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41.マクドナルドの3つの罪・後編

 今回も引き続きマクドナルドについて。前回では「追加のナゲットソース有償化」「えだまめコーンがイマイチ」とマックの罪を二つ挙げさせてもらったが、今回挙げる三つ目はそれらとは比較出来ないほどの大罪だ。それでは前回同様、マクドナルドの運営の方は正座しながら読んで頂きたい。




『3.サムライマックの炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフが終売になった』


 自分が考える「自分」と、他人から見た「自分」は一致しないものである。それどころか、かけ離れていることも往々にして。口にした時の響きが良いので「筋金入りのてりやき喰い」を自称し続けている私だが、実は最近はあまり食べていない。気が付いたら5年近く疎遠な状態が続いている。原因はJ-POPの名曲「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」や「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」と同じくらい長ったらしい商品名の「炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフ」。その長い商品名に名前負けしない美味しさを持ったこいつは大人気シリーズ「サムライマック」のレギュラーメニューとして2020年4月に登場。以来、長きにわたりその定位置を守り続けたマクドナルドのスター選手だ。


「肉厚ビーフ」と銘打ったパティは今までのマクドナルドらしいジャンク感はなく、ガチのハンバーガー屋さんで食べるような本格派。「おいおい、マックさんよ。こんなガチな、こんな真面目なパティで来るなんて」と、最初は面食らったものだ。パティ一つをとっても充分過ぎるほどの肉々しさで溢れてるのに、更にベーコンが2枚も加わるとその破壊力たるやトールハンマー級。それをこれまたマックとしては最上位の濃厚で攻撃的なソースで頂くので胸焼けしそうなものだが、トマト、レタス、玉ねぎ、そしてチーズを挟むことでくどさが消え、お肉たちとソースの美味しさが更に引き立つ。まさに奇跡的なバランスの上に成立している傑作だった。


 こいつが発売された当時の私は確かに嘘偽りない「筋金入りのてりやき喰い」。期間限定商品を除けば常に「てりやき一択」なブレない男だった。ところがこいつとの出会いが全てを変えた。初実食では美味しいと思いつつも「マックにそんなものは求めていない」「ペラペラとまでは言わないまでもチープなパティこそがマックの良さなんだけどな」なんて素直になれない自分がいたが、「この前のやつ、また食べてみるか」を繰り返しているうちに気が付けばヘヴィーローテーション。結果、何十年も頼み続けていたてりやきの注文数が激減した。仮を頼むことがあるとすれば連日のマクドナルド通いからくる「炙り醤油風疲れ」が来た時くらいだ。それほどまでに頻度が減った。

 こうして長年連れ添ったてりやきを裏切ってまで「炙り醤油風~」に走った私。「愛してる」なんてありきたりの言葉ではその情熱を表現しきれない。強いて言うならば、そしてシブがき隊風に言うならば「Zokkon 命 LOVE 」(ゾッコン・ラブ)だ。もう、炙り醤油以外見えない自分がそこにはいた。


 割とよく知られた話だが、マクドナルドは指定した具材を抜いてもらったり、逆に追加してもらったりとカスタマイズの自由度が高い。例えばピクルスやオニオンの追加、または無くす事が出来るし、ハンバーガーソースの増量も可能だ。ポテトの塩を増やしたり、塩が全くかかってないゼロソルトモードへの切り替えも出来る。「Zokkon 命 LOVE 」になった私はこれを利用し「炙り醤油風~」をカスタムするようになった。先ほど述べた「奇跡的なバランス」のその先にある更なる高みを目指して。


 あれこれと試してみた結果、チーズ抜き、トマトを1枚追加するやり方に私は辿り着いた。チーズを抜くことでより和のテイストが強調される。ただ、それが抜けた分ソースの濃厚さが強く前に出過ぎるのでそれをトマトで抑えるといった塩梅だ。トマトの増量によりベジタブル感が強く出るので、マックとは思えないラグジュアリーさも生まれる。まさに至高の一品だ。

 問題は570円の単品価格にトマトトッピング1枚40円で驚異の610円と、これまたマックらしからぬお値段。さすがに心のどこかで「ちょっとお高いな」と怯んでしまう。と言いつつも、美味過ぎるからついつい頼んでしまう魔性の小悪魔的ハンバーガーだ。このカスタムに気付いた当時、こんな怖ろしいものを生み出した自分の才能に恐怖したものだよ。


 ちなみにトッピング等に関してはルール改定がちょくちょくある上に店舗の裁量でやったりやらなかったりするケースもある事は心にとどめておいてもらいたい。おそらくこのエッセイを読んで下さっているブラザーの皆様の中には多くの「筋金入りのマクドナルド喰い」がいらっしゃる事だろう。「注文時は紳士たれ、食べる時は野獣たれ」が真のマクドナルド喰い。店員さんに「出来ません」と言われたら大人しく店のルールに従うのがスマートな作法だ。決して「他の店舗ではやってくれた!」なんてごねる様な醜態は晒すべきではない。そうやってお店に迷惑が掛からない様な配慮をした上で上手くそれを利用し、各人、お気に入りのハンバーガーの更なる高みを目指して欲しい。

 

 さて、そんな「Zokkon 命 LOVE 」だった「炙り醤油風~」が今年の3月に突然の終売。この訃報に対し私は只々呆然とするばかりだった。当時を思い出すと今でも怒りで震えるし、同時に悲しくて胸が締め付けられる。「俺の炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフを返してくれ!」と叫びたくなる。 

 終売を知り、最後に必ず食べに行こうと固く心に誓った。「俺と炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフのラストギグス」をやらなければ。この5年間を締めくくる、とびっきり熱いギグを。しかし、現実は無常だ。結局、都合がつかずに食べられないまま終売の日を迎えた。そう、奴との別れは「さよなら」も言えないままだ。



 終売の理由を想像してみたのだが、どうやらマクドナルドでトマトを扱うのを止めたのが原因らしい。トマトトッピングの終了も同じタイミングでアナウンスされていた。確かにトマトは水分が多いゆえに扱いが難しい。物理的デメリットとしてそれが引き起こすベチャベチャ感、味覚的デメリットとして味の希薄化が挙げられる。それにトマトありきのラインナップのモスと違い、「炙り醬油~」や一部の期間限定商品でしかそれを使わないマクドナルドでは廃棄ロスが出やすい食材だろう。それを無くすだけで現場のオペレーションがかなり楽になり、会社としてもコストが下がるのは分かる。しかし、もっとトマトの可能性を深掘りして欲しかったのが私の本音だ。


 この件に関しては完全にアウト。前回で大好物と言っていた「パティ+玉子+ベーコン」の組み合わせを搭載した「炙り醤油風たまごベーコン肉厚ビーフ」がこいつの穴を埋めるべく登場したわけだが、通年でそれを食べられる喜びよりも「炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフ」を失った喪失感の方が遥かに大きいというのが素直な気持ちだ。マクドナルドの事情もあるのだろうが、日本全国の炙り醤油風愛好家から生きる喜びを奪った凶悪性は情状酌量の余地もない。「ギルティ(有罪)」とゴルゴ風に言わせてもらおう。


『4.ケバブ風チキンバーガーの再販の可能性がなくなった』


「マクドナルドの罪を3つ数える」と最初に言ったわけだが、4つ目の罪が見つかったのでついでに。個人的なマクドナルドの最高傑作は2つある。先ほどまでグチグチ言ってた「炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフ」、そして2022年の期間限定商品「ケバブ風チキンバーガー」だ。

 名は体を表すようにチキンにケバブ風のソース。タコスあたりにも言える事だが、私はチリパウダーを使ったこれ系の味付けに目がない。販売開始をワクワクしながら待っている時、たまたまある動画を目にした。CMに出演していた岡田准一氏がマスコミ向けのCM発表会で「これはマジで美味いです」と連呼している動画だ。その姿からはあきらかにリップサービスなんかではない熱量を感じた。それは単純に一人のハンバーガー喰いとしての心の叫びだった。ひょっとしたら彼も我々と近しい魂を持つ同志なのかもしれない。「岡田氏ほどの男がこれだけ熱っぽく語るのだから必ず食べないと」と、期待感は更に高まる。そして実際に食べに行ったら見事にハマった。こいつは美味過ぎた。

 

 当時の商品説明を引用すると「ガーリックや唐辛子など5種のスパイスを効かせたケバブ風のピリ辛ソースと、まろやかなスイートレモンソースがチキンと野菜のおいしさを引き立てる」とある。香辛料系を全面的に前に出したアプローチは基本的にこれ系のジャンクフードと相性が良いのは疑いようがない。特に注目すべきはチリ(唐辛子)とトマトだ。この組み合わせがとにかく「噛み合う」のは世界中の食卓が証明している。今こうしてる間にもアラブ圏ではケバブソース、ラテンアメリカではサルサソース、イタリアではアラビアータ、そして日本ではカップヌードル・チリトマトヌードルと色んな国の色んな料理で絶賛活躍中だ。このハンバーガーもその方程式に乗っ取り、チリを使ったケバブ風のピリ辛ソースと間に挟まれたトマトが良い仕事をしている。それらが屋台骨となり、チキンやその他の野菜をより一層美味しく感じさせる。このありふれた凡庸とも言えるチリとトマトの組み合わせが「ケバブ風~」を非凡なものへと昇華させるのだ。


 マクドナルドの期間限定商品の命はセミの命のように短い。この前食べて、また食べようと思ったらもう終売しているのが常だ。そう分かっていたからその夏は通い詰めた。休日の昼はこればかりだった。結果、4回食べに行った。その時は「こく旨かるびマック」と「ワイルドビーフバーガー オニオンリング&チーズ」も同時に提供されていて、そちらも一回ずつ食べたのにこの数字だ。それらがなければ6回食べた事になる。何にせよ、田舎にUターンしてからは1シーズン2回が期間限定商品の記録だったが、ダブルスコアで新記録樹立。これはもう未来永劫抜かれる事はない偉大な記録、アンタッチャブルレコードだ。


 ただ、こいつとはもう二度と出会う事が出来ない。そう、トマトがないからだ。マクドナルドからそれが失われた今、それ抜きで「ケバブ風チキンバーガー」を再構築したとしても似て非なる物しか生まれないだろう。仮にレタスを増量してその穴を埋めても、間違いなくバランスの悪い珍妙なやつしか生まれない。「偽ケバブ風チキンバーガー」と蔑称すべき代物だ。くどい様だがチリにはトマト。それがなければ腑抜けたやつしか生まれない。トマトがない「ケバブ風チキンバーガー」なんて「仏作って魂入れず」的な表面だけを取り繕ったフェイクでしかない。きっと、岡田君だってトマト無しなんて認めないだろう。

 

 割とよく知られた話だが、岡田氏はブラジリアン柔術の達人だ。マクドナルドではちょくちょく昔の商品を復刻販売してるので、いつかトマト無しの「偽ケバブ風チキンバーガー」が販売されるかもしれない。そして再び岡田氏がCMに起用されたら?もう、悲劇が起こる予感しかしない。


「リニューアル」という言葉は物事を改悪する際によく使われる。CM発表会で司会進行役から「岡田さん、リニューアルした『ケバブ風チキンバーガー』はいかがでしょうか?」と振られて首を傾げる岡田氏。


 それが紛い物である事、そして同時に愛する「ケバブ風~」を辱められた事に気付き、「こんなものは『ケバブ風チキンバーガー』じゃねえ!」と憤慨する岡田氏。


 それでも収まらない怒りから司会進行役に関節技を決める岡田氏。


 今度はそれを止めに入る関係者をちぎっては投げ、ちぎっては投げる岡田氏。


 そんな日本の芸能史に残りそうな凄惨な事件が起こるかもしれない。しかし、非暴力主義者の私でもそれを止める事は出来ない。何故なら私も「ケバブ風~」を愛する者。同志として彼の心の悲しみが分かるからだ。


 この同志・岡田が愛する至高のハンバーガーを二度と日の目を見ない存在に貶めたマクドナルドの罪は重い。ゴリッゴリの重罪だ。


『5.ハンバーガーにトマトトッピングをやってみたかった』


 更にもう一つ。「ノーマルなハンバーガーにトマトをトッピングするとモスバーガーっぽくなる」との話を聞いてたので一度やってみたかったのだがもう出来ない。嗚呼、やれるときにやっておくべきだったよなあ。意外と未練があるのでこれも重罪でお願いします。




 このようにマクドナルドが犯した5つの罪(当初比66%増量)を数え上げてみたが運営の皆様、どうだろう?今回も正座してた足が痛かったのではないだろうか。しかし、前回でも言ったように我々の心の痛みはその比ではない。是非とも猛省して頂きたいものだ。


 と、ここまで私の「魂の叫び」を綴ってみたのだが、それを聞いても全く意に介せぬビジネスライクな運営の方もいらっしゃることだろう。それにカスタマーハラスメントが問題視されてる現代。私みたいに理不尽な事を言うクレーマーには毅然とした態度を取るのが会社として正しい対応だ。

 よし、それなら北風と太陽の寓話ではないが、押してダメなら引いてみなだ。運営の方が長時間の正座で屈しないのなら、奥の手を出そうではないか。


私が土下座しよう。


 伊達に社畜時代に鍛え上げられていない。自分で言うのもなんだが、私の土下座は誰よりも美しい。眼前に差し出した両の手を流れる様に床につけ、その勢いに任せ額を床に擦りつける一連の所作は優雅としか言いようがない。それはもうアートの領域、眼福の極みだ。

 そんな本気の土下座をしながら下記の主張をさせて頂きたい。


 「私の炙り醤油風 ベーコントマト肉厚ビーフの販売を再開して頂ければ幸いで御座います」

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