★王様と侍女と執事と医者★
「ふひぃ~、食った食った。あ どうですか王様、調子は」
先刻「協議が~」とか言って退室していた執事が楊枝くわえて戻ってきた。
どうやら今日の昼食はニンニクチャーハンと餃子だったらしく、
「ニラが歯に…」などと呟きながら口を動かしている。
その様子を見た侍女のジョセフィーヌが
「おでこにご飯粒くっついてますよ。それと左頬にはあからさまにツッコミ待ちなナルトが。」
と微笑みながら指摘する。
「おっと、ワンタンスープを急いで飲んだからなぁ」
執事はHAHAHAと大袈裟に肩をすくめ頬に付いたナルトをとろうとするが
ウケを狙ってくっつけてきたナルトは思いのほかしっかりと彼の頬に吸着していて
剥がそうとすると頬肉まで一緒にくっついてくる。
「ん?んんん…??」
ベッドに埋まるように横たわっている王様は
ナルトと格闘している執事とその周辺から漂うニンニク臭に顔をしかめ、
そうでなくても悪い顔色がますます鮮やかな紫に染まる。
「う うえっ…ウ゛っ…すっごいニンニクの臭いがするんだがのぉぉ~…」
「え?なんですって??」
ハア―――――――
ナルト(+頬肉)をつまんだまま王様の鼻先でたっぷりと息を吐く。
…ワザとだとしか思えない。
「ウ゛ウ゛ううっぷ…」
「おやおや王様、お加減よろしくないようですね。 医師はまだ戻りませんか?
おい 誰か!ジョンストン先生をお呼びしなさい!」
涙目になっている王様を尻目に嬉々として指示をを出す執事(ナルト付き)。
「っつこの鬼畜執事が」
涙目の王様が口元を抑えながら毒づくと
「『鬼畜執事』ってなんだかアダルトビデオの題名みたいですね」
クスクス微笑みながらジョセフィーヌ。
妙齢の女性が「アダルトビデオみたいですね」ってどうなのよ。
王様が白目むいて口を金魚みたいにパクパクやりはじめてから数分後、
やっと医者のジョンストン氏が現れた。
「あー、まさかあの鬼姑に加えて出戻りの小姑までもが新妻虐めに加わるとはなー
しかも旦那はちゃらんぽらんで頼りないし。
やっぱりメグちゃんは悩んでいた切痔を神通力で治してくれた八甲田山のイケメン修験者と結ばれるべきだよなァ。」
見たがっていた昼ドラを観賞しつつ昼メシも済ませたらしく腹をポンポンたたいている。
ジョセフィーヌがすかさず席を立ち、ジョンストン医師が提げているドクターバッグを運ぶ。
「あらジョンストン先生、お昼はキムチラーメンになさったんですか?」
「ええ、わかりますか」
ゲフっ とか思いっきりキムチ臭を撒き散らす。
「さてと、あ 王様王様~。王様もご覧になりましたか?
『痔の切れ目が縁の切れ目』、最近の昼ドラじゃ視聴率最高らしいですよー。
私も年甲斐も無くハマってしまいましてね~あのヒロインのメグちゃんが
けなげでねぇ…って王様?なんか黒目どっかいってますよ?」
もしかして具合悪いんですかぁ?
とか医者とは思えない発言。
しかも
「黒目――――くっろっめー真っ黒黒目―、出ておいでー♪」
鼻歌歌いながら王様の頭を鷲掴みにしてブンブン左右に揺らし力尽くで意識を戻させた。
「ウ゛っぐホボへえ゛え゛ぇ…ぐぇグべぇ」
「あ、治った治った」
「おお!さすがジョンストン先生、腕がいい!!」
執事(ニンニク臭)が意識の戻った王様を覗き込む。
「ははは、慣れですよ慣れ」
医者(キムチ臭)が意識の戻った王様の枕元で笑う。
慣れとかで患者を扱わないでもらいたい。
「ぐ グぶ…わ ワシもう…ダメかも…ぴっよぴよぴよぴィ」
焦点の合わない白濁した目で訴えうる王様。
執事と医者は顔を見合わせて口々にうそ臭い励ましの言葉をかける。
「いやいやいや王様、人間けっこう丈夫にできてるんですってこれが。
それにほら、憎まれっ子世にはばかるって言うじゃないですかー」
王様の意識が朦朧としているのをいいことにサラリと悪口を織り交ぜる執事。
「そうですよ王様!まだお若いんですからそう簡単にポックリいくもんですか!
…でもホントやばそうだったら遺書に『優秀な医者ジョンストンに一生遊んで暮らせるくらいの褒賞を与えるように』と一筆さらさらっと…」
ほら痛み止めの注射打ちますからこの紙にさあさあ とか
医者が瞳をきらきらさせている。
「な、なにをなさっているんですかジョンストン先生!!
王様!!惑わされてはいけませんぞ!
そしてもしお手が動かせるようでしたらなにとぞこの書面にサインを…」
優秀な執事は王様の枕元にささっと羊皮紙を差し出す。
羊皮紙には
『我が亡き後、執事のゼファーマンに全ての権限を任す』
と既に書かれていてその文章の下の方に王様のサインを書く欄まで設けてある。
「な!おいいいっ!それちょっと欲張りすぎだろ?!
オレだってそこまでぼったくろうとしてないのになんだよその全ての権限って!」
執事が差し出している紙を見て医者が叫ぶ。
「ジョンストン先生!なんです病人の枕元で騒ぐとは!」
「…執事や、おぬしは本当に用意周到じゃのう…」
顔面紫色の王様は薄めを開けてそう呟く。
「ははぁ!!お褒めいただきありがたき幸せ!!」
「いや、べつに褒めてないし…」
長い溜息をつきながらモソモソと王様が寝返りをうつ。
「あーワシめちゃくちゃ不幸―…
家臣はなんかこんなんばっかりだしいー
朝ご飯のお粥には納豆はいってなかったしい」
「王様!梅干粥に納豆はいってたらキショイでしょう」
「いーんだもーんワシ梅干と納豆の絶妙ハーモニーが好きなんだもーん」
唇を尖らせてそっぽを向く王様。
そんな十代の少女みたいな仕草が死ぬほど似合わない。
「つったく味覚音痴ジジィ…」
溜息をつきながら執事が呟く。
「ええええっ?!ちょっおオマ!!フツー王様に味覚音痴のジジィとか言う―――――?
まぢぃ?!ワシちょーびっくりー!!」
執事の暴言に調子の悪さすら忘れ飛び起きて騒ぐ王様。
それを斜め上から見下しつつ執事が微笑む。
「へ?どうなさいました王様。駄目ですよ、お具合よろしくないのですから
ちゃんと寝ていらっしゃらないと」
微笑むといっても擬態語をつけるとすれば「ケッケッケ」みたいな。
するといつのまにか退室していたらしいジョセフィーヌがカートを押して王様の横へと運ぶ。
「王様、御昼食をお持ち致しました。」
「ん?おお、どれどれ」
粥椀の蓋を取るとなんともいえないニオイがひろがる。
「ニンニク&キムチのスタミナ粥(納豆入り)です」
ショセフィーヌが微笑む。
何やら呻いてから王様はベッドに沈んだ。
梅干粥に納豆はそこまで合わなくない気がするがどうだろう。