ルーキーエラー4
ドゴォォオオオン。
凄まじい轟音と共に目の前の岩が砕け散りました。なるほど、これは強力です。
「凄いね、ゼンジューロー」
「ガッ、ガッ」
ティーナさんが目を丸くして、ラキくんも興奮しています。
現在、我々は試験会場近くにある八王子ゲート先のダンジョンに来ています。ここは岩場だらけのエリアでして、出てくる魔獣は岩食いナメクジだけという、俗に言う不人気ダンジョンです。
まあ今回は試験会場でなんとなく試したらできた攻撃の試射のためにやってきました。
ここにあるのは岩ばかりで人も少なく、試し撃ちにはちょうど良いのです。
キャンピングカー内でお待ちいただいたラキくんやティーナさんの気晴らしのためでもありますが、ともあれ先ほどと同じように私は吸引付きの収納空間に全力で空気を吸い込ませて、その収納空間を解除することで圧縮空気弾を放ってみました。
結果はご覧の通りです。巨岩がぶち抜かれて衝撃で粉々になっています。なかなかの威力ですね。
今のところ、吸引付きの収納空間はひとつしか出せませんし、発動するためには空気を吸う必要があって多少の溜め時間を必要とします。ですが、一度吸い切った吸引付きの収納空間を待機させておけばいつでもどこでもこれをサクッと新鮮なまま出すことが可能なわけで、以前からの懸案事項だった火力不足を補う手段が手に入ったという感じです。
それにあの神崎という方からはさらに効率的な火力アップのヒントもいただきました。
なんでも私の攻撃は魔力のシールドを通り抜けているとのことで、あの測定機が壊れたのもそれが原因なのだとか。
彼女も理由までは分かっていないようでしたが、収納ゲートが見えている私には分かります。石砲弾等と違って空気弾は距離を離すと威力の減衰が大きいため、私はできる限り対象との距離を詰めた形で収納ゲートを出して攻撃するようにしていました。即ちゼロ距離攻撃です。
簡単な話ですが私は外に放出されている魔力のシールドをすり抜けた先にある対象に直接空気弾をぶつけているのですよね。
魔獣が耐える空気弾がなぜ高レベルの烈さんにあっさり通用したのか疑問でしたが、これで理由は判明いたしました。探索者といえど、レベルが上がることでスキルとしての身体強化ほどではないにせよ、保有する魔力をさながらパワードスーツのように身に纏うことでパワーやスピード、防御力などを底上げしているのだと言われています。
つまり素の肉体性能が極端に上がっているというわけではありません。
私はそのパワードスーツの中に収納空間を発生させて直接柔い肉体に打ち込んでいるから効いていたわけですね。
まあ体内魔力の分の防御力はあるはずなのでダメージが全て通っているわけではないのでしょうが、上級探索者の烈さんに通用するのですから探索者相手ならば大抵は効果があると考えて良いでしょう。
なぜ私の収納ゲートが魔力のシールドを通り抜けられるかは分かりませんが、それも多分スキルの存在強度が高いからでしょうかね。大体あれのおかげです。
対して魔獣は素の肉体性能が高いから結果的に空気弾は通用しにくいのでしょう。人間に比べて……ではありますが。
空気以外の何かが出ている説も私の中ではありましたが、理由が分かるとスッキリするものですね。
「中々の攻撃手段を手に入れました。これだけでも今回の適性試験に参加した意味はありましたね」
「そうね。これほどの威力を見せられれば頷くしかないけど」
「キュルッ」
ティーナさんもラキくんも納得という顔です。
「けど、ゼンジューロー。あの提案は通るの? あと弁償額、結構なものだったでしょ?」
「はい。少々気前が良すぎたかもしれません。グランドアースドレイクの売却金だけでは足りませんし、しばらくは借金返済を頑張らなきゃ駄目です」
とはいえ、心にしこりが残りそうなのは嫌だったのですよ。私はずっと会社の枠にはまって生きてきました。嫌なものは嫌と言える生き方を、最高の探索者ってのはそういうものだと思います。まあ、多少の欲の目もありますが。
なので今回は我儘を言いました。それに足が出た分の補充の当てはあります。
「まあ、シーカーグランプリ出場を通していただけるかどうかはともかく、貯蓄がマイナスなので稼がないといけませんね。できればサクッと稼ぎたいものです」
「となると……じゃあ、行くのねゼンジューロー?」
ティーナさんの問いに私は頷きました。
そう、当てはあるのです。グランドアースドレイク。凛さんたちがあの魔獣に襲われたのは、とある遺跡に探索に行こうとしていたためでした。
そこは未だに未探索の、人の手が伸びていない遺跡なのだそうです。
前回の襲われた件もあって凛さんたちも流石にリトライはできないとのことですし、すでにライブストリーミングで配信されている情報ですので、誰かに先を越される前に挑んでみようと思っていたのですよ。
【次回予告】
赤き悪魔は前に出る。
己の価値を示すために。
或いは主に並び立つために。
振り上げられたふた振りは闘争の証。
咆哮は敵を挫き、己こそが捕食する側だと規定する。
赤熊の勇者ここにあり。
それは記憶なくとも変わらぬ有り様。
伝説の帰還であった。