ヨコドリハント3
再びドラゴンを倒すことを決めた私は、逃げ去った探索者たちがやってきた方へとラキくんに乗って進みました。
そして、その先にあったのは当初の目的地である遺跡です。この遺跡の造りは水晶窟の遺跡とは違うようです。恐らく、ここはエーテル製造とはまた別の目的で作られた施設なのではないでしょうか。或いは製造時期や地域差によるものかもしれませんが。
それから私たちが遺跡に近づいていくと、遺跡の入り口とその前にある広間の中心にどしりと鎮座している巨大な存在を発見いたしました。
「ティーナさん。グランドアースドレイクじゃないですよね。アレ」
そう、アレです。逃げた探索者たちはアレに遭遇したのでしょう。アレは確かにドラゴンです……が、以前に戦ったグランドアースドレイクではありませんでした。
「うーん。別の種類っぽいけど……ちょっと調べてみるわね」
ティーナさんがシーカーデバイスをぽちぽちと押して検索し始めました。
あのドラゴン、スマートに見えますが全長はグランドアースドレイクよりもありそうですね。またグランドアースドレイクは飛膜が退化してほとんどありませんでしたが、こちらはしっかりと膜が張られていて、両腕がちゃんと翼のようになっています。何より違うのは全身を纏う鱗の一枚一枚が長く流線型で刃のようになっており、全身の色も茶色の地味だったグランドアースドレイクに比べて、鮮やかな緑色をしております。
「検索ヒットしたわゼンジューロー。あいつはグランドウィンドドレイクっていう風竜ね。高速で飛行しながらブレスを吐いたり、急降下してあの足の鋭いかぎ爪で攻撃を仕掛けてくるみたい」
なるほど。空中戦メインの方でしたか。それは厄介ですね。
「鉄球弾や石砲弾で撃ち落としたりはできるでしょうか?」
「それがね。どうも全身を風のシールドで覆ってるらしくて遠距離攻撃はほとんど当たらないって書いてある。ゼンジューローのゼロ距離攻撃なら届くと思うけど……」
「あのサイズの魔獣相手では、私の5メートルの射程では接近戦と変わりませんね」
一応精度が低くて良いのであれば10メートル程度までは収納ゲートを展開できますが、それだと魔力のシールドをすり抜けられるかは分かりませんし、ちゃんと当てられるかどうかも怪しいのです。
「それと厄介なのは、ブレスを吐くことなのよね」
「ブレス……それは当然、炎のですよね?」
私の言葉にティーナさんが頷きます。
物語のドラゴンと同様にこちらのドラゴンも基本的に空を飛びますし、炎も吐きます。
前脚が翼となっているので、ファンタジー的にはワイバーンに分類されるのではとも言われていますが、まあ創作と現実を一緒にしてはいけません。四肢プラス翼持ちのドラゴンもいるそうですけどね。肩甲骨が進化でもしたのでしょうか?
「威力は他のドラゴンよりも弱いらしいけど、それでも人間なんて一瞬で黒コゲよ」
「うーん。ブレスだと私の収納ゲートを並べたシールドでも防ぎ切れないのですよね」
収納ゲートシールドは所詮、収納ゲートを並べているだけです。隙間もありますし、現時点での収納空間のゲート数では、隙間を完全に埋める形ではせいぜいが普通の盾程度の面積しかありません。
実のところ、以前に倒したグランドアースドレイクもマグマブレスと溶岩弾を放つそうで、あの時は不意を打って倒せましたが、正面から相手が全力で仕掛けてきていたら危なかったのですよ。
「となれば、飛ばれる前に接近して倒すしかないですか」
幸い相手はこちらに気付いていないようですし、今は地上でズデンと寝転んでいるだけですから隙だらけです。
とはいえ、グランドウィンドドレイクのところまでは結構距離があります。私の足では一気に近づくのは無理。時間遅延解除を使えばギリギリ辿り着けるかもしれませんが、攻撃を仕掛ける前に効果が切れてしまうでしょう。つまりは時間遅延解除以外に一瞬で距離を詰める手段が必要です。
というわけで、出番ですねティーナさん。
【次回予告】
それは竜の記憶。かつてあった世界の記憶。
何もかもが終わり果てた終焉の物語。
その残滓たる竜は願う。我が子に幸あれと。
されど絶望は忍び寄る。或いはもうすでにその懐に。