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<3>

1998年12月

もうすぐクリスマス、というある日の夜。


そこは今はもうないけど、それほど客が来ないゲーム屋さんでした。


駅の裏の道を進んだ、目立ちもしないビルの……2階だっけ?

私も偶然知ってからよく足を運んだ。


いつ行っても客はおらず、店員は若いにーちゃんだけ。

たま〜に男性客が2人いたかな?


ある意味コアなお店でした。



その日、仕事帰りの18時に寄ったのは、野次馬根性からだった。


「ニュースでみたんだけどさー」


そう言いつつ、見つけたゲームソフトをレジカウンターにいるにーちゃんに向けてぴらぴら


「コレって売り切れてんじゃねーの?」


私が持っていたのは「マリオパーティ」

数日で完売した理由、それはクリスマスプレゼントに購入する人たちが多かったから。


「なぜか売ってるんだよね〜」


最後のひとつだというそのゲーム


興味はないが「あるんなら買お〜」ということで店内用カゴの中へ


私はどこの店でも『店内一周見学ツアー』を楽しむ。

それでやはりレアなのに売っているゲームソフトを見つけてカゴの中へ


ウィーンとドアが開くと、珍しいお客さん2人組がおずおずと入ってきた。


どう見ても、ゲームと縁のなさそうな高齢者夫婦。


「いらっしゃいませ〜。何をお探しですか〜」


にーちゃんが丁寧に声をかける。

私だろうとほかの人だろうと、そんなことひとっことも言ったことないくせに。


「あー、えっと」


タイトルが分からないものの、「売り切れていて探して回っている」ということを言っていた。

彼方此方(あちらこちら)を探し回ってて、諦めて駅に向かおうとしたら偶然この店を見つけたらしい。


ここで私とにーちゃんのアイコンタクト。

この店は商品棚が130センチほどの高さで、私が背伸びしなくても店内が見渡せる。

そこでレジに視線を向けると、助けてあげたくなるようなじーちゃんとばーちゃんの姿。

カゴに入れていたゲームソフトを手にして揺らすとにーちゃんが頷く。

やっぱり探しているのはマリオパーティらしい。

腕を大きな丸をつくって合図。


「あっちにいるお客さんがさっき手にしていたので、お願いしてみたらいいですよ」


聞こえていながら気づかないふりをしつつ、棚の商品を見ている風を装ってその場から動かない私。

いろんなゲーム屋を探し回って疲れていたのか、ちょっとふらつきながら支えあって私の前へ。


「すみません、そのカゴの中のゲームを譲ってください」


「お願いします」と深く頭を下げる2人。


「あったから買おうと思っただけなんで、欲しいならどうぞ」


そう言いつつ、入れていたゲームを2つとも見せる。


「ああ、こっち。こっちです」


半泣きで震える手を伸ばしたのはマリオパーティ。

レジへと促して、レジのにーちゃんに視線を送る。

にーちゃんは軽く両手を合わせて感謝を示すと、マリオパーティの会計を済ます。


すぐにばーちゃんのカバンの中へと入れると、また私の方へやってきた。


「無事に買えました、ありがとうございます」


「外は暗いし寒いから、気をつけて帰ったほうがいいよ」


何度も「ありがとう」とお礼を言いつつ、レジの前でもにーちゃんにお礼を言って帰って行った。



「悪かったなー」


レジからにーちゃんの声。

声を張り上げなくても聞こえるくらいの広さなんだわ。


「いやいや、あったから買おうとしただけ。なきゃ買わんでもいい」


ちなみにこの時点でカゴに入っているのは『玉繭物語』と『マジカルテトリスチャレンジ featuring ミッキー』

ミッキーの方がこれで最後。

さっきマリオパーティと一緒に見せたのはこのミッキーのゲーム。


「ミッキーがなくなる前にレジ通そ」


その考えは正しかった。

会計中にやってきた男性客。

ミッキーのゲームが欲しかったらしい。

残念ながら、すでに会計も済ませて店のロゴ入り袋に入れる直前だった。


「それ、買うから譲ってくれ」


そんなセリフでは譲りません。


「もう金払ったから」


「キャンセルすればいいだけだろ」


「いやですよ。っつーか、金払ったからコレはオレの。手を出したら窃盗で警察呼ぶぞ」


夏ならお胸がどーん! だから、「オレ」と言っても「女のくせに」と言われただろう。

しかし、クリスマス直前で、店内では上着を脱いでいる私も、19時近くだから帰ろうと思って分厚いコートを纏ってた。

(この店では、店内に入ったらレジ前でコートを脱いで、帰りにレジ前で羽織る)

だから、「オレ」と言ったら男だと思い込んだ様子で、悔しいのかお口をムグムグ。

これまた、ゲームをしまったリュックは男用……?

買い物のときはたくさん詰められて便利な、大きめの黒い45リットルリュック。

出張のときもこのリュックひとつに着替えを入れて行きました。


色気?

そんなの育てたことないし、恥じらいは家でお留守番です。


「また()んね〜」


にーちゃんに手を振り、それでその日は帰宅。

来たときに欲しいゲームの入荷日を確認したし、置いといてくれるよう口頭予約したから。



数日後の昼間、入荷予定のテイルズを買いに行ったら「あいつ謝ってたぞー」とのこと。


少し前に礼儀正しく頭を下げて「譲ってください」とお願いした老夫婦のことを話したらしい。

その人たちには快く譲っていた私に、自分がとった態度は偉そうに「譲ってくれ」


「そりゃあ、誰だって譲りませんよ」


そう言ったら、ひどく落ち込んでいたらしい。

やっぱり探してて、会計していたから慌てていたんだそう。


「頭のひとつでも下げたら譲ったのにねー」


「とは言っといた」


そういう融通はしてくれる。

もう一度言う、私は「どうしてもそれが欲しい」というゲームは少ない。

その分、買ったゲームはいつまでも遊び続ける。


だから、先の老夫婦みたいにどうしても購入したい旨を伝えれば良かっただけ。

「一発芸見せろ」などとは言わない。

それに、よほどのことがなければ取り寄せてくれる。

マリオパーティにしたって、クリスマスと重なるから足りなくなってただけで、1月中旬には普通に出回るだろう。


さっきも言ったとおり、「欲しいなら譲っても問題はない」のだ、私は。

ただし、「頼むならそれ相応の態度」ってもんがある、って思うのよ。

これがまだレジを通す前ならともかく、お金を払って、お店の袋に入れようとしたところでしょ。


「ところで取り寄せは?」


「やっぱりきづいたか」


23日、つまり今日の午後には届くらしい。

それを聞いて取り置きを頼んで行ったそうだ。


「結局騒ぐことなかったじゃん」


多分、ゲームや雑誌などの『お取り寄せ(バックナンバー)』など知らないのだろう。

口頭で可能なところもあれば、注文票を書くところもある。

取り置きが可能な店もある。

棚にない、在庫がない。

それで終わり、二度と手に入らない、のではないのだ。


「テイルズだけで良かったか?」


「桃伝も今日だっけ?」


()()じゃないぞ」


「おけおけ」


鉄道ゲームとRPGを間違える人っているんだよね。

自分が間違えたのに、店に怒るバカもいる。


「来年のアンジェのRPG、私()()だから」


「んー?」と言いつつ予定表をチェック。


「2月のか?」


「そ、プレイステーションのやつ」


「恋愛じゃないのか?」


「RPGだよ」


「恋愛になってるぞ」


「じゃあ、恋愛RPG?」


「前の恋愛ゲームじゃないんだな?」


「ちゃうちゃう。今年の春に別機種で出たやつ」


あんな歯の浮くようなセリフを言われて恋愛などできん。

ちなみにこの前作、というのか。

新宇宙の女王選択の恋愛ゲームは「新宇宙の女王は立てない」で終わらせたのはここの私だ。

「誰かを犠牲にして成り立つ世界など冗談じゃねぇ」というのが私の意見。

一番初期に気に入ったキャラがいたから、彼との恋愛を成就させたくて遊んだ経験はある。

別のキャラを選んだことはないし、二巡で気が済んだ。

そんな私がこのゲームを購入したいと思ったのは、(ひとえ)にRPGだったから。


「RPGとパズルゲーム以外に興味はない」


「だから桃鉄ではなく桃伝なんだよなー」


桃鉄は弟とやったかな?

そう言っていたら、特集ページが掲載された雑誌を見つけてくれた。


「確かにRPGのようだな」


「でしょー?」


いま調べたのも、予約に来た人に「恋愛シミュレーションではない」と事前に伝えるため。

見つけたページ(と言ってもキャラの基本情報などが記載されてる程度)を確認してもらって、購入後に「思ってたのと違った」という苦情を避けるらしい。


「で、コイツがー」


「ネタバレ披露するな!」


「いいじゃん、ここにいんの(ヤロー)ばかりなんだし」


私の言葉に店内の客3人、大爆笑。


「残り一週間、良いお年を〜」


「お互いな〜」



あのときクリスマスプレゼントで受け取ったお孫さん

楽しく遊んでくれただろうか?

喜んでくれたら、寒い中を探し回っていたあのじーちゃんとばーちゃんも嬉しかっただろう。

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