ヨコドリハント7
卵のその後については2話先で判明します。
「ふぅ、やりましたね」
今更ながらではありますが、全身から冷や汗が出ていることに気がつきました。
何しろ、今回はこれまでの戦いの中でもっとも危険な相手でした。様々な要因があれど、最終的に私が勝ったのは運の要素が大きかったと思います。状況次第では私たちが全滅していた未来も十分に可能性はありました。まったく恐ろしいことです。
ですが勝ったのは私たちです。ラキくん、ティーナさん、フォーハンズの力があっての、チームの勝利です。勝って生き延びたのですから、今はソレは素直に喜びましょう。
おっと、ティーナさんが飛んできました。
「やったわ。よくやったわねゼンジューロー。転移が使えないのには焦ったけど、倒せて本当に良かったわ」
「はい。そうですね。転移も万能ではないと、きちんと調べておくべきでした。まさか阻害されるとは思いませんでしたよ」
「まったくだわ。原因はあのドラゴンの発していた攻撃的な魔力のせいね。アレがジャマーみたいに転移座標の指定を阻害したの。こちらからあちらに飛ばすのはできるんだけど、距離があると発動させるのが難しい感じだったわ」
なるほど。距離が問題であると。であれば、ティーナさんも一緒に戦えば……というのもそれはそれで難しいですね。
今回の戦いでティーナさんがラキくんやフォーハンズについていっても一緒に尻尾の一撃でふっ飛ばされていたでしょうし、ティーナさんの小さな体ではそれだけで死んでいた可能性もありました。
私と一緒というのも難しいです。彼女は時間遅延解除にはついてこれませんから。
まあ転移スキルは片道切符でも十分に有用ですし、それを前提条件として作戦に組み込めば、今回のように右往左往することもなくなるでしょう。
「ともかく、反省点はあるものの勝てて何よりです。ティーナさんも、ラキくんも、フォーハンズもご苦労様でした。全員の力あっての勝利です」
「8〜9割はゼンジューローの力だと思うけど。ただ、このクラスを相手にするのは、私たちではまだ荷が重いわね」
「そうですね。さすがにランクA魔獣とされるだけの力はあったと思います」
私の収納スキルとティーナさんの転移スキルがあれば対処は可能でしょうが、奇襲からの即死狙いで仕留めきれないと、その後の対応がかなり厳しくなります。
遠距離攻撃の火力向上、それにラキくんとフォーハンズの地力を上げればある程度は安定しそうですが……
「そこは今後の課題といたしましょうか。グランドウィンドドレイクについてですけど魔石は持ち帰りで、その他の素材は運び屋組合にお願いしたいと思うのですが、ティーナさん的に持ち帰りたい素材はありますか?」
グランドウィンドドレイクの魔石だけは是が非でも持ち帰りたいのですよね。帰りに兄切草獣を造ってもうひとつ緑魔石を手に入れれば、魔法具がもうひとつ造れますからね。
「うん、それでいいんじゃないゼンジューロー。卵は良いの?」
卵を孵してテイムする……ということもあるそうですが、基本的にテイムはスキルと紐づいていますので収納スキルしか持たない私ではティーナさん以外の従魔契約はできません。ティーナさんと契約解除する気もありませんし、売り払うしかないでしょう。いえ、もしかすると……
「ティーナさん、卵を割って中身の魔石を取れば魔法具は造れるのでしょうか?」
「うーん。育ってないどころか生まれる前の幼竜だからねぇ。私にはちょっと無理かなぁ」
「そうですか。じゃあ売ってしまいましょう」
惜しい気もしますが、高く売れそうですし、ここはキッパリ諦めましょう。
「そう? ちょっと勿体無い気もするけど……まあいいわ。それでゼンジューロー。ドラゴンは倒したけど、元々の目的である遺跡はどうするの?」
おっと、ティーナさんのその指摘はごもっとです。
今回私たちがここにきた目的はそもそも未探索の遺跡の探索でした。それにグランドウィンドドレイクとの戦闘は苛烈でしたが、私もまだ遺跡のさわりを調べる程度の余力はあります……が、先ほどの戦闘で実は見えてしまったのですよね。
「それはまた今度といたしましょうか。どうも、すぐに入れるような状態ではないようですし」
そう言って私が視線を向けた先を見たティーナさんが、眉をひそめながら「なるほど」と呟きました。
「これは入れないわね」
ティーナさんも納得して頷いておりますが、グランドウィンドドレイクはどうやら自分にとって居心地の良い巣の形を整えるために周囲をブレスで熔かして鉢状の形にしていたのですよね。その範囲は広間のみならず、遺跡の入り口まで含まれておりました。
そんなわけで現在の遺跡の入り口は熔けて完全に塞がっています。
石砲弾で破壊することは可能かもしれませんが、それで遺跡内が崩落しては本末転倒ですし、一度戻って作戦を練ってから、再度遺跡探索に挑もうと思います。
【次回予告】
帰還した善十郎の前で今ふたりの男が対峙する。
それは男と男の意地だった。
それは奪われたものを取り戻すため、或いは理不尽を覆すための戦いだった。
故に両者が屈することはなく、結末は善十郎の言葉に委ねられた。