自家忠告ってどうなんだろうか?
更に光が増していく。
光の洪水に晒され、全てが光に飲まれていくようだ。
そのように表現するしかない状況になってしまった。
とても眩しくて思わず目を瞑ってしまう。
しかし意識だけは明確で、事の成り行きに身を任せている形だ。
暫く経つと光の洪水は徐々に収まり薄暗くなっていく。
眩しい光が収まったと判断して目を開ける。
うん?う、動けないぞ。
またもや次元幽閉に居る時のように身動きができなくなってしまった。
「おいおい、またかよ……」
結局、俺はまた身体を失い魂だけになってしまったのか?
この妙な状況は散々見た夢の内の一つなのか?
『ははは、どうやら本体の制御を横取りできたようだな。さすが俺様っ!おおっ?な~んにも知らないアホで間抜けな俺がいるな!よし!成功したようだ! さて、なんて言ったらいいかな。まあ、取り敢えず現状が先だよな、やっぱり。では改めて……ようこそ異世界へ!』
何処かで聞いたような声が耳に届く。
はて?この状況って夢じゃないのか?
「はい?」
妙に陽気で何処かで聞いた覚えのある声の主を探してみた。
探すまでもなかった。何故なら俺の目の前に居たのだから。
黒いローブのような物で全身を隠した長身の何者かが立っていた。
そして、これは謎かけなのか、ふざけているのか謎だが、ひょっとこの面をして顔を隠しているのだ。
『よお、元気か!調子はどうだい?俺はすこぶる元気だぞ!』
……あ~うっとしい。この妙にカラ元気な奴はなんだろうか?
何故だか分からないが、この怪人は意図的に姿を隠しているようだ。
ひょっとこの面はやり過ぎだと思うが、なにか拘りでもあるのだろうか?
黒のローブから手足が少し見えているが皮膚の色が純白のように白い。
これが本当に白くて人間離れしていると思った。
何処とも分からない空間は、うす暗く感じる。
しかし、そいつだけが強調されているように光って見えた。
おいおい……、次はなんだ?この怪人は何者なんだ?
存在感があるはずなのに、この怪人は妙に希薄に感じてしまう。
ひよっとして、こいつはお化けだったりして?
なにを今更だと思うが、それはそれとして冷静に対応するとするか。
「……ああ、まあ、取り敢えず元気だ。え~と、アンタ、誰だ?」
『俺か?俺はアンタだ。かなり前で、少し後の……かな』
よりによって俺だとほざきやがったか、この怪人は。
ふん。小説とかアニメとかの創作物でよくあるネタだな。平行世界っていうやつか?それとも時空を越えたやつか?そんな使い古されたネタを大真面目にほざくとは大胆な奴だ。
とんでもなくナンセンスだと思ったが、これが不思議なことに目の前の俺だとほざく怪人は正に俺だとどうしても感じてしまう。常識以前の話だが、この際、なんでもアリだと開き直る。
「……そうか。どうでもいいが俺だとほざくなら、その妙な被り物を取って顔を見せろよ、この野郎!」
『……別に見せてもいいが断るよ。何故かは後で必ず分かるからさ。きっと驚いて腰を抜かすこと請け合いだよ。あの感覚はなんとも言えないぐらい新鮮だったよ……だから顔は見せないよ。悪いな』
「そ、そうか?」
『まあ、後で必ず分かるから心配するなよ。ここで一つヒントをやろう。今の俺の姿はアンタから横取りした身体だよ。つまり今のアンタは魂だけの存在なんだな。これが』
なんと!謎の怪人の姿は、『人間そっくりの人形のような身体』なのか?奴の言葉の『本体の制御を横取りできたようだな』って、そういうことなのか?
怪しい怪人の顔は気になるが、必ず分かるなら後でもいいや。確実なことは、この怪人は間違いなく俺だと感じた。説明しづらいが、感覚というか、魂がそう感じてしまうから仕方がない。
「……そうか。アンタは俺か。それじゃ楽しみにするとしよう。まあ、俺も訳の分からない存在になってしまったから、それはそれでアリかもしれないしな。これはこれで納得したよ。で、かなり前で、少し後の俺が、な~んにも知らないアホで間抜けな今の俺になんの用事なんだ?」
俺がこういうと、俺だとほざく怪人は腹を抱えて笑いながら答えた。
『ははは、さすが俺だ。取り乱すこともなく平然と認めやがるか。それなら話が早い。アンタはこの先、少々ややこしいことが多いからな。参考程度に少し忠告しにきてやったんだ。ありがたく思いな』
押し付けがましいがワザワザ来たんだ。理由でもあるのだろうか?
「そうかい。さすが俺だ。おせっかいな奴だよ。で、なに?なんなのよ?」
『……ははは。我ながら俺って面白い奴だよ。いいか、よく聞けよ?』
「ああ、よく聞いてやるからさっさと話せ」
魂だけとなってしまっても取り敢えず聞くことはできる。例え戯言だとしても重大な情報が手に入るかも知れないしな。一言一句、聞き漏らさないように注意して聞くべきだ。
奴は俺に正面にあぐらをかいて座りこみ、静かに語りだす。少し声色が変わった気がするが、どうやら奴も真剣のようだ。
内容は重大どころか驚愕すべきものであった。
『これからアンタに面倒なことが起こり続けるが、それは気にするな。アンタの好きにしていいし邪魔者は始末してもいいからな。これは余計なお世話だが、気に入った女がいたら必ずモノにしろ。アンタはその辺は奥手だが、一度決めたら躊躇うなよ』
「あ、ああ、まあ、努力するさ」
『おいおい……努力して貰わないと困るぞ?それと……これは重大な忠告だ。女は泣かすなよ。それが良い意味、悪い意味含めてな。女は怒らせると厄介で、とても面倒で、しかも恐ろしく怖いぞ?それだけが言いたかったんだ』
おいおい……やけに煽るね。飛ばすようなことをほざきやがる。
女か?女ね……やけに強調するよな?しかし女か……いいな。
こんな俺に果たして出会いなんかあるのかな?
「おいおい、女ってね……こんな俺に出会いなんかあるのかよ?そりゃ俺だって……」
『おい、これを見ろ!』
奴は俺に写真を見せる。
おいおいおいおい……なんだよ、こ、この人数は!
素早く数えてみたら、114人もいるぞ!しかも、どいつもこいつも美形ばかりではないかっ!そうでもないお方も多々居たが、それは大した問題じゃない。
気になるのが、あきらかに外見がおかしな人も居るな。
腕が6本とか8本あったり、角があったりと……まあ、それはどうでもいい。
う、うん?こ、これは……け、ケモノ耳だと!?
おおっ!エルフ耳もいらっしゃいますか!これは大変素晴らしいっ!
「こ、これは!?」
『俺の女どもで、早い話、嫁さんだよ』
な、なんだとっ!?
「ほ、本当でございますか、俺様っ!」
『俺様って……様付けかよ!ああ、そうだよな。アンタの必死さはよく分かるよ。そうだ。全員、俺の嫁さんだ。しかも、この人数だけではないんだな。これが』
「な・ん・で・す・と!?」
『聞いて驚け。もっと無数に居るから』
「……そうなの?」
う、羨ましい。でも、この野郎、俺ってほざいたよな。こいつの話をそのまま信じるなら、未来の俺は輝かしいな。
『まあ、もっとも今から1000年後の話なんだがな』
え?今、なんて言った?1000年だって?
「こ、これは1000年たったら、こんなに?」
『あ?ああ、そう言うことか。もちろん違うさ。1000年かけてこうなったんだよ』
ふ~……そうか。そうなんだ。焦ったよ、この野郎。
そうか、そうなんだ。こりゃ楽しみで仕方がないな。
「そ、そうか。で、未来の俺様、この俺がいつか手に入れるハーレムを自慢する為にわざわざそんなことを言いにきたのか?」
『ああ、そうだよ。自慢しに来たんだよ。ただし、これは可能性の一つに過ぎないから。アンタが努力すればもっと増えるかもな。そこでだ。この俺がアドバイスにわざわざ来てやったんだよ』
「ぜ、ぜひ!聞かせてくれたまえ!」
『……お~お、食いつきいいね。それでは、ありがたく聞けっ!俺は考え過ぎる癖があるからな。まあ、これは次元幽閉の弊害のおかげだがな。地球の常識に拘ると後悔するぞ?後悔するぐらいなら自重するな。おい、分かるか?聞いてるのか?後悔だけはするなよ!絶対に後悔するなよっ!何故なら……クっ、どちくしょうめ!時間か……』
奴は上を向いて虚空を睨みつける。ひよっとこの面の目の部分に光が宿る。俺でも分かる程の膨大な神気を込めた。この場が少し明るくなった気がした。
『よ、よし、これでもう少しだけ時間を稼いだぞ。まだ話せるな……』
まったく訳が分からない。前置きが長くて、とても大事なことが中途半端に思える。結果をいきなり知って動揺したが過程が問題だな。数学の問題だって、答えに至るまでの数式が大切であって、いきなり答えだけ書いても正解にはならないしな。
「……あ、ああ。分かったよ。後悔だけはしないでおくよ」
『……そうか、そうしてくれたら助かるよ。あまり時間がないが、これから後悔しない為に少しヒントをやろう。なにも知らないんじゃ俺が可哀想過ぎるからな。ほんと、苦労したんだぜ?これに気付くまでは……痴態と羞恥の嵐で大変だったよ。アレは辛かったよな……』
な、なんだ?俺に沸き上がるこの不安な気持は?そんなに辛いのか?俺はできることなら辛いことは極力避けたい。
「そ、それは聞きたい!ぜひ聞かせてくれ!これからの参考にしたい!」
『おお!我ながら現金な奴だぜ!それじゃ言うぞ。アンタはなんでもアリだ。思考の具現化。つまり思ったことが全て実現できる出鱈目な奴だ。だから、なんでもアリで、なんでもできる。アンタにできないことはなにもない!敢えて言ってやる。このチート野郎め!』
「ははは、チート野郎って……それって他人を生き返らせることも可能か?」
『あ?そんなものは朝飯前にもならんよ。簡単過ぎて欠伸がでるぜ。無から有を創り出すことだって可能だよ。あ、そうそう、アンタ自身のことなんだが、アンタに死は無縁だ。つまり不老不死だ。なんせ、アンタは神様なんだからな。しかも、最上で最強だ。攻撃でもされたら躱すまでもなく無効にするし、ヘタに本気を出せば世界なんか簡単に破壊してしまうからな。そこのところ注意な。例え、生き返らせるとしても大量虐殺者にはなりたくないだろう?』
「ほえ……そうなの?」
『俺はそれに気付くまで500年以上もかかったんだ。それまでどれだけ救いたい奴を救えなかったか本当に惨めな思いをしたもんだよ。時間はかかったが最終的には全て救ったがね。それでも、あの絶望感と喪失感は二度と味わいたくない。本当に心底狂っちゃって皆に迷惑かけたからな。後のフォローと言うか、ケアが、これがまた大変で……あれはもう、酒池肉林の極みだったな……うん』
ふん。救えなかったから狂って酒池肉林の極みだと?
どうして心底狂った奴が酒池肉林になるのか理解できない。
確約されていることは、どうやら俺の未来はウハウハらしい。
結果ありきの未来だが、そこに至る過程が問題だな。
未来の俺からできるだけ予備知識は確保するべきだ。
「山田家のご先祖様方の能力と経験は?」
『ああ、あれか。あれは細分化した……おっと、もう時間だ。後は自分で気づけよな。なにからなにまで教えたら、この先つまらないだろうが?思考の具現化だけでも破格だよ』
「そりゃそうだな。予め全てを知ったら面白くないよな。ところで、時間に逼迫しているみたいだが、なにがそんなに時間がないんだよ?」
奴はフード越しに頭をポリポリと掻いて、とんでもないことをほざく。
『そりゃ、お前……嫁さん達とイチャイチャする時間さ。あんなに人数がいるんだぜ?一秒でも無駄にできないよ。俺の嫁さん達は、俺にはとても従順で、精一杯の愛情を捧げてくれるが、揃いも揃って嫉妬深いから怒らせると、とんでもなく怖いんだ。本当に怖いんだ。あまり嫉妬を拗らせると肉弾攻撃をお見舞いされるんだぜ?もちろん、愛してはいるが……アレはちとキツイよ』
なんだか知らないが、とんでもなくのろけてやがるぜ。
そうかい、そうなんかい、幸せ過ぎてよろしいことで。
この野郎が俺だとほざくなら、それは未来の俺の姿だ。
孤独と忍耐の日々の俺に輝かしい未来を見せてくれるというのか?
俺がいつか味わう、嫁さんの恐怖が楽しみでならない。
それにしても、肉弾攻撃とは……なにをされるんでしょうか?
そんなことを言われたから身震いが出るな。
しかしだ。俺はまだそんな目に合っていない。
つまり、目の前の未来の俺には猛烈な嫉妬心しかない。
「けっ、そうかい。だいたい分かった。分かったから失せろ、この野郎!」
『おいおい……アンタ、ちょっと想像しただろ?もうやみつきになるぜ。遅かれ早かれ、アンタもこうなるさ。それは絶対に保証するよ。俺の忠告を守れば明日にでもそうなるさ。間違いなくな』
「はいはい。楽しみにしているよ。この野郎!」
『はははは……ふ~……、それじゃ……またな』
謎の怪人は笑いながらも最後はため息しながら消えた。
「ほえ?」
奴が消えたと同時に身体が戻った。
自由に動けることを確認して一先ず安心する。
そして気づいてしまった。
奴は過去に戻る時は魂だけとなり、過去の俺の身体を乗っ取る形でしか俺と話すことは困難なようだ。
それからもう一つ。
明らかに未来の俺とぬかす奴は、今の俺に比べたら弱体化していた。権能がまるで違うのだ。大人と子供ぐらい能力の隔たりがあったように思えた。どう考えても変態野郎と同じ、創造神レベルなのだ。
何故分かったかというと奴の残留思念から読み取ったからで、俺にとって容易いことだった。つまり奴も俺の可能性の一つということか。
確信できたからいいや。奴は間違いなく俺だった。ただし、権能がかなり弱い俺だ。奴の忠告は気になるが参考にはさせて貰うとしよう。
この時は表面的なことしか捉えてなかった。
後にとんでもない苦労と素晴らしい経験と快楽、そしてアホらしい選択を迫られることになるのだが……。
まあ、未来の俺の言葉は心に留めておく。
思考の具現化、常識に拘らず躊躇なく好きなことを好きなだけやる。
最初は戸惑うが、それが俺のウハウハ生活の為なら慣れないとな。
それにしても女か……、女……う~む、楽しみだ。
ああ、また光がっ!どちくしょうめ!、眩しいぜっ!