表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/46

最高の居場所2

 サナタのホーム円形状の目に痛い赤色の屋根に、壁はライトオレンジ。メルヘンというか、子供趣味というかとにかくわかりやすい配色だった。

 この街から見れば異色な雰囲気だが、それは暗いこの街をどうにかしようという気概の現れなのかもしれない。


 扉も木製で曲線美な花が彫ってあり、サナタの拘りが伺える。

「ここ?」

「うん、だけど入り口はこっちね」

 そう言いながらサナタは裏手にまわる。

 ついてきたコレハルも不安げにこちらを見るが、俺も知らないのでどうすることもできない。


 裏手にまわるとそこには視界を遮る背の高い作物、とうもろこし畑があった。

「ん? サナタって生産系興味なかったんじゃ……」

 彼女はそれを無視して畑をかき分けながら入っていく。


「倒さないように気をつけて」

 コレハルも嫌そうな顔をしながらもついてくる。やはり、こいつはついてくるべきではなかったのではないか。


 しかし、しばらく畑を進むと視界がひらける。

 円形状に露出した土の真ん中をサナタが探ると、床下収納のような戸があることに気づく。

 もしサナタが屈みこんでいなければそこに戸があるとは思いもしなかっただろう。


「ここまでする意味があるの?」

「まあ、ね」と含みのある言い方が気になるが、戸を開いて真っ暗闇に消えていくサナタを追わずにはいられなかった。


 下り階段を降りて、しばらく水平に延びる廊下を歩く。

 地上にあった木製のファンシーな扉とは打って変わって、金属質で平たい頑丈なドアが薄暗い中でぼんやりと浮かぶ。

 そこに取り付けられた縦四つ、横三つの操作パネル。パスワード式の鍵なのだが、鍵と錠のタイプに比べて高価なためにわざわざ取り付ける者は少ない。


 パスワード式の鍵は仲間内の拠点を守るために使われる。

 しかし、ホームや家などというサナタの言い方から考えるに、それは個人的な拠点であるように思えた。

 そうなると男との逢引のためかとも思った。だが、一緒にこの薄暗い廊下をわたるコレハルの表情からも分かる通り、普通の男はそこまで用意周到な女に引いてしまう。


 あるいは、現実化したこの世界における当然の防衛手段なのかもしれない。

 考えていると扉が開く。ようやく中に入れるかとおもいきや、開いたはずのドアとまったく同じ物が俺たちの行き先に立ちはだかっていた。

 やはり、これを皆がやっていることだとは考えられない。何か別の理由がありそうだと結論付けるしかなかった。


 二重のロックを抜けて明るいところに出たかと思えば、これまた殺風景が広がっていた。

 コンクリートむき出しの床と壁に、事務椅子と事務机がいくつか。天井には青のきつい蛍光灯ときた。


 どこの職場だよと思いながら、視界の端に見覚えのある模様を発見する。

 昇り龍といったか。時に彼女の怒りを代弁するそれは、大人しく背に張り付いていた。

 それをそっと包む衣は、背中がざっくりと開いた真白のワンピース。

 大迫力の龍を天女の羽衣のように包み込む、まさしく女神を体現していた。


 彼女は事務椅子を旋回し、こちらを向く。

「お、マナブー! 久しぶり」

 中身はしとやかさの欠片もない。がめつい女、マダラメだ。

「今はマナだから……」

 イレギュラーがいるため、少しいいづらい事情だった。


 俺の後ろから顔を出すコレハルを見て納得したようだ。

「お、マナちゃん彼氏連れてきたんだ」

「そうなんですよー。あ、コレハルっていいます」

 ここぞとばかりに乗っかっていく。


「ええと、私は……」

 またかと思ったが、俺から紹介するわけにもいかなかった。

「あっそうそう。三日月ね」

 小声で「あってるよね……」などと思考がだだ漏れだが大丈夫だろうか。

 その調子でいままでよく捕まらずにやってこれたものだと感心する。


 マダラメはそのプレイスタイルから、見た目と名前をいくつも持っている。これもかなり高価なアイテムが必要なのだが、彼女にまともな判断を期待しても無駄である。

 プレイスタイルとどの姿でも変えない背中の龍とで、「カメレオンみたいなものか」なんてつぶやいたときにはとんでもなく怒られた。今思い出すだけでも恐ろしい。


「ハンドルネームだからね。忘れちゃうことってあるよね」

 コレハルはかってに解釈したようだ。


「それで、そのミカヅキさんさ。いつこの街に着いたの」

 集団キルの犯人をはっきりさせなければならないため、念のため聞いておく。

「昨日の朝。それでちょうどよくサナタに会ってさ」

 やはりか。


「と、いうことはこの3人は知り合いどうしなんだ。なんだか俺だけ無理に来ちゃったかな……」

 その通りだが、わざわざ誘ったサナタにはなにか思惑があるのだろうか。

「そうかな。んじゃ、まあそう思うならちょっとお茶でも淹れてもらおうかな」

 サナタはそっちにあるからと指差す。

 ここまでセキュリティにこだわっていながら、あいつを一人にしていいのかという疑問がわく。

「ん、わかった。ゆっくり淹れるから先に3人でしかできない話でもしててよ」


 そうして、コレハルは一部屋はさんだ奥にある給湯室へ消えていった。


「さて、まずは……」と俺が名探偵みたく格好良く犯人を指摘しようとしたのに、マダラメの横槍が入る。

「いや、その前に『大先生』とかいうのが見えるって本当?」

 サナタも興味ありそうに身を乗り出す。

「ウィンチから聞いたのか?」

「そうだよ。ちなみに死んだらログアウトも死に戻りもできないってのを、マナちゃんに伝えるようにいったんだけど聞いた?」

 マダラメはころころ名前が変わり、拠点も持たないため、連絡するにはウィンチを通してだった。


「あれはマダラメ情報だったか。てっきりイチゼンかと……」

「それはいいんだよ。マナちゃんのいうところの大先生、つまりギルマスがいるのかどうか」

 あくまでも問い詰めるつもりのようだ。

 しかし、証明ができない以上、うかつに話すわけには。


「うーん……」

「マナ君、ちょっとは昔の仲間を信じてあげたらどうだい」

「えっ」

 思わず声がでる。なぜだ。さっき呼んでも出なかったのに。

「私は見世物じゃあないんだ。呼ばれて出るほど安くもない。それに、マナ君が困ってるのを見るのもなんだか懐かしくて、ついついやってしまった」


 漏らした声にサナタとマダラメが驚いて、俺の顔を覗きこむ。その様子から考えて、大先生のことを二人は見えも聞こえもしないようだ。

「とりあえず、俺が通訳すればいいのか?」

「いや、君に話したことがすべてだ。私からなにも言うことはない」

「そうは言っても、あんたの言葉がないと二人とも納得しないと思うんだが。何か証拠として大先生しか知らないこととか……」

「私としては協力しようともしまいとも、全員帰還させてくれれば問題はない」

 二人が協力するしないはいいとして、あんたの都合なのにあんたは協力しないのかよ。


「誰と話してるの?」と不安げにサナタは言うが、マダラメの方は察しているようにみえる。


「どこから話したものか……」

 俺はサナタに向けて、大先生からの命令を一から説明する。

 マダラメはウィンチを伝手に知っているらしく、質問を交えながら聞いていた。


「お前らはどう思う? そしてどうする?」

 俺がそう問うと、サナタは長考に入る。

「私はどうでもいいかな。もうやることやっちゃってるし」

「まあたしかに」


「それで、サナタに聞きたいんだが」

「ん? 何?」

「まずは情報の発信地であるここ、西の街を潰しておきたい。その上で、サナタがここに思い入れがあるなら別の方法を考えるが」

 西の街の襲撃は大先生と相談して決めたことだ。それでも、サナタの大切な居場所なら壊すわけにはいかなかった。


「マナ君、何をいってるんだね。ここを最初につぶしておかなければ困るのは君なんだよ。わかってるかい?」

 大先生が口うるさくとがめるが、これには返す言葉がある。

「『仲間のやりたいことを邪魔しないこと』だろ」


 それをサナタは自分への一方的な言葉としてとらえたらしい。

「そっか。マナちゃんは今でも神殺しの丘のメンバーなんだね。うらやましいよ……」

 皆が皆、俺のように別れたくて別れた者ばかりではない。

 あの時のように、俺の都合でこの街とサナタを別れさせるというのは心苦しかった。


「やっぱりだめか」

 諦めかけた俺にサナタが言う。

「そうじゃないよ。『仲間のやりたいことを邪魔しないこと』っていうのはさ、おたがいさまなんだよ。それに、マナちゃんとお師匠様二人のやりたいことなんでしょ? だったら私が折れないと」

「いや、俺は……」

「それに、私ももうこの街を出ようかと思ってたし」

 その言葉の真偽は俺にはわからない。俺を気遣っているのかもしれないし、本当に大先生のことを一番に思っているのかもしれない。

 あるいは別の思惑があるのだろうか。彼女の狡猾さからいってまったく無いとも言い切れない。


 混濁する思考のなか、「そうなのか」と相槌程度に返すことしかできなかった。


「こちらにも聞いておいたらどうだい」

 大先生はマダラメの肩にいた。

 そういうのマダラメすごく怒るんだけど。

「マダラメは協力できそうか?」

「当然。対多数戦は私の得意分野だからね」

 よりきつい戦いほど闘士を燃やす。それがマダラメだ。

「だろうな」


「そろそろいいかい」

 扉がノックされる。

 コレハルの声だ。


「ま、手筋は考えておいて。明日にでも決行で。サナタもいい?」

「大丈夫!」とサナタは敬礼する。

「そろそろ入れてあげなよ。コレハルくん入っていいよー!」

 マダラメはあらため、ミカヅキとしてコレハルを呼ぶ。


「冷めちゃうかと思ったよ」

 そういいながら俺たちが囲む机の上に湯のみに淹れたお茶を並べていく。

 その所作はいかにもウェイター然としていて、体に染み付いた動きとして自然ささえ感じさせる。


 お茶を並べ終え、開口一番にコレハルは宣言した。

「突然ですがみなさん、俺と狩りにいきましょう!」


「私はこれから用事なので、そこの二人を連れてっていいですよ。どこ行くか知らないけど二人とも強いからどこでもいけると思うので」

 サナタが言う。

 彼女にはこれからこの街との別れがあるのだから、やることもあるのだろう。


 一方で、俺とマダラメはアイコンタクトする。『こいつが西の街で最初のターゲットだ』と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ