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隣の席の魔王君と近所の勇者ちゃん  作者: きょーすけ
学生生活編
9/18

009 「彼は?」

 透き通った水色の髪をした女が一人の少年を連れて歩く。

 女は赤い眼に白い花柄の綺麗な着物姿で、大きな和傘を差していた。

 水色の髪は後ろで結んでおり、ショートポニーのような髪形をしている。

 絶景の美人だと評しても何の異論もない彼女ではあるが、服装と顔が噛み合わない。顔は和風ではなく洋風のためだ。

 彼女が連れる少年は何処にでもいる普通の少年である。

 服装は灰色のコートに黒いズボンという、何の特徴もない。

 顔も彼女と同じく洋風の顔たちで綺麗に整っており、髪の色は藍色に近い黒髪だった。

 二人は何もない真っ白な雪道を、ただひたすらに歩いていた。

 女の服装は着物で、裾が短い。明らかに寒そうな服装だったが、そんな風に感じられない凛とした顔付きだ。

 対する少年のほうが寒そうな表情で僅かながら体が震えている。

 その光景はますますその場には異常であった。

 だが、二人の仲は(はた)から見て悪いものには見えない。

 むしろ、仲が良さそうに見えた。

「寒い?」

 女が少年に話し掛ける。

「寒い」

 少年は小さく頷きながら答えた。

「もうちょい待ってや。もうすぐで着くから」

 そう言って女は少年の手を力強く握る。

 目指している場所はもうすぐの筈なのだ。

 女は少年の事を想いながら道をひたすらに進む。


「誠」

 事が終わった後、魔王君に呼ばれた。

 目の前にいるのはのびている神成の姿だ。

「とりあえず、放っておこう。てゆうか、急がないと」

 時刻は既にギリギリである。あまり時間は取られていないのが幸いしていたけど、のんびりしている暇はない。

 僕としては少しでも評価に響く、遅刻欠席は避けたいところだ。

「こいつ、なんて言おうとしたんだろうな?」

「僕には分からないけど、多分、魔王君を見たことがあるんだって言いたかったんだと思うよ」

「お前もそう思うか」

 そう言って僕達は足を進みだした。

 僕が先に足を進めたから、魔王君は着いて来る形になる。

「誠は見覚えがあるか?」

「残念ながら僕にはないよ」

「そうか。――だが、俺様には見覚えがある」

 それに関して、僕は驚いた。

 足を止める真似はしなかったけど、目を見開いて魔王君を見てしまう程度には驚いている。

「俺様も驚いている」

 対する魔王君は僕のほうを見ずまっすぐ前だけを見ていたが、少しだけ動揺してるように見えた。

「誠は俺とあいつを。俺様とあいつは誠の事をそれぞれ見覚えがあった訳だ」

「そうだね」

「だが、今回に関しては俺様だけらしい。尚且つ俺様は夢に見た記憶はない」

「まあ、僕に関しても同じ事は言えるけどね」

「そうだが、今回は違うだろう? 顔を見た瞬間は何も思わなかった」

 そう言われてみれば確かにそうである。

 僕達は顔を見た瞬間に、覚えがあると思い出しているのだから。

「ちなみに魔王君はどの時に思い出したの?」

「あいつを吹っ飛ばした光景だな。多分あいつもそうなんだろうが、あれには覚えがある」

 デジャヴ、ってやつかな。

 今回は顔じゃなくて光景なのが少し引っかかるところだけど。

 だけど、答えは僕らには見付からない。

 そのまま沈黙だけが過ぎ去っていき。僕等は気が付けば無言のまま学校に付いた。


 お昼休み。

 僕は体育館に足を運んでいた。

 隣には魔王君がいる。

 結局昼が過ぎたこの時間まで僕等の中で答えが出ることはなかった。

 だから僕は、このまま出ない答えを求めるよりも気分転換に体を動かすのはどうかな? と魔王君を誘って此処に来たわけである。

 周りには結構な人数のほかの生徒もいて、各々各自で色んな遊びをしていた。

「さて、何をするつもりなんだ?」

 魔王君が不思議そうにこちらを見て問いかけてくる。

「バスケット」

 僕は短く答えた。

「やったことはある?」

「まあ、多少はな」

「オッケー。なら、早速はじめよう」

 そう言って僕は小走りで体育用具室にある、ちょうどいいボールを手にして戻っていく。

 ちなみに国府宮学園は何度も言うように全国有数の進学校で、マンモス校でもある。

 それにともなって体育館はなかなかに広い。更に言えば大きな体育館が二つも存在するため、昼休みに使用する上で困る事はそうない。

「オフェンスからかディフェンスからか、選んでいいよ」

 そう言って僕は魔王君にボールを投げ渡す。

 それを危なげなく魔王君はキャッチして軽くボールの感触を確かめていた。なかなかに良いボールハンドリングである。

「なら、オフェンスからで」

 魔王君はにやり、といつものあの笑みを浮かべてボールを構えた。

 威圧感が凄い。

 とてもじゃないが、素人とは思えない気迫である。

 まあ、身体能力的な差は異常な訳だから無理もない。

 そう思っていたとき、心を読んだかのタイミングで魔王君が口を開いた。

「安心しろ。何もしなければ俺様の身体能力はさほど高くはない。そこまでの差はないはずだ」

 僕はその言葉を聞いてなるほどと頷いた。

 魔法での身体能力の強化を行っていたのだろう。それならば、と僕も気合を入れ直す。

「いくら魔王君だからと言って簡単には勝たせないよ」

 僕は笑う。

「面白い」

 受けて立つ、そういったような笑みで魔王君は右手でドリブルを始めた。


 右と見せかけて、左!

「くっ!」

 よし! ドンピシャ!

 僕と魔王君は全くの五分と五分で勝負を続けていた。

 最初は様子見程度に始めた勝負も今では真剣そのもの。会話などほとんどせず互いにボールを追いかけ均衡した勝負を続けていた。

「こ、のっ!」

「なっ!?」

 抜いた、と思いそのままシュート体勢に入っていた僕の右斜め後ろから魔王君がブロックのために飛び込んできた。

 これにはさすがに虚を食らう。

 ――とはいえ、簡単にはやられない。

 ジャンプした時、最高地点でシュートを放つのがある意味理想的だと言われている。

 だが、それを意図的に外すのも悪くはない手だ。

 僕は一度最高地点に達した後、体を無理矢理後ろへ倒れ込むように流す。

 これは魔王君にとっても予想外だったのだろう。魔王君はそのまま前の方へと体が流れて行った。

 シュ、と小さな音を立て、僕はシュートを放つ。フェイダウェイと呼ばれるブロックを避ける技の一つだ。

 パスッ、とボールがゴールに吸い込まれるのとほぼ同時に僕は地面に倒れ込む。あんだけ無理な体勢から打ったのだから着地なんか出来るわけがない。

「す、すげー!」

「なんだ! 今のシュートは!」

 と、地面に倒れた衝撃で今まで研ぎ澄まされていた集中力が切れたようだ。

 いつの間にか出来ていたギャラリーの歓声が耳に入る。少し驚いた。

「大丈夫か?」

 魔王君が右手を差し出す。

 その瞬間、キャー! と何故か黄色い声援が飛び交った。さすがイケメン何をしても華になる。

「ありがとう」

 僕は素直に魔王君の右手を掴み体を起き上がらせてもらう。

「今のはさすがに驚いたな」

 苦笑を浮かべながら魔王君は言う。

「いや、僕もその前に驚いたからね」

「ふっ、それを言い出せばその前に驚いたのは俺様だ」

 そう言って二人で笑い合う。

 今の勝負はなかなかに熱くていい勝負だった。僕のそんな長くもないバスケ人生の中で数えるほどしかない名勝負の一つだろう。

 僕達はお互いの健闘を称え合うかのように握手を交わし、そろそろいい時間だということに気付き、これでおしまいだと再び笑う。

 その時だった。

「君! 和田誠君だろう?」

 ギャラリーの中から背の高い男が僕らの前に歩み寄ってきた。

 魔王君は誰だか分からないといったような表情でこちらを見てくる。

 だが、僕には見覚えがあった。

「はい、そうです。――久し振りですね。樋下(ひした)さん」

「ああ、俺のことを覚えてくれていたか」

 僕はその言葉に笑顔で頷く。

 忘れる筈がない。

 一年の時、全国を競う決勝戦で彼がいる学校と当り僕達は負けたのだ。

 彼はその時、三年生でエースだった。

 対する僕も、その時は一年生ながら次期エースと呼ばれていてポジションの関係上、幾度も戦った。

 結果は惨敗。身体能力以上に経験の差を大きく見せられた試合結果だった。

 とはいえ、恨んではいない。それどころか感謝している。

 彼のおかげで自分に足りないものが明確に見え始めたのだから。

「懐かしいですね」

「ああ、全国では無様な成績を残して申し訳ない」

 そして、僕と彼には共通点があった。

 それは全国で、()と当り、共に負けてしまったということだ。

「いや、そんな事気にしないでください」

「そう言ってもらえると多少は救われる。――ところで、君は勿論バスケ部に来るのだろう?」

「はい。そのつもりです」

「彼は?」

 そう言って樋下さんは視線を魔王君へと移す。

「彼もバスケ部に来るのかい?」

 その問いに僕は答えられない。

 どうなんだろう? 僕はそう思い、樋下さんと共に魔王君へと視線を送った。

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