「殺人以外はなんでもやります」がモットーの家政婦派遣所
「うあー、めちゃくちゃ高いー!」
やっと依頼人の家に着いた少女はこれから仕事だってのに既に結構疲労していた。
依頼人の家はド田舎の外れも外れ、お隣の家まで何キロですかみたいな場所に建っていた。
しかもそこは使われなくなった灯台を改造して住居にしているらしく
建坪自体はそう大きくないが高さがある。
「あー、これでエレベーターなかったらどーしよー。料金上乗せ請求しなくちゃー」
家政婦派遣所が受ける仕事の大半は掃除洗濯なのでもしエレベーター無し、すべての部屋の掃除をしろなんて言われた日にゃ次の日ものすごい筋肉痛になるのは目に見えている。
「まーそれは請求書送る時勝手に付け加えましょーかね。
てかメチャクチャ遅刻した理由をどう説明しようかなぁ…」
いや まいったねとか言いながら呼び鈴を鳴らす。
ポコーンとかちょっと壊れた音が響く。
そよそよと風が少女の赤が混じったブロンドの三つ編みを揺らす。
元灯台の家の周りには赤い花が沢山咲いていて綺麗だ。
少し待ったが応答がないのでメイド服少女は大きく息を吸うと
「すんませーん!ごめんくださーい!!『殺人以外はなんでもやります!』がモットーのトルネード家政婦派遣所から来ましたー!!でもなぜか制服はメイド服―!」
と 大声量で叫ぶ。
すると家の中からバタバタと足音。
次の瞬間中から乱暴にドアが開かれた。
「ちょっと何バカでかい声で叫んでんのよ!近所迷惑でしょ?!つうか今何時だと思っての?一時間遅刻ってタダゴトじゃないわよ?!」
依頼主はそういっきにまくしたてると思いっきりメイド服少女を睨んだ。
睨まれたメイド服少女は一瞬ポカンと依頼主を見つめる。
もちろん、メイド服少女は怒鳴られた事や睨まれた事に対して萎縮してしまったわけではなく(彼女はそんな繊細な神経の持ち主では無い)
ただ依頼主に見入っていただけである。
そしておもむろにぐっと身を屈め次の瞬間ガバリと起こす。
「っっつメチャクチャ美少女じゃないですかぁ!!!こんなド田舎に金髪碧眼の美少女が生息しているなんて!しかもなんかツンデレ?!萌えキャラ一直線?!」
メイド少女の眼鏡が依頼主にぶつかる位の至近距離で絶賛されても依頼主の美少女は眉を顰めるにとどまる。
もちろん眉を顰めていてもその美しさは損なわれない。
瞳は深い蒼、扇のように広がる長い睫、すっきりと通った鼻筋、強めに結ばれた形の良い唇。それらがここぞという場所に配置されている為まるで絵に描いたように完璧な造作。
長い髪は金色の波のように流れ、ただでさえ美術品のように美しい姿をより一層華やかに見せる。
瞳と同系色のワンピースはふんだんにフリルやリボンで飾られふわりと広がった長いスカートの裾からはレースがこぼれて見える。
(まあ簡単に言うとピンクハウスみたいな感じ。)
こんな甘く可愛らしさ全開みたいな服を着ているのに凛とした空気を纏っているのはすらりとした体型や射竦めるような眼差しがフリフリなワンピースの甘さをちょうど中和しているからだろう。
背もメイド服の少女より頭一つ分は高いので睨まれるのと同時に見下されてもいる。
美人はどんな表情でも美人だなぁ
とかメイド少女が考えてると
「…あんた私の話聞いてた?」
美少女はどうやらキレ気味だ。
「え?ああ、もちろんですよー。いやホントすんません、まさかこんなド田舎だとは思わなくってーアハハー
電車が二時間に一本なんてアリエナーイ(笑)」
いやあまいったまった などとメイド服少女が誤魔化すが美少女は額に青筋が浮いている。
どうやらカナリ怒らせてしまった様子。
「…遅れた分残業しなさいよねっ」
美しい見た目に似合わず声のトーンがさっきからとても怖い。
「ええモチロンです☆残業料は通常時給の1.5倍となっておりまーす!」
「っつ、ふざけやがって…!」
顔のあたりで握り締められた美少女の拳が震えている。
玄関先で一触即発の危機。
「えーとえーと、あ!そういえばお家の周りに咲いてる花、キレーですねー!!
これなんでしたっけ?チューリップ??やっぱ美少女が世話すると花もキレーに咲くとか…」
とてつもなく苦しい話題転換を強行するメイド服少女の言葉がを遮って
「薔薇よっ!!薔薇とチューリップ間違えるなんてタダゴトじゃないわよアンタ!むしろちょっと心配だわ!!」
「あ?あー、薔薇かぁーそーいやなんかトゲトゲしてますねーでもちょっと似てません?花びらが赤いところとか」
すっとぼけたことを言うメイド服少女。
つっこむのに疲れたのか美少女はぐったりと肩を落している。
「…もう いいから、とにかく家入って。」
「はい♪あ、そうだお宅に上がらせてもらう前にスタッフ証明書提示するんでした。
あとこっちは基本料金表とオプション加算料金一覧」
少女は『トルネード家政婦派遣所スタッフ証明書』の文字と役所の判子が押されたプラスチックのカードを見せ、一時間いくらとか一日いくらとか印刷されたビラを渡した。
そして頭ひとつ分くらい美少女の背が高いので下から見上げるようににっこり というよりはニヤリという感じで笑う。
「名乗るほどのものじゃございませんがこれ以上名乗らないでいるとずーっと『メイド服の少女』って記載されてしまうので名乗ります。
エヴァです。本当はもうちょっと長い名前なんですが呼びづらいでしょうからどうぞエヴァと呼んでください」
メイド服の少女改めエヴァは「そうそう」とかいいながら美少女に渡したビラを指して
「オプション料金かかりますがお客様を『ご主人様ⅴ』もしくは『お嬢様ⅴ』はたまた『お兄ちゃん』『お姉様』とお呼びするというサービスが…」
「結構よ!!」
美少女が顔をひきつらせてる。
「つかなによこのオプション!『ネコ耳つけて語尾にニャーをつける』とか何考えてんのよ!!」
「そりゃいかに儲けるかってことを…」
「とにかく!仕事はちゃんとやってよね?!…私はシエラよ」
美少女ことシエラは怒鳴るだけ怒鳴って息切れしつつも『お嬢様ⅴ』とか呼ばれて料金上乗せされないように名乗る事は忘れなかった。