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隣の席の魔王君と近所の勇者ちゃん  作者: きょーすけ
学生生活編
5/18

005 「……おはよう、ございます」

 魔王君が魔王だと判明した次の日の放課後。僕は面接を受けるべくファミレスへと向かっていた。

 ――魔王君と一緒に。

 何故こうなったのかは、昨日まで話が遡る。


「よう」

 先日と同様、席に着くなり僕は魔王君から挨拶された。

「おはよう」

 しかし、昨日の今日である。僕はその行動を予測していたため普通に返事を返した。

 ちなみに昨日はあの後、特に何事もなかったかのように会話は終わり、帰り際に、

『また明日』

 と魔王君に言われたのみである。まあ、気まずい雰囲気にならなかったので個人的に良しとした。

「ところで」

「なんだ?」

「魔王君はいつからこっちに来たの」

「……」

 おや、表情が微妙だ。何か拙い事でも聞いてしまったのだろうか。

「あ、ごめん。言いたくないのなら別に――」

「いや、その事じゃあない」

 ん? 言いたくないことだった訳ではないのか。それじゃあ、なんでそんな表情になったんだろう。

 僕は不思議そうに首を傾げながら考えた。すると、

「魔王君」

「?」

「魔王君って、なんだ」

 あ。

 僕は思わずしまった、という表情をして慌てて口元を手で隠した。

「まさか、お前俺様の事をそんな風に呼んでいたのか」

 うおおおお。怒ってらっしゃる怒ってらっしゃる。

 なんかゴゴゴ……とかいう効果音が聞こえてきそうな怒りっぷりだ。

 ……あ、やばいかも。

 時間差で僕はじわじわとビビり始めていた。冷や汗がガンガン溢れてくる。恐怖のあまり体が動かない。

「――ふん」

 しかし、僕の心配とか裏腹に魔王君の態度はどことなく可愛かった。

 小さく悪態をつくと逆のほうへプイッと顔を向けてしまう。どう見ても拗ねてる子供の仕草だった。

「んー。何が気に入らなかったのさ?」

 とりあえず、危険はないと判断した僕は原因を突き止めようと魔王君に問い掛けてみた。

「――ない」

「へ?」

「かっこよくない」

 ……はい?

 返ってきた言葉に僕はきょとんとした表情で固まってしまった。

 無理もない。あまりにも理由が可愛らしかったため、僕の思考は止まってしまったのだ。

 暫しの沈黙。

 もしかしたら魔王君なりのジョークだったのかもしれないと思い始めるほどの時間が経過したとき、魔王君が口を開いた。

 ちなみに僕はそうだとしたら笑うタイミングを逃した! と内心あたふた慌てていたのだけど。

「まあいい。お前がそう呼びたいのなら勝手にすればいい」

「いいの?」

「ああ」

 どうやら冗談じゃなかったらしい。

 違う意味での安堵感に小さく息を漏らすと、何故か湧き出てくるのは達成感。

 勝ち負けの話ではないはずなのに、気分は勝ち誇っている。不思議だ。

 魔王君の言葉に機嫌をよくした僕はほくほく顔であった。


「気持ち悪い」

「へ?」

 放課後、チャイムが鳴り終わったと同時に魔王君が急に僕に向かって言ってきた。

 大変遺憾である。

 僕は反論しようと口を開きかけたのだが、そこに魔王君の言葉が重なり僕は無言のまま彼の言葉を聞くしかなかった。

「一日中にやにやにやにや……率直に言おう。気持ち悪い。キモイやキショイでは役不足なほどに気持ち悪い」

「え? にやにやしっぱなしだった?」

「ああ」

 それは確かに気持ち悪いだろう。僕は魔王君の言葉を聞いて申し訳なくなってしまった。

「あ、なんかごめん」

「……元に戻っているから別に構わんが。何か良いことでもあったのか?」

「えー……と」

 僕は考える。

 自覚なしににやにやしていたのだとしたらそれなりに良いことがあったのだろうか。

 しかし、考えてみても見当もつかなかった。

「わかんない」

「なんだそれは」

 苦笑交じりに魔王君は言ってくる。

 なんとなく距離が縮まったような気がした。

「さて、と」

 話も一区切りついたことだし僕は鞄を片手に席を立った。

「ん? 帰るのか?」

 魔王君は僕のほうを見ながら問い掛けてくる。

「うん。バイトの面接なんだ」

「そうか」

 そう言った魔王君はどうやら考えているようだった。

 何をだろう?

 僕は不思議に思いつつ魔王君を見詰めた。

 すると、

(まこと)

 僕の名前をナチュラルに呼んできた。

 さらり、と自然に、だけどっ!

「はははははははいぃっ!」

 僕はいきなりの出来事に過敏に反応してしまった。

 いや、だってすっごい仲良しな感じじゃない! 感動した! ありがとう!

 今にもビール掛けをおっ始めそうなほど盛り上がってる僕だったが、僕を見る魔王君の目が酷く冷たかったので、正常のテンションよりやや下降気味に魔王君を見る。

「それ、俺様もついていっても構わないか?」

「へ?」

 僕は首を傾げる。

 別に構わないけど、なんでだろうか。

「やっぱり駄目か?」

 しゅん、と効果音が聞こえてきそうな感じに魔王君が凹む。

 それを見た僕は全力で横に首を何度も振り、

「駄目じゃない! 駄目じゃない! 全然問題ない!」

 全力で否定である。

 すると、魔王君は満足げに笑みを零し自分の鞄を手に取る。

「行こう」

 笑いながら僕に小さくそう言うと出口のほうへと歩いていった。


 そして、冒頭に戻る。

 途中、何度かくだらない話などしながら僕たちは友情を深めていった。ここまでくると気分は友達である。……ただ魔王君は魔王だということを忘れられなかったが。

「誠」

「ん?」

 ちなみに最中で何度も名前を呼ぶため今ではもう慣れた。最初の頃こそ過敏に反応してしまったが何度も呼ばれれば多少は免疫もできる。少しくすぐったいけど。

「なんでバイトをしようと思ったんだ?」

「あー」

 僕は魔王君の質問に少し時間を掛けて言葉を整理した。

「親に無茶言って一人暮らしさせてもらってるんだ。だから少しでも負担を減らしてあげられるように、って感じかな。まあ、他にも色々理由はあるんだけど大よそそんな感じ」

 とりあえず、そうゆう事にしておこうと僕は思った。条件云々の話は長い上に下手をすればヘチな親と思われかねない。

 まあ、勿論今言ったことも嘘ではない。給料は全額貯金する予定ではあるから何かあったときのための備えにもなる。ある意味負担を減らすことにもなるかもしれないわけだ。

 僕の答えに魔王君は感心したような表情を見せ小さく笑った。

「なかなか偉いな」

 そう言われた僕は名前を呼ばれるとき以上にくすぐったい気持ちになって照れ隠しに頬を掻いた。

「……ん? あれがそうじゃないか?」

 と魔王君が遠くにある赤い看板を指差した。僕も見覚えのあるその看板は間違いなく僕らが今目指している場所に違いない。

「そうみたいだね。……あ、魔王君どうする? さすがに一緒に面接受けるのは無理だし。かと言って中で待つのも微妙でしょ?」

「む。確かにそうだな……まあ、店の前で待つ事にするさ。どうせすぐ終わるんだろう?」

「んー。三十分以内には終わると思うけど……面接僕も初めてだからなあ」

 正確な時間はわからないと申し訳なさを感じながら僕は言った。

 けど、魔王君はそんな事気にもしないようで、

「それくらいなら適当に待ってるさ」

 と笑顔で言うだけだった。

 短期間だけど、本当に仲良くなったような気がする。

 僕はそれが嬉しくて自然と笑みが零れた。

 そして、そんなやり取りをしながら僕達は店へ到着したのである。


 ピンポーン。

 まるでインターホンのような音を店内に響かせながら僕は店の中へと入っていった。

 ちなみに魔王君は店の前で中堅ハチ公のように待っていてくれるとの事である。なんかそこはかとなく贅沢な気分になった。

 店員さんが来るまでの間、僕はざっと店内を見渡す事にする。緊張している事もあり、じっとしてられなかった。

 お客さんの数は夕食前だからだろうか、ぽつぽつといった感じで繁盛してるとは思えない静けさだった。とはいえ、僕の入る時間帯ではないからなんとも言えないのだけど。

「いらっしゃ……」

 僕が明後日の方角を見ながら色々観察してる間に店員さんが来たようだった。だが、言葉がおかしな部分で止まった。なぜだろう。

 不思議に思い僕は声のした方向へ振り返る。するとそこには金髪ポニーテールの、ぼんっ、きゅっ、ぼーんのスペシャルボディが目に入った。まあ、その瞬間言葉が詰まった理由がわかったんだけど。

「……コンビニ店員じゃありませんでしたっけ?」

 真正面から見ると本当に美人なこの方は、青い瞳をぱっちり開けて驚いてる勇者ちゃんである。

「えと」

 勇者ちゃんは僕の問い掛けに気まずそうに口を開いた。

「……クビになったの」

「へ?」

 クビ!? こんな美人さんがなんてもったいない!

 僕は口を間抜けに開いたまま驚きの声を上げた。店長は何を考えているのだろうか。

「実はね、この前、貴方と会ったとき休憩じゃなかったの」

「え」

「しかも、三回目」

「三回!? つまり、三回とも急に抜け出したんですか!?」

 前言撤回。三回も勝手なことをすればいかに美人でもクビにもなるだろう。

 勇者ちゃんは恥ずかしそうに両手の人差し指を胸の前でつんつんしだした。いちいち行動が可愛いなコノヤロウ。

「……っと。ここに来たって言うことは食べに来たのかな?」

 それなら、と席に案内しようと僕に道を勧める。

「いや、面接で来たんです」

 思わず着いて行きそうになったが、本件はそれじゃないので僕は慌ててそう言った。

 すると、勇者ちゃんは「ああ」と納得の表情を浮かべながらぽんと両手を叩いた。

「貴方がそうだったのね。和田誠(わだ まこと)さんであってる?」

「ええ」

 どうやら勇者ちゃんにも話は通っているらしく説明する手間が省けた。

 ちらりと時計を見れば指定された時間の五分前。時間的にもちょうどいい時間だろう。

「それならこっちに着いてきて」

 勇者ちゃんはそう言うなりちょいちょい、とこちらに向けて手招きしながら道を振り返る。

 今の勇者ちゃんの服装は前回の青と白の縞々のコンビにユニフォームではなく、薄いピンク色したYシャツに黒のズボン、そして黒のサロンである。前とは違いやけに大人らしい色っぽい服装であった。

 これがファミレスの衣装なのだろうが僕はこっそりとテンションが上がった。

「この奥に店長がいるから」

 数十秒勇者ちゃんの後を着いていくと、どうやら事務室に着いたらしい。勇者ちゃんはそんな事を言いながら扉を開けてくれた。

 その瞬間、胸が跳ね上がる。

 別にときめきを感じたわけではなく。単に緊張した結果だ。

 初めての面接のため、緊張するのは仕方がない。

「うわー、緊張してきた」

 思わずぽろっと本音が漏れる。自覚すると更に緊張してきた。

「うちの店長、少し変わり者だけど悪い人じゃないから。肩の力抜いていきなさいよ?」

 事務室へ一歩踏み出すと同時に背中に掛けられるやさしい言葉。僕は無言で勇者ちゃんに向かって手を振り、部屋へと入っていく。

 少しだけ荷物が運び込まれていて、入り組んだ道を大した時間も掛けずに進んでいく。

 そして、暫く歩けばパソコンの前に眉間に皺を寄せて無愛想な表情を作っている女性が座っていた。

「……おはよう、ございます」

 どうやら店長さんらしき人のようなので僕は無難に挨拶する。

 顔は可愛いというかかっこいい。女子高に行けばさぞかし同姓に人気があるだろう。

「おはよう」

 短く、そう言う。

 こちらのほうを振り返ってくれたその目は鋭利の刃物のように鋭く綺麗である。

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