研究
優香は気分が晴れないまま、鳴海高校を出た。
それから近くのホテルで部屋を取ると一息つく。
濡れた髪をタオルで拭きながらスマホの検索画面を見つめた。
「研究。朝顔」
その単語で検索をかけると何件かの記事が表示される。
「黄色い朝顔は幻の花とされていて、遺伝子を組み込んだ研究で作ることに成功した。だが、新品種として売り出すのはまだ難しい……か」
読み上げながら彼女は首を傾げた。
(そんなに難しい花を茜はどうして咲かすことができたんだろう。図鑑や手紙を見ると朝顔に拘ってるように見えるし)
テーブルの上にあるドライヤーを手に取ると強風が吹き出す。
その風で髪を乾かしながら、去り際の要とした会話を思い出していた。
「そうだ。茜さんの職場の名刺もらったんです。よかったら持っていってください」
そう言って手渡されたのはプラント研究所、佐藤茜と書かれた一枚の名刺。
あっと大きな声を出すと優香は慌てて鞄を漁った。
「よかった。無くしてない」
ほっと胸をなでおろして名刺を見つめる。
「住所も書いてある。明日、ここに行ってみよう」
彼女は明かりを消すと眠りについた。
翌朝、ホテルで朝食をとると名刺に書かれてた住所を検索した。
「鳴海高校の近くだ」
表示された地図を見て呟く。
支度を整えると茜が働いている研究所に向かった。
初めに来た道を通り鳴海高校から少し歩いたところで優香は足を止める。
目の前には白で統一された工場のような建物があった。
その周辺は木々や草花に囲まれていて別世界のように見える。
彼女はその光景に目を見張った。
「ここが、茜が働いてる研究所……」
建物に入ることはできないので、周辺を見て回ることにする。
そこで目にしたのは様々な種類の花、木々だった。
「すごい。まるで植物園みたい」
ぽつりと呟くと後ろから声がする。
「この研究所を見た方はよくそう言われますよ」
肩を一瞬、震わせて振り向くと白衣を着た青年が立っていた。
「あの、あなたは?」
「私はここで花を研究している者です。休憩から会社に戻ろうとしたら、周囲をぐるぐるしているあなたの姿が目に入りまして」
優香は顔が熱くなるのを感じながら、慌てて頭を下げる。
「すみません!私、怪しかったですよね」
青年は目を瞬かせるとふっと笑った。
「別に不審に思って声をかけたわけじゃありませんよ。ただ、何かを探しているように見えたので……」
「あ、実はここで働いている人を探してたんです」
彼女は目の前の青年を見つめる。
(花の研究をしてるって言ってた。もしかしたら茜のこと何か知ってるかも……)
ゆっくりと深呼吸をすると優香は口を開いた。
「あの、ここで働いている佐藤茜ってご存知ですか?」
その名前を聞いた途端、青年は暗い顔をする。
「佐藤茜さんか。確かにここで働いてたよ。三年前まではね」
「え?」
目を瞬かせると彼は視線を下に向けた。
「突然、辞めてしまったんだ。すごく優秀な研究員だったのに……」
優香は言葉を失った。
(茜が仕事を辞めた?要さんの話を聞くと花の研究にすごく拘っている様だった。そんな人が急に仕事を辞めるなんて)
しばらく沈黙が続いた後に彼女は顔を上げる。
「茜が辞める前に何か気になることはありませんでしたか?」
青年は顎に手を当てて考え込む。
「気になることか。そういえば最後に仕事を辞める日、同僚が理由を聞いたときに佐藤さんは自分にはもう時間がないって言ってたそうだよ」
「時間がないってどういう意味でしょうか?」
心当たりのない言葉に聞き返してしまう。
「わからない。けど、ひどく思いつめたような顔をしていたらしい」
「思いつめた顔……」
優香は胸が苦しくなった。
(茜。一体何があったんだろう)




