門の前
華美ではないが重々しく威圧的な門がぴたりと閉じられている。
開かれる事よりも何者も通さない事が使命であるかのように沈黙している。
小心な人間だったのならその門を開ける事など出来ないであろう。
それほどにその門は無言の貫禄を備えていた。
そんな門の前に人影が二つ。
どちらも若い、おそらく十代中頃であろう。
一人は少年らしく、簡素シャツとズボン。
その上から大きめのフード付きローブをすっぽりと被っている。
表情は影になっているので窺えない が
むりやり隠しているらしい輝く金色の長い髪が幾筋かこぼれでている。
もう一人は少女。
訪問着というにはいささか豪華すぎる肩出しの青いドレス。
風が少し冷たい為、薄手のショールを羽織っているが
華奢な身体もあいまって儚げな印象を与える。
閉じられている門を見据えた大きな瞳、怪訝そうに顰められた眉。
そんな表情だがアク無く整った容姿は十分人目を惹くほどに可愛らしい。
ただ、結い上げてアップにした金の髪だけが妙に不自然だ。
彼らはしばらく無言でその門を眺めていたが最初に青いドレスの少女が口をひらいた。
「でかっ!なんすかコレ、家?家つうか邸?いや、もうなんか城ってカンジですねー」
繊細そうな見た目の雰囲気をぶち壊すような第一声を発する少女。
「…あんた中に入ったらあんまり口開かないでよね」
フードの少年は嫌そうに顔を顰める。
少年の服を着てはいるが、彼のそのしゃべり方や見え隠れする長い髪などは少女のそれのようだ。
「へいへい、わかりやした。…でもシエラさんなんで男装してるんですか?
このドレスが着れなくても『付き添いの友人』ってことでいいじゃないですか」
不思議そうにエヴァが尋ねる。
ドレスに合わなかったので今彼女は眼鏡をかけていない が
どうやら眼鏡は伊達だったらしく特に不便な様子はない。
するとシエラはやや斜め上からエヴァを見下し、彼女のつま先から頭頂部まで眺めると鼻で笑った。
「だって娘より綺麗な友人が横にいたら目立っちゃうし、なんか不憫じゃない」
「あー、そっかぁ!そうですよねー……って」
ポン と手を打ってエヴァが笑顔で頷いたかた思ったら
その表情のままドレスであるにもかかわらずシエラの背中目掛けて回し蹴りをくりだした。
しかしそれは想定内であったのか、ほんの少し身体をずらしただけで
あっさりとかわすシエラ。
かわされたことが意外だったのかエヴァは空振った脚をしばらく空中にとどめていたが
すぐさまそれを軸足に変え今度は右の拳を腰の位置から突き上げる。
まるで踊っているかのように裾の長いドレスがふわりふわりとひるがえる。
腰の捻りを加えた拳はカナリの速さでシエラの顎に決まりそうになったが
今度もあと数センチというところで乾いた音とともに手の平で受けられてしまう。
「むむ お主やりおるな…」
「どうでもいいけど中に入ったら必要最低限の単語以外口にしないでよね」
若い男女がじゃれあっている姿としては
いささか殺伐とした雰囲気が強いというのは否めない。