再会
唯は目を見開くと頭を下げた。
「勝手ですみません。ありがとうございます」
「気にしないで。私も茜に会うつもりだったから。さっきの話だと今は病院に入院してるんだよね?」
優香の言葉に彼女は頷く。
「はい。自宅から通える場所で入院してます。今から向かっても大丈夫ですか?」
「大丈夫。けど、茜は私に会って嫌な気持ちにならないかな……。私達、喧嘩してから連絡してないの」
そう言うと俯いた。
唯は優しく笑うと首を横に振る。
「嫌な気持ちにはならないと思います。母はよく優香さんの話をしてくれました。その時の表情はすごく嬉しそうでしたよ」
「そっか。ありがとう」
優香は小さく深呼吸をすると立ち上がる。
「では、母の病院に行きましょうか」
二人が家を出て、数十分ほど歩くと大きな病院に着いた。
「ここが茜のいる病院?」
「そうです。面会の申請をしてくるので、中で少し待っていてもらえますか」
唯はガラス張りの自動ドアを通ると中に入っていく。
その後を優香も追った。
室内は白で統一され真新しい壁が目立つ。
中央に置かれた水槽では小さな魚が泳いでいる。
優香は周囲を見渡して受付の近くにある椅子に座った。
そのままぼんやりと水槽で泳ぐ魚を見つめていると、唯が紐のついた透明のパスケースを手に戻って来た。
「お待たせしました。これ、面会者のカードです。首から下げてください」
「ありがとう」
彼女はパスケースに入ったカードを受け取ると首から下げる。
「母の入院してる病室は四階なんです。案内しますね」
唯は少し歩いてエレベーターの前につくとボタンを押した。
白い扉が開くと二人は中に乗り込む。
(茜。会うのは十年ぶりぐらいかな……。どんな反応するんだろう。緊張する)
優香は大きく深呼吸をした。
四階のボタンに明かりがつき、扉が開く。
唯が先にエレベーターから降りるとその後に彼女も続いた。
陽の光が差し込む廊下を歩くと一番奥の部屋で足を止める。
「ここです。先に母に話をしてくるので少し待っていてもらえますか?」
優香は頷いた。
唯は扉をゆっくりと開けると中に入っていく。
「お母さん。調子はどう?」
「すごくいいよ。今日は昼ごはんも全て食べられたから」
扉の向こうから懐かしい声が聞こえてきた。
(茜……)
しばらく会話に耳を傾けていると、突然声をかけられる。
「優香さん。どうぞ。入ってください」
彼女は大きく深呼吸をすると扉を開けた。
「優香?」
そこには病のせいか少しやつれた顔をした女性がベットに座っている。
茜は目を瞬かせこちらを見つめていた。
「うん。久しぶりだね……」
「本当に。何十年ぶりくらいだろう。私のこと覚えてる?」
その言葉に優香は目を伏せる。
「覚えてる。その、あの時はいろいろごめん。酷いこと言ったよね」
彼女は目を大きく見開くと首を横に振った。
「気にしてないよ。でも、こうして会えて嬉しい」
そう言って目元を綻ばせる。
唯はそんな母親の姿を見て何かを堪えるように唇を噛むと明るい声を出す。
「お母さん。私、下の売店で何か買ってくるよ。優香さんと二人で積もる話もあると思うからさ」
「ありがとう。ちょっと待って今、欲しいもの書くから」
茜はベットの近くにある背の低い棚の上からメモとペンを手に取る。
メモの上に文字を書くと唯にそれを渡した。
「お願いね」
「うん。行ってくる。優香さん、お母さんをお願いしますね」
そう言うと唯は病室から出ていく。
二人きりになった優香は何を話していいかわからず戸惑っていた。
ふと、茜が口を開く。
「唯が優香のことを呼んだのよね?ごめんなさい。東京からここまで結構距離あるし。仕事もあるのに……」
頭を下げる彼女に優香は慌てて手を振った。
「気にしないで!茜に会いに来たのは私の意思だから。それに、仕事の方は精神的に辛くて療養のために辞めたの」
「そうだったんだ。今は体調はなんともないの?無理してない?」
心配そうな顔でこちらを見つめる瞳に彼女は昔のことを思い出した。
(昔から茜は私のことを誰よりも心配してくれた。颯太が亡くなって学校に行けなくなった時も、毎日家に寄って話を聞いてくれて)
手を強く握る。
(それなのに私は自分のことに精一杯で茜に何もしてあげられなかった。それどころか酷いことを言って傷つけるなんて……)
優香は首を大きく横に振るとベットの近くにあった椅子に座る。
「茜。唯さんから聞いたんだけど。癌でもう長く生きられないって本当なの?」
手が震える。
彼女は一瞬、目を大きく見開くと俯いた。
「……うん。本当」
「どうして私に書いた手紙送ってくれなかったの?唯さんに聞いたよ。颯太の名前を呼びながら泣いてたって」
優香はそう質問をしてはっとする。
「ごめんなさい。質問ばかりして。困らせたいわけじゃないの。ただ、茜が何をしたかったのか知りたかっただけ……」
茜は優しく微笑むと、優香の手を握った。
「大丈夫。けど、話すと長くなるけどいい?」
「うん。聞かせて」
彼女はまるで遠い記憶を思い出すように視線を上に向けた。




