プロローグと言う名の戯言。 3
確かに俺は退屈だった。いい加減、進展が欲しかった。だが、こんな進展は期待もしていなかったし予想もしていなかった。
この怪人は俺になにをしたいのか?どうするというんだ?底知れぬ不安が付き纏うのは仕方がない。
『……聞き捨てならんことを聞いたが、まあいいじゃろう。今の儂は機嫌がいいからの。最初の質問に答えてやるぞい。儂はお主ら人間の言う神じゃ。どうじゃ驚いたか?」
「……はは。よりによって神だと抜かすか……はあ?神!?」
これはさすがに予想ができなかった。こんな品性下劣の下種野郎が神だって?とても悪い冗談だ。
何処からどう見ても気色が悪く、手遅れな変態にしか見えなかった。これは決して、俺がおかしいわけじゃないと信じたい。
「……神か。なるほどね」
『ただの神じゃないぞよ。この次元で一番偉い創造神じゃもんね。どうじゃ?凄いじゃろ?』
奴は腹をせり出し、得意気にそう言った。
ああ……あの醜いボテ腹を思いっきりぶん殴りたい。殴ろうかな?殴ってもいいよね?ほら……やっぱりそうだ。へへへ……そうなんだよ。あの腹も俺に殴られたがっているに違いない。きっとそうだ。
はっ!?な、なんだ?これは幻覚か?危なかった。もし本当に殴っていたら情報を聞き出すなんて無理だった。
落ち着け。俺様!
そうだった。冷静にだった。どうもストレスが貯まるな……こんな変態が神だなんて断じて信じられない。しかも創造神とほざくとは、とても信じることができない。
だが、一つ気になることがある。この次元だって?何故か強烈に気になるが今は話を合わせることにする。
俺の些細な気持ちはどうでもいい。今は情報が欲しい。この場合、相手を持ち上げて重大な情報が聞き出すことに神経を注ぐ。
「へ~、アンタが創造神だって?そいつは凄いな~……ホントに」
棒読みで無感動に言ってやった。それはともかく、創造神って言えば全てを創った神か?こんな変態が、俺のいた世界の創造神なのか?
とても残念な気持ちだ。泣き叫びなから逃げたしたい気分だ。
『なんじゃそれは?もっと驚くかと思ったのに張り合いがないのう。まあよいじゃろう。別に隠す話でもないからのう。話してやるぞい。まず、お主の身に何が起こったのか知りたいじゃろ?かいつまんで言うとじゃな、お主は死んだのじゃよ。ほほい~」
ほほい~だって!?
こんな奇声を聞かされるとは思わなかった。この野郎!ふざけているのか?殺してやるぞ!
……いや、落ち着けってば俺様。先に進めよう。先に進めるべきなんだ。
「そうかい?改めて言われると、なんとなくだが自覚できるもんだな」
今の俺の顔を鏡で見てみたい。どんな顔でこんな話をしているのか是非、知りたい気分だ。
『な~んじゃそれは?盛大に驚くかと思ったのじゃが、その反応はなんじゃ?つまらんのう。実につまらん……じゃが、なんと冷静な奴じゃ。理解が早いのは儂としては助かるぞい』
「まあ、あるがまま、そのままを受け入れる性分なもんでね」
『それはよい性分じゃのう。大変よろしい。話を続けるぞい。まずはお主がここにいる理由を教えてやろうぞい』
疑問だが……奴はなにを偉そうにふんぞり返っているんだ?
あっ!あの野郎、股を掻き出したぞ?むむ……粉か?何で股から粉が?あっ!ボリボリと激しく掻き出したぞ!あの粉が俺にかからないように最大限の注意をした。あの変態、ふんぞりながら、山のように貯めているんだぜ?
話をするだけでも腹ただしいが俺が欲しいのは情報なんだ。もっと情報を垂れ流すんだ!おわっ!粉がかかるじゃねぇか!なんて不潔な奴なんだ。さり気なく距離を取ろう……
「理由?死んだからだろ?」
『いやいや、なんで死んだか知りたいとは思わんのかな、お主は?」
そう言われればそうだ。俺は17歳だ。世間一般的に言って死ぬには早過ぎる年齢だと思う。自殺でもしない限り、俺には死ぬ理由がないから尚更だ。死んだ理由ぐらい聞いたって罰は当たらないはずだ。そうでないと俺が可哀想過ぎるよな。
「それは実に興味深い話だ。確かに知りたいな」
『うむ。しっかり聞くがよい。儂はようやくでき上がった自慢の杖に感動してな……』
俺の死んだ理由に杖だと?こいつはなんの話をしているんだ?さっぱり訳が分からないが……ストレスがマッハで上がってしまった。
「杖だと?アンタ、今、杖って言ったのか!?なんの話をしてるんだ!」
『慌てるでない!お主には理解できないかもしれんが、最後まで話を聞くのじゃ。物事は順序よく組み立てなければならんのじゃ。分かったかの?』
おいおい……、これって俺が悪いのか?いきなり杖の話を聞かされても訳が分からんがな。
それよりもだ、こんな変態に道理を説かれるとは思わなかった。不覚だ。まったくの不覚だ。今は素直に自分の失態を猛省せねばなるまい。奴に隙を与えてしまったのだから。なにが冷静だよ。もっと注意しろ!
「……はあ、分かりました。話を続けて下さいな」
『うむ。よかろう。話を続けるぞい。杖のできに満足しとる。最高の杖じゃ。それでな、せっかくじゃから威力を試したいと思うじゃろ?うん?』
「俺に同意を求められても困るのだが……そんなもんかね?」
『うむ。そんなもんじゃ。ところでの、お主の世界に太陽があるじゃろ?自ら光る星を恒星と言うのじゃな。ここまでは分かるな?』
俺だって天文学関係の本なら読んだことがある。むしろ大好物だ。星を見て暇を潰すことなんかザラにあったし、割りと好きだった。
『でな、あれより遥かに巨大な恒星で威力を試そうと思っての。お主のいた地球とは別次元じゃからして影響は皆無じゃしな。儂はありったけの全力で一発ブチかましたんじゃ。お主はどう思うかの?』
なんでこの変態はイチイチ俺に聞くのかな?俺に同意を求めてもらっても訳が分からんがな。不満だらけだが、当初の予定通りに話を合わせて様子を伺うとする。
「まあ、夜空のお星様は光の反射以外、全部太陽だったな。あんなに無数にあるなら、一個ぐらい壊しても影響はないと思うしね。それ以前に、アンタが創ったんだ。だってアンタは創造神なんだろ?壊したって元に戻せると思うしな。違うのか?」
『……ほう。なかなか頼もしい答えじゃのう。確かに儂は創造神じゃ。儂が創ったから好きにするのじゃ。別次元じゃからして、お主のいた地球には特に影響はないからの。ところがじゃ……』
「ところが?」
『派手にブチかましたら杖が暴走しての……凄まじい破壊力だったぞよ。儂でも制御不能になってしまったじゃしな。あれは大変じゃったな……今でも震えが来るぞい……』
「そうなんだ?そいつは凄いな。で、それが俺になんの関係があるというんだ?」
『お主はせっかちじゃのう……話は最後まで聞くのじゃ。暴走した杖……これが本当に大変でのう。膨大な威力が恒星を破壊しても収まらなかったんじゃ。その威力が何故か次元を飛び超えてしまってのう。お主がいた辺境の惑星、つまり地球じゃな。その地球の日本という国にいた、お主の波長と合ってしまったのじゃ。恒星を破壊しても収まらぬ膨大な威力が何故かお主に直撃してしまってのう。お主の肉体は、お主の家ごと消滅してしまったんじゃよな』
「……はあ?」
それはつまり、俺が死んだ原因はこいつの仕業だったのか?俺はこの変態に殺されたというわけか?
チっ、クソが……思いっ切りぶん殴りたい。いや、殺したい。その権利は俺にはあるはずだ!こいつの生命は俺の物だ!機会があれば、必ずブっ殺してしてやるからな!
身体の奥底からモゾリと、なにかが動き出したのを感じた。これはなんだ?背中が、ぞぞ~っと、引きつるような感覚だ。強大ななにかが腰から頭に向かって這い上るように感じる。特に不快ではないが変な感じだ。この感覚はなんなんだ?
……気が削がれた。今はそんなことはどうでもいい。もう少し話を聞くべきだ。なにしろ俺が死んだ原因だから。
「なんで?」
『聞いとらんかったのか?耳の穴をかっぽじってよく聞くんじゃ。お主の世界とは別次元の恒星にブチかまして破壊した。それだけでは収まらず何故かお主の属する次元の地球に住む、お主にブチこまれたんじゃな。もう説明するのは疲れたぞよ』
「それは結果だろ?なんで俺が死ななければならないんだ?」
『そんなもん知らわい。細かいことは気にせんのよ。儂はね』
余りにも無責任な言動に感情が爆発した。声を荒げたのは仕方がない。ここは一発、怒鳴ってもいいだろう。余りにも理不尽だ。俺は怒鳴りたい!怒りをぶちまけたいんだ!
「し、知らんだと?いい加減なことを言うな!アンタはそれでも神か!!」
『儂は創造神じゃ!ただの神ではな~い!』
おっ?逆ギレか?いきなり怒りだしたぞ?なかなかの理不尽ぶりを見せ付けてくれるよな?激しくムカついてきたが、情報が欲しいから謝っておくとするか。
「……これは失礼したな。創造神様さんよ」
『お主!この儂に無礼は許さんぞ!ふん……まあ、いいじゃろう。お主に礼儀は期待しておらんからのう。下品で粗野なカスみたいな人間じゃからのう。仕方なかろうて。なにしろ只の人間じゃからして。ガハハハ!』
「………(コロス、コロス、コロス……)」
『それでどうじゃ?儂の杖の威力は?何十億年かけて、儂の持てる神力を全て注ぎこんだんじゃ!杖の威力は凄いじゃろ?素晴らし過ぎるじゃろう?どうじゃ?うん?どうなんじゃ?』
うん。こいつは典型的な自己中心的な野郎だ。他人の思惑なんか一切考慮していない奴なんだ。話をしているだけで腹が立って仕方がない。存在自体、俺を激しくムカつかせる奴だ。
とんでもなくストレスが貯まるし、いろいろ突っ込みたい。だが、我慢して話を続けさせることにする。
「……ハイ。ソウデスネ。ところで、そのご自慢の杖は、どれなの?」
『うん?ほれ、これがそうじゃ』
それは、あのピコピコハンマーだった。あんな玩具の所為で、俺は殺されたというのか?
何処からどう見てもピコピコハンマーだ。叩くとピコッと鳴る玩具だ。あんなふざけた物で俺は殺されたのか?本当に理不尽だ。価値観も常識も違いするぞ。とんでもなく理不尽だ。
俺はどう突っ込んでいいやら分からなかった。盲点だ。あれは杖だったんだ。どう見ても子供の玩具だ。
アレを創るのに、何十億年もかけただって?暇なのか創造神って奴は?自慢までして、被害者の俺に同意まで求めてやがる。考えられない程の理不尽を体験させてくれやがるぜこのバカ野郎は。
『儂が創った杖の威力には満足しておる。じゃがのう……杖の暴走に巻き込まれたお主が、ほんの少し不憫での……』
その、ほんの少しと、言うところはとても気になるが、 一応、悪いと思っているようだ。こんな理不尽の塊のような奴でも、良心の呵責でもあるのだろうか?
「……なるほどね。それはそうと、放置プレイはなんのつもりだったんだ?」
『おう、それよ、それ。お主、よい質問じゃな。それはじゃ、お主を現世に戻す試みをしていたからじゃな』
話を聞く限りでは、俺を現世に戻す努力はしていたようだ。いろいろ思う所があるが、取り敢えず礼を言っておくか。
しかし元はと言えばこいつが……いや、それはそれ、礼はしなくてはならない。やはり礼儀は大事だ。日本人は礼儀に始まり礼儀に終わるのだから。
うん?俺はなにを血迷っているんだ?こんなバカ野郎に礼儀を感じてしまうとは……俺は正気なのか?やはりストレスは貯めるものじゃない。冷静な判断ができなくなるな。これでは立派な解離性人格障害だ。放置プレイの弊害だな。
「それはご苦労様さんですな。大変ありがたいことで……」
『儂にも面子があるからのう……面倒じゃが仕方なかろうて。そもそもが、儂の不注意でしでかしたことじゃからのう。詫びのつもりで、お主を蘇生する為に四苦八苦していたのじゃからな』
これを聞くと、ますますこの野郎が創造神と名乗ることが疑わしい気持ちしか沸かない。
「でもアンタって創造神様さんだろ?万物の全てを創った神様のはずだ。俺を生き返らせることは簡単じゃないのか?だって創造神なんだろ?人類はアンタが創ったそうだしな。容易いと思うけど、どうなんだ?」
若干の皮肉をこめて言ってやった。すると奴は苦渋に満ちた顔をした。
『ふ、ふん!うるさいわい!簡単ならとっくにそうしとるわい!お主は人間では考えられない強大な魂を持っておるんじゃ!その魂を囲むように何処からか飛来する無数の魂が合体しておる!その魂は儂の創った世界の理から外れた物で全く手出しができんのじゃ!こうして話しをしている間にも更に強大になっておるのじゃからの!』
覚えがある。俺の一族のことだな。けれど、とぼけることにする。特に話す必要性を感じない。創造神ともあろう者が、俺のことを知らないわけがないと思うしね。
なにしろ全てを創造した、全ての神々の頂点のはずだ。全ての理を創った全知全能の創造神に知らないことはないはずだ。少なくとも、ボンクラな俺でもそう思えるのだから。
それがだ。
只の人間である俺のことを知らないと創造神ともあろう者がほざきやがる。
と、いうことはだ。奴はとんだハッタリ野郎だと言うことだ。
究極の嘘つきだな。創造神を自称する嘘つき野郎だ。でも、まあ、それはそれで、情報を握っているのはこいつだ。引き続き話を合わせることにする。
「へ~、それは不思議ですな?俺にはさっぱり分かりませんわ。ははは」
『な、なにを他人事みたいに言っておるか!とにかく、お主は変じゃ!異常じゃ!儂が創った人間のはずが、お主に関してはなにもできぬわ!』
「へ~、そう?それは難儀なことですな。ははは」
変態に変と言われても説得力がありませんぜ。俺は変じゃないが、お前は極め付きのド変態だ。とても理不尽で下衆な変態野郎だ。それに嘘つき野郎だ。
『しかもお主の魂は恐るべき強靭で、杖の威力を全て吸収してしまったのじゃ! 魂はまったく持って強靭じゃが、肉体は耐えられず爆散して消滅じゃ! これだけでも変と言わずに、なにを変と言うんじゃ!』
目を剥き出して大袈裟に言うもんだから、事は深刻な問題なんだろうな。しかし奴はとても盛大な勘違いをしている。
俺は被害者で、奴は加害者だ。そこは間違ってはならないと思うんだ。
「……あのな、そんなもん俺に言ったって知らんよ。それよりも爆散だって?お、おい!俺の元の身体はどうしたんだよ!?」
『じゃから爆散じゃ。綺麗さっぱり跡形もないぞよ』
この変態は悪びれずに、とんでもないことを言いやがった。俺の身体が爆散して既にないだって?
だからか、魂だけの存在になって身動きも取れなかったのかよ。驚愕たる事実を知ってしまった。その情報に愕然としてしまった。