人物が怒気を自分に向けてくるという状況、普通なら萎縮したり怯えたりするものだが少女は気にも留めていない風にあっけらかんと明るく答えた。 


「さあ? どっかはどっかですよ?」


 少しも悪びれずに言う少女に彼女は盛大に舌打ちを鳴らす。その態度に不快を感じたのか少女は眉を寄せながらドアから一向に退かない手に抗議した。


「それより手、どかしてくれませんか?」

「……特定の場所を指定したわけじゃないのね?」


 逆に問い返される。どっかといったらどっかだ。少女の言葉を信じずなお確認する行為に、先ほどから自分の存在を蔑ろにされ続けた少女は簡単に激し、強い言葉を吐く。


「私、もう帰りたいんですけど?《その手をどか》」


 少女が一際強く発した言葉は最後まで言い終わらない。少女の口は動いているのに声は聞こえず、その上、少女の手足が不自然な位置のままぴくりとも動かずに停止していた。


「あたし達の仲間も迷い人よ、言わせるわけないでしょ?」


 長い髪をゆったり後ろで結んでいるマチルダが鋭い口調と視線で少女を睨みながら声をかける。


 そう、彼女達の仲間で、今は空席となった場所に座っていた女性もまた、この世界では特殊な迷い人だ。

 ひょんな偶然から一緒に生活をするようになったその女性に色々な事を教える際、過去の迷い人の特性や女性の能力についても皆で調べている。知っているからこそ安心して一緒に命の危険を伴う仕事を請け負うことが出来るのだ。それに女性と少女は同郷というなら迷い人独特の力も見当が付く。


 それゆえに、消えた仲間のことは完全なる油断だった。勿論、彼女達も各々警戒はしていたがまさかこんな暴挙に出るとは想定していなかったのだろう、今回はその隙を突かれた。己の甘さに腹立しく思いながらも、二度目の失態は防いだ。


 最大の力である言葉はもちろんのこと四肢の自由まで奪われた少女は、本当なら元凶であるマチルダを睨みつけたいところだが、指の一本も動かせない状況ではどうする事もできない。唯一出来たことは視界に居るアンジェリカをマチルダの代わりに鋭く睨む事だけだった。


 完全に安心は出来ないものの、元凶である少女を抑えたアンジェリカとマチルダがこれからの行動を思案する後方からは野太い悲鳴が二つ上がり、それとは別にゆっくりと穏やかな足音が一つこちらに近付いて来る。その人物はきっと、いや確実に貼り付けたような微笑を浮かべていると予測できてアンジェリカとマチルダは深い溜息と共に振り返る。


 澄み渡る天気と心地よい気温の休日を全てぶち壊した少女に二人して心の中で毒を吐いたのは当然のことだった。 







三人称に憧れるんだけどいつも片思いなの。

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