ヨコドリハント2
境界の森での初戦闘の後、森の中でも二体で動いているサイサウルスと遭遇して戦いました。
ラキくんは一対一なら危なげなく倒せるようですが、フォーハンズでは重量級のサイサウルス相手は厳しいようです。盾で防ごうにもパワー負けします。とはいえ、短時間なら足止めは可能でしたので、動きの止まったサイサウルスにゼロ距離圧縮空気弾を放ったところ、えらくグロテスクに破裂して魔石も粉々になってしまいました。完全にオーバーキルです。時間遅延解除を使わない、距離を開ける、空気弾だけで試す等等、加減をした攻撃の模索も必要ですね。
「このサイサウルスの売れる部位は魔石と角とお肉なのよねぇ。お肉」
「でも魔獣のお肉は畜産業界からの圧力でレアもの以外は大した金額になりませんし、流通先も限定されているのですよね」
「そーなのよね。だから熟練の探索者でも持ち帰るのは自分で食べる分ぐらいらしいわよ」
肉食が多いので味はあまり良くないとの噂もありますが、倒した後に魔力が抜けた魔獣のお肉は絶妙に柔らかく、実際には結構美味しいそうです。
ちなみに角は魔力と結合して硬化されているらしく、薬の素になるのと、砕いて私が着ているプロテクトスーツなどに使用している強化合成樹脂の材料になるので持ち帰るなら魔石と角のみですね。
お肉は勿体無いとは思いますが、他の魔獣とかが処理してくれるでしょうし、放置するしかありません。
また、この森にはマナタラントも出現します。木々の中に隠れているので少々厄介ですが、気配は隠せてもサーチドローンの機械的な索敵には引っかかるので今の所、奇襲を受ける状況にはなっておりません。
「ふむ、サイサウルスを倒してレベルが17に上がりましたね」
「あのドラゴン相手に上がったばかりなのに?」
「グランドアースドレイク戦での経験値分が残っていたのかもしれませんね。あの戦いでは2レベル上がりましたが、経験値はレベル3分に近いくらい量があって、サイサウルス分が入ったことで今回もう1レベル上がったと考えると納得がいきます」
「あー、なるほど」
「キュルッ」
そして予想通りに収納空間は17個作れるようになっていました。新たなる特別な収納空間は増えませんが、次に付与されるのはやはりレベル20なのでしょうか。打ち止めという可能性もありますけど、収納スキルにはまだ可能性があると私は信じています。何しろ時間遅延があったのですから、そろそろ時間停……
「フーー!」
おや、ラキくんが正面を警戒しております。
「サーチドローンも動体反応を検知していますね。隠れましょうか」
「そうね。サイサウルスの群れとかだと面倒だわ」
あの巨体で横一列で攻め込まれたら怖いですからね。そんなわけで私たちは迫ってきている何かから隠れられる程度の巨木の後ろに回り込みました。しかし、近づいてくるのは……ふむ? アレは魔獣ではないですね。
「おい、大丈夫か? クソ、意識がねえぞ」
「追ってはきてない……が、今は治療できないな。もう少し距離を空けてからポーション使うぞ」
「畜生。手垢のついていない遺跡があるからって来てみたのになんだよアレ」
「配信見てただろ。ドラゴンだ。配信には出てなかったもう一匹がいたってことだろ」
「分かってる。吉田の敵討ちだ。団長に報告して、騎士団で討伐すれば」
「ま、待て……俺、死ん……で……グハッ」
「「「吉田ァアアア!?」」」
ズダダダダと何人かの探索者たちが森の中を抜けていきます。怪我をしているようですが、こちらが声をかける前にそのまま通り過ぎてしまいました。さすが探索者。足が速いです。
よほど慌てていたのか、こちらのことも気づいてはいなかったようですが……いえ、それよりも彼らの会話が気になります。
「ティーナさん、ドラゴンがいると言っていましたよね?」
「そうね。しかも返り討ちにあって逃げてる途中という感じだったわ。追って来てはいないようだけど」
そのようです。今の一行を追いかけてドラゴンが近づいてきているのであれば、さすがに私でも気付けます。
しかしドラゴンですか。彼らは基本単独行動を好みますが、群れで動くこともあります。あのグランドアースドレイク以外のドラゴンがいたとしてもおかしくはないのですが……
「ふーむ。ティーナさん、グランドアースドレイクがもう一体いるということでしょうか?」
「かもしれないわね」
「ということは魔法具がもうひとつ作れるということですか?」
「確認してみないと分からないけど、倒せればその可能性は高いと思うわよ」
なるほど。私は自分の胸に付けているティーナさん製の魔法具を見ました。これは凛さんへのプレゼントのための試運転として使用しているわけですが、実のところかなり気に入っています。
とはいえ、一度リンさんへのプレゼントと決めた手前、やっぱりあげるのをやーめたと自分のものにするのは、父親として情けないと思うのです。
ですが、魔法具がふたつあったとしたらどうでしょうか?
凛さんもハッピー、私もハッピーで何もかもが上手くいくでしょう。素晴らしい未来です。
「やるのねゼンジューロー?」
「キュルッ」
私の表情を見てティーナさんも察したようです。ラキくんも乗り気です。ですが懸念がひとつあります。それは……
「彼らがリベンジとして討伐するつもりのようなのですよね」
すでに通り過ぎていった探索者たちですが、彼らはこの後に仲間を集めて再度挑むようなことを言っていました。何も知らなければ、遭遇しても気兼ねなく戦えたでしょうが、彼らの話を聞いた後では横取りをするような、後ろめたい気分に少しだけなります。
「ふむ」
「ゼンジューロー?」
しかし、以前に上級クランであるグランマ騎士団の門倉さんが烈さんにこんなことを言っていました。
『探索者は先行独占が基本。終わった後に言いがかりをつけられてもね』……と。
烈さんを前にして一歩も引かなかった門倉さんの言葉は彼の覚悟だったのでしょう。上を目指すのであればそのぐらいの図々しさ、ハングリー精神がなければいけない。そういうことなのだと思います。
ありがとうございます門倉さん。あなたのおかげで迷いなく挑めそうです。
「いえ、なんでもありませんよティーナさん。せっかくの機会なのです。二度目の竜狩り、チャレンジしてみましょうか」
【次回予告】
そこに在りしは嵐纏いし大空の女王。
喰らいつくにはあまりにも大きな脅威であった。
故に笑う。故に望む。
猛る気持ちは抑え難く、善十郎の心をときめかせる。
であれば如何にして殺そうか?
如何にして滅ぼそうか?
そのための一手。それはすでに我が内に。