ダディブレード2
ちょっと小振りで装飾華美な我が師、導きの月光的なデザインと思えば大体合ってる。
「十日ぶりですね凛さん。お怪我の方はもう大丈夫なのですか?」
「うんパパ。僕はもう全然平気だよ。みんなパパのおかげだねー」
ニッコリと凛さんが微笑んでおります。その笑顔が見れただけでも助けた意味はあったと思えます。
それにしても、グランドアースドレイクに追いかけ回されていた凛さんもあの時は軽傷とは言い難い状態だったはずですが、今ではピンピンしておりますね。やはりダンジョン産の医療技術というのはすごいものです。
「今日は学校休みだったけど、事務所と打ち合わせがあったんだよね」
「凛さんは学生で、メイチューバーですから、そういうこともあるでしょう」
学生でありながら、探索者でメイチューバーです。若いのに二足どころか三足の草鞋を履いているのですから、それはもう大変なのでしょう。
「ウチはそういうのに理解ある学校だから融通は利くんだけどねー。でも最近は色々と立て込んでたからね。あ、ティーナさんにラキくんもいる。ふたりのポスター、事務所に貼ってあったよ」
「あー。それってユーリが持ってきたヤツかな?」
「そーそー。多分それ」
ティーナさんもおが肉所属ですし、大型新人として売り出しておりますからね。
最近では小型のラキくんもお供にと映ってたりします。まあティーナさんのソファー代わりに座りながらエーテルをずっと舐めてたり、そのまま眠っているだけなのですけれども。それが良いと大変評判のようです。
「そうなのですか。ユーリさんからは凛さんには、ティーナさんやラキくんと組んで潜ってもらうことも考えていると聞いています」
「おーシスターリンとフェアリークィーンのコラボだねー。やったー。ラキくんも一緒だねー」
「キュルッ」
ラキくんも右手をフリフリして同意しておりますし、佐世子さんも吉野さんも温かい目で見ております。まあその時には私も一緒に行くことになるようですが出演はせず、吉野さんと同じボディーガードとしての扱いとさせていただきました。おじさんの顔なんて見せても仕方ありませんからね。
「仲良くやれそうで良かったです。それにしてもメイチューバーであることもそうですが、凛さんが探索者だったというのには驚きましたよ」
「うーん。黙っててごめんねパパ。心配させたくなかったし、パパのお仕事的にもNGかなって」
「まあ、そうですね。前職は確かに身内にそうした方がいることも忌避されていましたから」
社長の方針でダンジョン関係はとことん駄目でしたからね。迷宮災害の被災者の受け皿という社会的立場もありましたから、仕方のない面もあるのですが……いや、もう前職のことは気にしなくても良いのです。今の私は自由なのです。
「それはそれとして知りたかったとは思いますけど」
「うーん。パパは僕が探索者やってるのは嫌?」
「危険なことではありますし、気にならないとは言えません」
凛さんが少しだけシュンとなりました。
「とはいえ、同じ探索者になってしまった私が咎めるのは筋違いですし、凛さんが自分で選んだのなら反対はいたしません」
「ホント!?」
一応、経緯は佐世子さんからも電話で聞いております。前島グループ……というよりも昨今の富裕層の間では覚醒施術を行うのはもはや常識的なことなのだそうです。レベルをそれほど上げずとも身体能力の向上はしますし、十分に身の安全を守りやすくはなりますからね。加えて有用なスキルが手に入る可能性もあります。
ちなみに凛さんは直感スキルというものを授かったそうです。身体強化や集中などと同じようにシンプルで強いスキルなのだとか。
そこから自分に才能があることを見出した凛さんは自ら探索者の道を歩んだとのこと。凛さんの探索者としての教育係だったらしいユーリさんからも凛さんが真剣に努力していることを聞いております。
ポスターのキャッチに感銘を受けてなんとなく探索者になった私が反対できるはずもありません。
「何よりも探索者としては凛さんの方が先輩ですからね」
「うん、僕、先輩だ。へへへ」
「とはいえ、だから心配ではないというわけではありません。今回のようなこともあります。だから」
そう言って私は部屋の片隅に置いておいた荷物を持ち上げて、それを凛さんに手渡しました。
「これを受け取ってほしいのです」
一応武器の持ち込みは佐世子さんを通じて許可を得ています。中身までは佐世子さんには見せていませんが、ここは前島グループ系列なのでスルーパスでした。なので彼女たちも今この場で初めて見るわけです。驚いてくれますかね。
「ん? 何? 重い?」
「ふふーん。中身を見てよリン。私も頑張ったんだからねー」
ティーナさんの言葉に頷いた凛さんがカバーのチャックを開いて中身を取り出します。
「中身は……え? これって剣? いやガラス? 宝石??」
中身を取り出してビックリしているのは凛さんだけではありません。ふふふ、佐世子さんも、吉野さんも目を丸くしていますね。サプライズ成功です。
「精霊銀を骨子にした、薄く透明な神霊銀の刃の大剣です。鞘も薄く伸ばした神霊銀製なので盾代わりに使えますよ。どうです? 凄いでしょう?」
「精霊銀? は……分かるけど神霊銀? ちょっと、善十郎くん。この量は? それになんで緑色に淡く輝いているのよ!?」
佐世子さんがガン見です。ふふふ、佐世子さんが驚く顔なんて珍しいですね。少々愉悦を感じてしまいます。
「精霊銀と神霊銀は私が採ってきたものですね」
「緑色に光ってるのは柄の部分の私が造った魔法具から魔力が流れてるからだねー。発動すると、もっと光るわよ?」
「造った? ティーナちゃんが!?」
あ、佐世子さんが過去に見たこともないような顔で驚いています。ははは、サプラーイズですよ。サプライズ。うーん。あの……佐世子さん? 少し驚き過ぎじゃないですか? その顔、ちょっと怖いですよ?
【次回予告】
強き力は只人の因果をも捻じ曲げる。
されど父は娘のためにと望み、手渡した。
本質は未だ目覚めず。されど竜の鼓動は響き渡る。
それは呪いか、或いは祝福か。
そして少女は、英雄の道を知らず歩み出した。