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30 白雪姫の姉ですが夫が覚醒しました

 ジョンは、負傷したアップルの体を右腕で支えながら、近くにいた車椅子のハンター軍師を見つけて、声を荒げた。


「また妻を、危険に晒したな!」


 ハンターは、ジョンの非難に珍しくうろたえながら、何か弁明しようとした。しかし、うまく言葉にならない様子だった。普段のような不敵な態度は、もはや見えない。


「ジョン、違うの。私がハンターさんに頼んだの。おかげで、ここまで攻撃を避けて来られたのよ。スノーホワイトはどうしてる?」


「恐らく、致命傷だ。王宮前広場で突破口を開いてくれたが、倒れたまま動かない。彼女の体を挟んで、両軍が睨み合ってる状態だ……」


「ああ、やっぱり……。それじゃあジョン、お願い。少しの間だけでいいから、退却して……」


 ジョンはアップルをまじまじと見つめ、両腕で彼女を強く抱きしめる。


「出来るわけないだろ……だってアップル、俺は……俺はお前を愛してるんだぞ」


「えっ?」


 アップルは頬を染め、目を見開く。


「もう、お前がいないと生きていけないんだ。だから……お前を傷つけたやつは、絶対に許せない」


「ジョン、ありがとう……。でも、そうじゃないの。そうじゃなくて……」


 言いかけた言葉は途切れた。アップルの身体はぐらりと傾き、そのまま気を失ってしまった。


 スノーホワイトは重傷を負い、その死は時間の問題だ。恐らく、二度と蘇生しないつもりで、無茶をしたのだ。だが、死んだ彼女の体をサニーに渡せば、どうなるか。


 サニーは必ず、蘇生魔法を使うだろう。死後八時間以内にサニーが魔法をかければ、スノーホワイトは生き返り、傷も全部治る。


 それまで一時、撤退すべきだ。スノーホワイトをいったん、サニーに蘇生させてから、また奪還すればいい……


 アップルは、ジョンにそう言いたかった。しかし、ケガの影響で意識が遠のき、最後まで伝えきれず失神したのだった。


「アップル、アップル⁉  ……ちくしょうっ!」


 声をかけても起きようとしない彼女を、ジョンはそっと地面に寝かせた。


「アップルを治療しろ!」


 公爵軍の衛生兵が走って来て、アップルの傷を手当てし始めた。傷は軽傷だった。しかしジョンは、憎しみに満ちた目で、王宮のバルコニーに立つサニーを見上げた。


「許さん! 全隊、前へ!  俺の覚悟を見せてやる!」

 

 ジョンは公爵軍を率い、再び王宮に向かって前進した。魔砲の第三弾を放とうと魔力を充填していたサニーに向かって、弓兵隊が雨あられと矢を浴びせる。


「んもう、集中できないじゃないのよォ! これじゃ、魔砲が撃てやしない」

 

 サニーは防御魔法で矢の雨を防ぎながら、王宮の奥へと引っ込んでいった。公爵軍はついに城門を破り、王宮敷地内へと突入。革命軍も後に続いた。


「公爵様、農民兵三番隊からの報告です。王妃は、奥の塔へ逃げ込んだそうです!」


「よし、行くぞ! 三番隊もついてくるように伝えろ!」


 ジョンは血走った目で剣を抜き、わずかな手勢を率いて塔へ向かう。

 

 敵兵を斬り伏せながら塔の階段を頂上まで駆け上がると、そこはかつてのスノーホワイトの幽閉部屋だった。


 カーペットは毛がむしり取られ、壁と窓には引き裂かれた純白のカーテンが掛かり、そして部屋の中央には、逆さまにひっくり返された天蓋付きベッドが放置されている。

 

「ふふっ……しぶといわね、田舎貴族! でも、これで終わりよ。魔砲兵隊、全弾発射ァァァ!」


 待ち構えていたサニーが、いくつもの光弾を室内で一斉にぶっ放した。蛇のようにシュルシュルとうねりながら、魔砲はジョンめがけて飛んでいく。

 

 だがジョンは、すべてを見切っていた。


「そんなもんが、当たってたまるか!」


 アップルを傷つけられた怒りに燃える、ジョンの覚醒はすさまじかった。鬼神のごとく剣を振り回し、当然のように光弾を全弾斬り落としながら、サニーに向かってなおも突進する。


 サニーの顔に焦りが走る。


「な、何なのよ、この偏狭者ォ! 剣で光を切るとか、物理的におかしいわよッ!」


 サニーの体はふわりと空中へ浮き上がってジョンの斬撃をかわした。カーテンをくぐり抜け、窓から外へ脱出する。


 飛行魔法で浮遊しながら、サニーは高笑いしていた。その手元には、あの赤黒い宝玉があった。


「まだ終わってない……そうよね? また、助けてくれるのよね?」


 その頃、キョースケ、ホーチキ、レンタローの三人は、巨大な凧に乗って滑空し、空から塔へ殴り込みをかけようとしていた。


「おい、王妃が窓から出てきよったで!」


「俺様が一番近い。叩き斬ってやるぜ! 待てオラァァァ!」

 

「闇討ちの五段活用、地遁(ちとん)水遁(すいとん)火遁(かとん)風遁(ふうとん)……空遁(くうとん)は、空から斬り捨てて御免ッ!」


 地上で凧糸を操作していたナイト、ムサシ、ゲンシュウの三人も、サニー王妃に気づいて、彼女を取り囲むように上空の凧を巧みに寄せていく。


「ひぃィィィっ!」


 サニーは、残った魔力を振り絞って瞬間移動魔法を発動させ、さらなる逃亡を図った。

 

 一方、王宮内の回廊。


「うーん、どっちだったかな。こっち?  いや、あっち?」


 三宮ミョウガ率いる農民兵三番隊は、ジョンの部隊とはぐれ、王宮内で迷子になっていた。


 ミョウガは適当に角を曲がると、突き当たりのドアを開けた。するとそこには、鏡の間に瞬間移動してきたばかりのサニーがいた。


「へ?」


「へ?」


「……ど、どうやって入って来たのよォォ!」


「やい、神妙にしやがれい。道に迷っても、ブシドーに迷いはねえぞ……あれ、カタナがない⁉」


「何しに来たのよあんた……命が惜しけりゃ、その扉をそっと閉じて、おうちに帰んなさい、僕ちゃん」


「うー、こうなったら……」


「こうなったら?」


「……飛び蹴りじゃあああああ!」


 ミョウガは短く助走を付けて飛び上がり、サニーめがけてドロップキックを繰り出した。


 サニーはとっさに防御魔法で身を守ろうとしたが、ミョウガの足が一瞬早く、サニーの手元と脇腹をかすめる。


「グエーッ」


 したたかに蹴りを食らったサニーの手から、赤黒い宝玉が滑り落ちた。


「あっ、ダメ! それだけはっ……!」


 あわてて宝玉を受け止めようとするサニーの両手が、むなしく空振りしながらもがいた。地面に叩きつけられた宝玉は、乾いた音を立てて割れ、粉々になる。破片からは、黒い煙が浮かび上がった。


「ああっ、あああああァァァッ!」


 サニーが涙目で絶叫する。煙は、まるで生きているかのように集まり渦を巻きながら、窓の外へと消え去っていく。


「ああ、竜王 ……また、出ていっちゃったのね……」


 煙のゆくえを見届けると、サニーは魂が抜けたかのように、その場にへたり込んで、茫然自失の表情となった。


 三番隊の農民兵たちが槍を構え、王妃サニーに槍の穂先を並べて突き付ける。サニーは気力も魔力も尽き果てた様子で、もはや身動きもせず、反撃してくる様子はなかった。


 知らせを聞いて塔から駆け付けたジョンが、彼女を押さえ込んで捕縛する。


「これで、あなたはおしまいです。義母殿」


「く、くやしい……こんなはずじゃなかったのに……スノーホワイト……スノーホワァァァイトォォォォッ!」


 その時、魔法の鏡がまぶしく輝き始め、鏡面に金文字で、新たな字幕をデカデカと表示した。


「クイーン万歳 クイーンに栄光あれ」


 サニーを王妃(クイーン)として(たた)えているのか、あるいは、次世代の女王(クイーン)を祝福しているのか。


 鏡のメッセージは、どっちにも解釈できる代物だった。


 ジョンは静かに剣を収め、うつむいて床に崩れ落ちるサニーを見下ろしながら、心の中で独り思った。


(……アップル、お前を傷つけた者は、ちゃんと報いを受けたよ。これからも俺がお前を、そしてこの国を、ずっと守る……)


 しかし、その王宮の遥か上空で、黒い煙の塊が妖しくうごめき始めていることには、まだ誰も、気づいてはいなかった。

残り2話! 次回、スノーホワイトの生死は……?

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