ダディブレード3
今章はここで終了です。
明日の登場人物紹介更新後は書き溜め期間に入りますので、再開までしばらくお待ちください。
剣渡したし娘はもう大丈夫だな。良し! ……とおじさんは思っているので次回からは再び我が道を行くと思います。
この剣は『風の竜晶剣』と言います。
剣としての構成は先ほどお伝えした通りですが、この大剣の最大の特徴は柄の鍔部分に装着されている魔法具にあります。
中央に緑の魔石がはめ込まれた銀の花の装飾は、兄切草の魔石をコアとしたティーナさんの眷属である鉱植物系魔獣シルヴァーナそのもの。その魔石内に埋め込まれているのは、予定していたグランドアースドレイクではなく、グランドウィンドドレイクの魔石核です。
ティーナさん曰く、凛さんには土よりも風の方が相性が良いだろうとのことでしたので、こちらを採用いたしました。
ちなみにグランドアースドレイクの方は緑魔石だけを新しいものに変えて私が使用しております。一応『大地の銀花』という名称がつけられました。
発動時の魔石の核の光が緑と橙色という差はありますが、同じシルヴァーナを使用していますので凛さんと私のはお揃いですね。みんなが幸せになれる選択がここにありました。
「すっごく綺麗。ねえ吉野さん?」
「は、はい。これは……その、もはや芸術品ですね」
凛さんと吉野さんもうっとりして見ております。はい。ですが、飾らずにちゃんと使ってくださいね。そのために用意したのですから。
「精霊銀はともかく神霊銀? この量を使って? 待って。これだけでできた剣って数千万、いや億は……それに妖精の造った魔法具って……フェアリーアーティファクト? 妖精郷の遺跡物? いや、アレよりも明らかに艶がある。ああ、なんてものを……」
「パパ、ママどうしたの?」
「さあ? サプライズ成功ということで良いんでしょうか?」
佐世子さんの反応が予想以上に過剰です。
「サプライズ? サプライズね。うん、まあ……そうね。成功しちゃったわね。うふふ、ママ驚いちゃったー」
「やったねパパ」
「やりました凛さん」
私と凛さんがパンと手を叩き合います。
学生時代から佐世子さんに驚かされる事はあっても、驚かせることができた事はほとんどありませんでしたからね。こういう佐世子さんが見られたのは、少し嬉しいです。
しかし今の佐世子さんからは私の担当の沢木さんと同じ気配を感じます。もしかすると、お仕事でお疲れなのでしょうか。
「風の魔力を感じる。恐らくはウィンドウォール……いや、ウィンドアーマー付与。多分速力と防御を上げてくれる。投擲防御も……応用次第では攻撃にだって……ああ、そうか。グランドウィンドドレイクの魔石だものね。そのぐらいはできるか」
「佐世子さん、そういうのは分かるのですか?」
「うん。ま、私のスキルによるものだけど。だから前島グループのダンジョン系列を任されることになったのだけれどね」
なるほどスキル……それで目が一瞬金色になったのですか。やはり今の世の中、ダンジョンと探索者が中心に動いているのですね。
「精霊銀と神霊銀の剣だけでも高額だし、魔法具がセットの武器……これが異世界産ならオークションで普通に十億は超えるわね。善十郎くん、流石にソレは……と言いたいけど、先ほどの話からして自前で用意しちゃったのよね?」
「そうですね。プライスレスです」
ガンテツ工房の制作も素材提供で済ませていますから実質ゼロ円ですね。その言葉を聞いて、佐世子さんの眉間に皺がよります。悩めるお年頃ですか……と思ったら、睨まれました。やはり佐世子さんは鋭いですね。
「ママ? 駄目なの?」
「うーん、いや……貰っておきなさい。正直に言って今回のことは私も肝が冷えたし、凛に用意できるものとしてそれ以上のモノをウチでは出せないわ」
「へー。パパやっぱり凄いんだー」
ウチではというのは前島グループでは、ということですよね。そんなに価値のあるものなのですか。
「シーカーデバイスがあればダンジョン内で盗まれるなんて事はそうそうないでしょうけど、ダンジョンの外では騒がしくなるでしょうね。まあ、剣一本ならウチでなんとかできるだろうけど……ただ、多分最終的に注目は善十郎くんの方に向けられると思うわよ?」
ジロリと睨まれました。まあ、凛さんに危険が降りかかるよりは私に向けられた方が良いのですけれど、そこまで警戒するものなのでしょうか。
「頑張ります……が、やっぱり問題になりますか?」
「ならないとでも? 善十郎くん、ティーナちゃんを表に出して、ちょっと前にも狙われたでしょ」
ああ、そこら辺も掴んでますか。
さすが前島グループです。
「その上にこれよ。一応言っておくけど異世界産の魔法具の中でも、フェアリーアーティファクトは英国経由のゲート先からしか基本的には手に入らない希少魔法具なの。外に出ることはあまりないし、ウチなら金でねじ込んで娘のために一本……ぐらいの言い訳はなんとかできるけど、あなた増やすでしょう?」
「まあ」
戦力増強は必要ですしね。できればラキくんとティーナさん、フォーハンズ用も用意して戦力増強を図りたいと思っています。というかグランドアースドレイクの方はもう普通に使ってます。
「ま、困ったことがあれば連絡ちょうだい。できる範囲でなら手助けはするわ」
「お手数おかけします、佐世子さん」
「うーん。パパ大丈夫?」
凛さんが心配そうな顔でこちらを見ていますが、大丈夫です。
「問題はありません。佐世子さんも、凛さんも知っているユーリさんも助けてくれますからね」
「先生も!? なら安心だね。パパも先生とお友達だったんだ」
「ええ、とても良くしていただいております」
佐世子さんが少しばかり引き攣った笑いを浮かべておりますが、本当にちゃんと良いお付き合いをさせていただいておりますよ。不誠実な事はしておりません。
「だから遠慮せずにソレを使ってください。その剣は凛さんを守るために用意したものなのですから」
「うん。ありがとうパパ! 僕、この剣をパパだと思って大事にする。だからこの剣は斬れるパパ、そうザンジューロー。君の名前は今日からザンジューローだよ」
凛さんが嬉しそうにそう言って、風の竜晶剣を見ています。私の名前から取ってくれるというのは嬉しくもあり、気恥ずかしくもありますが、風の竜晶剣ザンジューローですか。風のマタサブローみたいで格好良いのかもしれませんね。
ともあれ、これにて凛さんへのプレゼント作戦は完了です。結果は大成功でした。
佐世子さんの言い様からして、ティーナさんの魔法具は思ったよりも希少なものの様で、もしかすると厄介ごとがやってきそうではありますが……まあ、まだ探索者になってから日は浅いですが、私もそこそこの経験は詰んだという自負はあります。これまで以上に慎重に行動していれば、そうそう問題は起きないでしょう。はい。大丈夫です。
【次回予告】
少女の道。
それは英雄の道。
人々を救うための荊の道。
そして男は託したものの意味、その大きさにも気付かず、己の道へと戻り始める。
男の願いはひとつの頂点。煌めく一番星。
故に本道は揺らがず、己が願いのためにただ前へと突き進む。