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扉が閉まると同時にシエラはエヴァから手を離した。



「オサワリは別料金ですよ」


と 声を殺した少女の冷たい声。


「誰が好きこのんでアンタみたいな色気のない身体触るのよ」


吐き捨てるかの如く呟く少年の声。


しばし二人は睨みあう。


しかしそんな剣呑な無言のにらみ合いは窓際の寝台からかけられた

低く静かな声によって絶たれた。






「そこにいるのか?」




その声は少しかすれてはいる弱々しいものではなく

意識ははっきりとしているらしい。

いままでにらみ合っていた二人はすぐにその視線を合図のそれに変える。


「…シエラさん、その…思ったのですが」


「…わかってる。幸い人払いもされていることだし

 見えないのなら私が直接『娘』だと名乗って話してもバレないでしょうね。」


ドア付近で短く言葉を交わすと どちらからともなく頷き寝台へと向かう。


死の床に伏せった人間。

命のともし火がほんの微かであろうことは悲しいほど明らかだ。


頬が削げ顔色は土気色だが

結ばれた唇、すっきりとした鼻梁

かなり整った容姿に加えシーツ越しではっきりとはわからないが背もかなりありそうだ。

きつく閉じられているので瞳の色は不明だが髪の色は鳶色。


骨ばった大きな手がゆっくりとシーツからのばされる。



「ここにおります」


枕もとに立つとシエラは初めて相対する父親に静かに声をかけた。

彼の声は少女のそれよりは流石に低いが変声の途中である為か

まだ完全な男の声でもないので大して違和感はないだろう。


なによりも生まれてこのかたずっと少女として暮らしてきたので

娘を演じるというよりもむしろ素である。


シーツからのばされた手を一瞬ためらったのちそっと包む。


その時、横たわった男の表情がぴくりと小さく動いたのだが

枕もとに佇み手を握った少年も

その背後で静かに見守る少女も気づかない。



「…私は」


あなたの娘です。


そう言おうとしたシエラの言葉を伏せった男の小さな笑いが遮る。

不審に思い、シエラが怪訝な表情で問おうとすると

それよりも早く男は口を開いた。


「マリー、ローズマリー。君が最後に吐いた嘘がやっとわかったよ。

 君はいつも嘘を吐くとき眉を下げる。

 『娘といっしょに町を離れる』と君が言った時

 私はてっきり君はこの町にとどまるつもりだと思っていたんだ。

 …君の眉が悲しそうに下がっていたからね。」


低くかすれた声は、誰にともなく一人ごちる。

ベッド横にいる二人に語っているわけではなく独白のようだ。



「マリー、嘘はそこではなかったんだね。」





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