萌え属性
沈黙。
訝しげな表情のメイド服少女。
気まずそうにやや斜め横に視線を泳がせる美少女。
「なんで私が?なぁ~んでわたしがぁ~??」
エヴァが視線を逸らし続けるシエラを覗き込み無理矢理目線を合わせて問いただす。
本当に心の底から理解できないのでついつい二度も。
「…っ!だって…私にはこのドレスが着られないのよ」
少し苛立たしげにぼそりと答える。
「なんでですか?確かにこのドレスは着る人間の体型を選びそうですが…
丈…は大丈夫ですよね、シエラさん背結構あるけど、このドレス長めだし。
ウエスト…?いやでもこれはコルセットでしめるタイプだから実際は結構余裕があるし。
あ、わかった!!シエラさんすっごい貧乳なんですね?
そういえばスレンダーですね~グラビアアイドル系の童顔巨乳じゃなくてモデル系ですもんねー」
腕組みをしてフムフムと頷くエヴァ。
むっとした表情で黙り込むシエラ。
「アハハでも大丈夫ですよ、パット詰込めばなんとかなりますって!
たしかに肩だし(デコルテ)のドレスはそれなりに胸が無いと胸元ガバガバになっちゃって滑稽しいですが。ああ、このドレスってハーフカップなんですね。
カップの上半分に胸が無いとストーンって落ちちゃいますねー
でも鎖骨あたりでクロスさせるリボンがあるからそうとう頑張って寄せて上げて、
カップの中は全部パット詰込んどきゃいいんですよー」
パット持ってないなら買ってきますよー?もしくはパンストとか布とかでもいいんじゃないっすかぁ?
手をヒラヒラ振ってエヴァが笑い飛ばす。
しかしシエラの表情は今だ硬い。
「…………。」
「…へ?まだ心配なんですか?とりあえず着てみたらどうですか?パット詰込むの手伝いますって、
大丈夫ですよー私体型補正得意なんですよー家政婦派遣所の先輩達がよくめちゃくちゃウエスト細いドレス買ってきたりして でもどうしても着るって無茶な事いうからこう腹の肉を上の方に持ち上げて胸と一緒にして~」
大袈裟な身振り手振りでエヴァが説明しだすが、シエラはそれを一瞥して黙らせる。
「……シエラさん?」
「―――――――男なの」
沈黙。
「は?なんですと??」
言葉は聞こえたが意味が理解できないのか、ホワーイ?みたいな感じに両手を曲げて広げるエヴァ。
「……っだからっ!!私は男だから胸を寄せて上げようがパット詰込みまくろうが、
肩だし(デコルテ)であるこのドレスの形状からして着るともう流石に無理なの!!
肩とか腰とか身体の線が出る服はヤバイの!!
上からショールぐるぐる巻きつければ平気かと思ってやってみたけどハーフカップの胸元が
ガッバガバでウエストは締めまくればくびれるかもだけどメチャクチャ苦しくて喋るどころじゃないし!!!」
シエラはそういっきに捲し立てるとゼエゼエと息切れしてその場にへたり込む。
床にフリルたっぷりのスカートが広がる。
確かに今彼女(いや彼)の着ている服は少女魂全開っぽいデザインだが、
袖もパフスリーブだし襟元もフリルとリボンでゴテゴテ飾られているレースをふんだんに使ったブラウスを重ね着にしているので身体の線はまったくわからない。
「っつ!!!!?」
エヴァがずっさぁっとシエラから離れ背中を壁にはりつける。
「ちょっ、いや、いやいやいやいや…それはちょっとアリエナイっすよ!
美少女が胸にサラシ巻いて男装するとかなら萌えますが野郎が女装しててもひとっつも萌えませんよ私は!!」
混乱しながらブンブン首を横に振る。
シエラはへたり込んだまま顔をちょっとだけ上げてボソリと呟く。
「…別にあんたの萌え属性なんてどうでもいいのよ」
沈黙。
窓からはやわらかな午後の日差しがそそぎこむ。
光を浴びたドレスは刺繍糸がキラキラと反射し、とても美しい。
しかし
床に座り込んでいる人間にも壁に張り付いている人間にも
それを見て「綺麗だなあ」なんて思う余裕は無い。