プロローグと言う名の戯言。 5
まあ、こうなったもんは仕方がない。受け入れるしかない。受け入れるしかないが……、それはそれ。
取り敢えず、積年の怨みを晴らさせて貰うとするか。こいつの言動には散々我慢したんだ。これで奴を思う存分、好きなだけボコってやれるぞ。
思ったより早く俺の願望が叶いそうだ。これも超越神とやらの権能のおかげかな?ははは。
「おいコラ!もう一回言ってみろってんだ!てめぇ、ふざけてるとブチ殺すぞ!この野郎っ!」
言葉を荒らげて怒気を発した瞬間、とんでもないことが起こった。
なにもない空間から一斉にガラスを割ったような音を出した。数限りないガラスが激しく割れる音がする。余りにも喧しいから驚いてしまった。
「うん?な、なんだ、この音は!?」
頭の中で、何十、何百、何億、と数え切れない悲鳴を感じた。次に、ありとあらゆる生物の気配が唐突に消えて行くのを感じる。
『わっ!わっ!どうか、どうかお怒りをお鎮め下さい~!!』
俺のちょっとした怒気で、とんでもないことが起こっているようだ。慌てて怒りを納め平静を保つ。そして、なかったことにするように考えた。たちまち生物の気配を感じた。俺が感じる限り、なかったことになってしまったようだ。
『お怒りをお鎮め下さりありがとうございます。それが貴方様の偉大なる権能でございます』
変態野郎である創造神は、いつの間にか姿を変えていた。
そこには、大層な黒いローブを身に纏い、白い髭を蓄えた立派な身なりをした凛々しい老人が居た。そんな、如何にも神の姿をした奴が、鋭い視線を俺に向けている。
ピコピコする玩具は、いつの間にか大袈裟な形の杖となり、やたらと眩しい光を発していた。まるで、なにかの物語である高名な魔法使いが持つ杖のように見えた。
「……アンタ誰だ?」
俺は警戒しつつ、とても胡散臭い人物に尋ねた。口調もすっかり変った創造神は、丁寧な言葉で俺の疑問に答える。
あの変態チックな姿は、俺を警戒させない為の擬態だとほざいた。何処かずれている創造神に呆れつつ、先ほど起こったことの説明を受ける。
奴の言うことには、俺の怒りの感情が強力すぎて次元の均衡が一気に崩れてしまったそうだ。地球を含めた全ての太陽系の惑星、そして外宇宙、更に関係ないと思うが、なんと別次元の星々、全てが破壊されてしまったそうだ。
俺がなかったと思っただけで、破壊行為は収まった。つまり元に戻ったというわけだ。どうやら思うだけで、実現できる超越神の権能の一端を経験したようだ。
強烈に作用する思考の具現化を無意識に体験してしまった。困ったことに、これじゃ迂闊に怒ることもできやしない。奴が俺を追いだそうとするのも漠然と理解できた。奴の説明が真実なればこそだが……これがどうも胡散臭い。
世の中には神々の世界があるそうだ。一世界に一柱の創造神が、眷属とか配下の神々と共に創り上げるそうだ。そこでは他の創造神は干渉してはならないという、必ず守らなければならないルールがあるそうだ。このルールは誰が作ったルールか分からないが慣例でそうなっているそうだ。
俺はそのルールを破る危険な存在になってしまったようだ。
この世界を創った創造神に干渉する者は他の世界の創造神だけで、それでも一世界に一柱のルールがあるから干渉しないのが慣例だ。たまにルール破りがいるが、些細な小競り合いをしているに過ぎないそうだ。
だが、今回の件はそれ以上のことらしい。そんなことは創造神とて経験したこともない。対処できないから追い出すことにしたみたいだ。
創造神の話を一通り聞いて愕然とした。俺はもう二度と普通に生きることができないことを知った。
『貴方様は私の権能を遥かに超える存在となりました。しかし説明のつかないことがあります。只の人間に過ぎない貴方様に私の権能を超えることは絶対に不可能なのです。この私の従属物に過ぎない貴方様がどうして強大な魂を持ち、輪廻の輪から完全に外れた魂の集合体を持っているのかが分からない。そのような存在は本来なら私の配下か眷属になるはずなのに、遥かに逸脱した存在となりました。私より前の存在が置いていた人形が貴方様に影響を与えているようですが、私には分かりません。大いなる貴方様の異様な神力……私には測り知れません』
奴は呆れ顔で溜息をついた。何処か遠くを見ながら薄ら笑いをした。
説明を受けている内に、俺は不愉快になってきた。俺は異常な存在で理解できない者と言っているようなものだ。始末しようにも始末できない存在になってしまった。それで異常過ぎるし、厄介だからこの世界から出て行けってことなのか?
俺は神なんて信じていなかった。だが、神話は好きだし宗教書は神話を楽しむ為に読んでいた。神とは慈愛と至高の存在だと思っていたが実際は違った。単なる考えなしのアホと知った。とても残念だ。本の内容なんて本当にあてにはならないと思った。
くだらないことで俺の生命が終わってしまった。俺の将来が台無しだ。あのまま過疎の田舎に帰っても百姓にしかなれないが、それはそれ。生きていれば状況も変わるし進展もあるだろう。生きていればこそチャンスもあっただろうし、生きていて良かったと心から思うことだろう。
だが、俺は殺されてしまった。神の戯れの一撃でだ。
勝手に殺しておいて、無限とも思える放置プレイにされ、勝手に化け物にされて、この世界から出ていけと言われた。
随分と傲慢な創造神だ。心から軽蔑してやる。俺の心的外傷も刺激しやがるしな。もちろん、こんなアホな創造神の戯言など無視しても構わない。だが、俺のちょっとした感情がこの世界を破壊してしまう。それは避けたい。この訳の分からない力を制御しないと生活もままならないだろう。
……偽善は止めよう。そんなのは詭弁だ。ただの言い訳だ。
一番の理由は後味が悪いからだ。関わりのない人間とか生物を俺の都合で殺すのは後味が悪い。それだけの話だ。もし、殺ってしまったら、きっと後悔するだろう。でも、もう身内もいないし……あ、いたな。母方の親戚縁者が。しかしあの仕打ちは忘れることはできない。とても酷い目にあったからな。案外、地球がどうなろうがどうでもいいのかも知れない。
自覚はないが俺も神とやらになった。しかも創造神を超える存在にだ。なってしまったものは仕方がない。それは受け入れよう。しかし俺は煩悩に溢れた只の人間だ。17歳の若僧に過ぎない。そんな奴が神を名乗っていいのだろうか?
非常識な運命に愕然としたが、いい加減この空間は退屈だ。なんだかんだ言っても神の権能とやらを試してみたい好奇心もある。不都合があれば何時でも創造神を締め上げることもできるし、奴の提案に乗ってみるのも悪くはないのかも知れない。
実のところ本音は別のところにある。ここじゃ試すことができないことも別の世界じゃ試せる。この世界は一応、俺の生まれた世界だからな。なんて利己的な俺様。そう言う意味では俺も勝手で理不尽な神様とやらかも知れないな。
「で、俺に何処に行けと言うんだ?」
『貴方様の御心のままに。私の管理している次元以外なら、どこでもお好きにどうぞ。お好きな星、お好きな次元、お好きな異世界だろうと行けばいいのです』
本当に見事な無責任野郎だ。逆に清々しさを感じるよ。何処となりと行って頂戴ってオーラが滲み出ているのが分かる。
しかし、便利な目だ。意識したら見えるようになってしまった。感情まで見えるのなら更に便利かもね。特にこういう腹黒い奴を相手にする時には便利だ。
……うん?おおっ!見えるぞ。黒い黒い、こいつの腹は真っ黒だ!余りにも腹黒過ぎて気分が悪い。この品性下劣野郎が!
もうね、本当に都合がよろしいことで……見たくもないのに見える目か。それはともかく、話を進める為に冷静に対応する。
「ふむ……好きなところね……」
創造神は、この世界からの追放を物凄く丁寧に宣告してくれてやがる。言い方は丁寧だが、言葉の端々に邪魔者は消えろと感じられる。このまま留まり、責任をじっくりと追求するのも悪くない。
少し再考する。
神をも超えるのなら無理矢理居座ってもいいだろう。急に手の平を返す奴の態度は俺には逆効果だし、このまま居座って奴を無茶苦茶にしても悪くないと思う。 だが、また感情が爆発したら後味の悪い結果を作り出してしまう。俺はこの妙な力を制御しなくてはならない。別世界でそれを学んでからでいいのではないか?
しかし、このまま『行ってきま~す』ってのも癪だ。
まして、『うわ~い!どんな世界か楽しみだ~』って?あり得ない。
他所の世界に行ってもいいが、その前に俺を殺して放置プレイをしてくれたケジメだけは必ず取るつもりだ。
「おい、創造神様さんよ。アンタの望み通りこの世界から立ち去ってやるよ」
それを聞いた創造神はやけに愛想が良い笑みを浮かべる。その顔に大変激しくムカつかせて頂きました。
「ほ、本当でございますか?それは大変ありがたいですな。私にしてみれば」
本当に一言多いよな。腹が立つが、まだ自分の能力が制御できない。
落ち着け……俺様。何時でもどうにでもできるのだから。
「アンタに一言だけ言っておく。耳の穴をかっぽじってよく聞けよ?」
『はい。もう、なんでも聞きますです。はい』
俺は極めて冷静にそして威圧的に言ってやった。
「確かに人間はアンタが創造した。だからと言って好きにするのは傲慢だぞ。今後ふざけた真似は絶対に許さないからな?アンタの行動は常に見張っているぞ!もし、ふざけた真似をするなら覚悟しておけよ?何処にいようと必ずアンタの存在を消すからな!必ずだ!」
怒りの表情をしつつ、実はそんなに怒ってないけど圧力をかけた。もし奴が少しでもヘマをやらかしたら必ず消してやるつもりだ。
創造神は猛烈な勢いで機械のように顔を上下させている。腰を抜かしてやがるぜ。このヘッピリ腰が。涙目になって狼狽えているぞ?なかなか面白い物が見れた。これはこれで良しだ。まあ、俺はなんでもするし好きにする予定だ。決して冗談では済まされないことを教えてやる。
「分かったか?分かったなら返事ぐらいしろ!なに?分からないのか?ならば、もっと強烈なお話をしてやるぞ。さっそく超越神とやらの権能を試すとするかな?」
『は、はい!よく分かりました!』
ふん。土下座をしてやがるぜ?ガタガタ震えてやがる。
「約束を違えたら絶対に容赦するつもりはない。覚えておけ!」
『は、はい!』
これぐらい言っておけばいいかな?
「納得いかないが納得してやる。俺の生まれた世界だ。壊すわけにはいかないからな。さっさと行くとするか。で、何処か良いところを知らんかね?」
道理もなにも分からないから、世界を渡る方法なんて分かるわけがない。だから素直に聞くことにした。どうせなら楽しいところならいいな。
俺の一般常識は12歳の時にド田舎に引っ込んだ時点で止まっている。伯父の書斎の本は内容が専門すぎるし、古い本が多い。伯父が帰宅する度に新刊を補充して行くが、あくまでも伯父の本なのだ。その中にファンタジー物もあったが、あれが参考になるか分からない。
学校で勉強はしていたが、なにぶん経験不足だ。俺の考える一般常識とは、人と人の交わり中で得られる物だと思う。だが過疎のド田舎ではそれも無理。つまり世間が分からない。
何故か他の村人は俺のことを無視した。俺も積極的には関わらなかった。唯一、伯父の書斎の本だけが俺の娯楽でありオアシスだった。それしかなかった。思えばド田舎ならではの文明が退化した生活だった。
12歳以前の情報と言えば、漫画かアニメかゲームだ。小説もあったし特撮もあったな。ド田舎にはそんな物は皆無だし、あるとすれば伯父の本だけだ。よくもあんなところで5年も暮らしていたもんだ。
じゃあ、なんで逃げ出さなかったかって?
面倒臭いし、俺、未成年だよ?仕方ないじゃん。それぐらいの常識はあるつもりだ。親戚中たらい回しされたし逃げたって行くところがないしね。
それに創造神を超える者って言われても訳が分からない。超越神がどれ程の者だというんだ?偉いのか?まあ、この変態がビビりまくっているのだから余程の者かも知れないが。
さて、どうしたものかな。知識がないから悩むだけ無駄かと思うが。
『進言します!貴方様に相応しい世界があります!』
お?俺に相応しい世界だって?なんだかワクワクしてきだぞ?