無意味な交戦
「……いや、何あれ」
物体を見てアベルは呟いた。その物体は海面に真っ直ぐ立ち、まるでタコの腕のようにくねくねと動いていた。
「でか……」
アッルが言った。そのとき、その物体の手前から巨大な生物が海面を割って現れた。体は黒く、岩のような鱗に被われていた。背中には無数の背びれが並んでいる。4本の足がその巨体を支えていた。
「クジラじゃ……ないな……これ……」
アベルが呟いた。生物がゆっくりと目を開いた。炎のような赤い目をしていた。生物が隊員たちを見下ろした。
「戦艦が来た理由がようやく分かった。なんで本部は何も言わなかったんだ」
アッルが呟いた。
「とにかく、あれをなんとかしないとダメってことですよね?」
リカルドが生物を見て言った。
「そうらしい」
アッルが答えた。
「いや、人間がどうこうできる相手か?」
アベルがリカルドに言った。
「やるしかないだろ、こうなったら」
マットが言った。
「そうだな、とりあえずまずは様子を……」
アッルが言いかけたときだった。突然生物の体から熱が発生し始めた。その熱が周りの海水を蒸発させていく。そして、海から蒸気が立ち上り、辺りは霧に包まれた。
「……なんだ?何が起きて……」
アッルが呟いた。怪物は片方の前足を振り、近くの戦艦をいともたやすく破壊してしまった。戦艦は爆発し、炎上しながら沈んでいった。
「ヤバい」
マットが言った。怪物が隊員たちを見た。そして、耳をつんざくような咆哮を上げた。
「怪物だ、逃げろ!!」
隊員の誰かが叫んだ。その瞬間、隊員たちは一斉にその場から走り出した。
「逃げましょう!これは僕たちがどうこうできる相手じゃ無いですよ!」
リカルドはアッルに言った。
「しかし……いや、コイツは無理か」
アッルは怪物を見て言った。
「隊長!早く!」
マットが言った。アベルは隊員たちとともに、とっくに遠くまで逃げていた。今ここにいるのはリカルド、アッル、マットの3人だけだった。
「逃げるぞ」
アッルが言った。
「はい!」
3人は走り出したが、怪物は地面に顔を近付けてきた。そして口を開け、大きく息を吸い込んだ。すると、周りにあるもの全てが怪物に吸い寄せられ始めた。3人は必死に地面にしがみついたが、少しずつ怪物に吸い寄せられていた。
「クソッ、このままじゃ……」
アッルが言った。怪物に攻撃されていなかった2隻の戦艦が怪物に攻撃した。しかし、大砲の弾は全て鱗に弾かれてしまった。
「助けてくれ!」
数人の隊員が地面から手を離してしまい、怪物の口の中に消えていった。怪物は口を閉じた。遠くまで逃げた隊員たちも吸い寄せられたためにリカルドたちの近くまで戻ってきてしまっていた。
「おい……逃げられないっていうのか?」
アベルが呟いた。
「仕方ない……全員銃を構えろ、撃て!」
アッルが隊員に指示をした。隊員たちは銃を構えて怪物を撃った。しかし、銃弾は全て鱗に弾かれてしまった。怪物は涼しい顔をしている。戦艦も何発も弾を撃ち込んだ。しかし、怪物の体には傷1つ付けられなかった。
「ダメだ……このままじゃ勝てない」
リカルドが言った。
「クソッ、どうすれば……」
アッルが言った。その時、アッルが身に付けていた無線機がピーという音を出した。
「無線?こんな時に……」
アッルが無線機を取り出した。
「アッル、聞こえるか?」
無線機から男の声が聞こえてきた。
「本部?今さら何ですか?なんで教えてくれなかったんですか⁉」
アッルが言った。
「すまない、あの怪物を発見したと同時に、通信機に障害が発生したんだ。皆無事か?」
「無事なわけないでしょう⁉あんたらが寄越した戦艦も1隻沈んだ、しかも攻撃は効いてない。なんなんですかこれは⁉」
アッルは言った。
「あれが何なのか、現時点では分からない。戦艦がダメとなると……爆撃機を出そう。もう少しだけ耐えてくれ」
無線は切れた。アッルは悪態をついた。
「あの野郎……」
「隊長、どうします?本部が何か出してくれるみたいですが」
マットが言った。
「……爆撃機が来るまで時間を稼ぐ」
アッルは言った。リカルド、マット、アベルは銃を構えた。怪物の口に再び吸い寄せられる隊員もいたが、3人は必死に抵抗していた。そして、ついにその時が来た。