思い出
園芸部の部室で要に出会った優香は、話が終わり扉から出ていこうとすると突然呼び止められた。
「小川さん。よかったらこれ、持っていってください」
渡されたのは年季の入った一冊の図鑑。
「ずいぶん古い物みたいだけど。どうして私に?」
「その図鑑も茜さんから預かってたんです。昔、親友にもらって返しそびれた物だって。私の代わりに返してもらえますか」
優香は目を見開くと図鑑を見つめた。
表紙には色とりどりの花が写っている。
本を開いてゆっくりとページを捲ると中にはノートの切れ端が入っていた。
手に取ってみると、そこには一言だけアサガオと書かれている。
(何のことだろう?それにこの図鑑見覚えがあるような……)
まじまじと見つめると昔、読んでいた花の図鑑が頭に浮かぶ。
(思い出した。これ、初めて茜に声をかけられた時に読んでた図鑑だ。二人でよく花の話をしてたな)
じんわりと胸が温かくなる。
ふと視線を下に落とすと要が不思議そうな顔でこちらを見上げているのが目に入る。
「あ。ごめんなさい。ぼんやりして。この図鑑は私から茜に返すね」
「お願いします」
彼女は頭を下げると微笑む。
優香は図鑑を鞄に大切に仕舞うと扉を開けて部室を出る。
しばらく歩き椅子を見つけると腰掛けて校内の地図を見つめながら次の行き先を考えた。
(教室はさすがに当時の姿は残ってないか。後は…)
校舎の端に花壇と書かれた文字が目に入る。
(花壇か。茜は花の研究をしてたって言ってた。ここに行ってみようかな)
地図を頼りに校内を歩く。
教室に挟まれた廊下を抜けると外に通じる扉についた。
手をかけて扉を開けると土と甘い香りが花を掠める。
「すごい」
優香は辺り一帯に広がる景色を見て息を呑んだ。
大きな花壇は煉瓦で綺麗に整美され、そこには鮮やかな色の花がいくつも咲いている。
「綺麗。でも……」
花壇を見つめていると彼女の胸は苦しくなった。
脳裏に浮かぶのは幼い弟の顔。
「姉ちゃん。見てよ!僕が世話してた朝顔、こんなに大きくなったよ!」
頬を緩ませて嬉々として自分に伝える颯太。
胸が痛むのをなんとか堪えるために優香は目を閉じた。
「昔は私も花が好きだった。けど、花を見ていると颯太を思い出して辛くなるから、いつの間にか心の奥底に感情をしまって忘れようとしてたんだ……」
大きく深呼吸をするとゆっくりと目を開ける。
先程の胸の痛みは少しだけ落ち着いた。
そして、花壇を見るとあることに気づく。
「あれ?」
いろいろな種類の花が咲いているが、なぜかほとんどが黄色い。
それは種類ごとに花壇で分けられており、一際数が多いのは金魚のような花弁を穂状につけた花だった。
近づいてよく見ようとした時、看板が立てられているのが目に入る。
『この花壇は研究のため、保管されています。花には決して触れないでください』
その言葉通り周囲には人が近づけないように柵があった。
「研究。茜も昔、花の研究をしてたことに何か関係があるのかな」




