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ルーキーエラー1

 やあ。僕の名前は香月タクヤだ。

 僕は探索者の登竜門、戦心学院高等部の二年生にして学院序列三位、そして剣士コースのエースで探索者トップエリートの卵……という肩書きを持っている高校生探索者だ。

 自分で言うのは気恥ずかしいものがあるけど、実力については相応であるという自負はある。だからこそ今この場にいるわけだしね。

 ダンジョンが出現してから二十年以上が経ち、今や探索者という存在はこの社会にとってなくてはならないものとなった。何しろ異世界は地球に資源をもたらす一方で、魔獣の侵略行為によって人類の生存圏が奪われ続けているんだ。日本国内だけでも北の方はかなりおされ気味なんだよね。

 奪還作戦は過去に何度も行われているけど、こちらの世界にやってきた厄災級に指定される魔獣は強力で、だから成功率はそう高くない。そして僕の目標はその厄災級魔獣を狩り尽くすことだ。

 無茶だと、無謀だと、みんなからよく言われているけど、僕のお祖父さんも迷宮災害に巻き込まれて亡くなった。魔獣に喰われて殺されたんだ。だから僕は剣を手に取った。これは復讐のためじゃない。地球を取り戻すために、悲劇を繰り返さぬために、僕は戦うことを決めたんだ。

 その第一歩がここだ。

 シーカーグランプリの新人戦であるニューカマーグランプリの予選会場。

 ニューカマーグランプリの参加条件は十八歳以下か探索者経験三年以内だから参加しているのは僕と同じ高校生や大学生、それに社会人の探索者も少数ながらいる。熟練者はおらずとも実力はある強者ばかりだ。

 僕はここで勝ち抜いて、上級クランに入り、ダンジョンで己を鍛え、いずれは厄災級魔獣を倒してお祖父さんの眠る地を取り戻すつもりだ。今日はそのための一歩なのだけれども……


「あのおっさん、本当に受けるのか?」

「四十越えて新人戦とかさー。恥ずかしくねーのかよ」

「コネで参加したとか。ふざけてんのか」

「俺らは努力してここまで勝ち上がったってのにさ」

「ヘラヘラヘラヘラと。何様のつもりなんだよ」


 目の前で僕と同じ戦心学院の予選選抜メンバーが騒ついている。どうやら彼らの話題の中心は、この会場にいるひとりの中年男性に対してのもののようだった。

 とはいえ、彼らの物言いは決してポジティブなものじゃない。


「おい、お前たち。口が過ぎるぞ。戦心学院の品位を落とすつもりか?」

「あ、香月先輩。すみません」

「うるさくしてごめんなさい先輩。でも俺悔しーんすよ」


 ふむ。何がこいつらをこれほど苛立たせているのか。見れば普通の、本当に普通のおっさんのようだけど……いや、だからこそおかしいのか。見たところ、覇気も感じられないし、レベルもそう高くはなさそうだ。少なくとも強者のオーラは出ていない。

 僕くらいになれば……というか、ある程度の実力を持つ探索者なら相手の強さはそれとなく分かるものだ。少なくとも圧倒的な実力差があるか、自分と勝負になるか……そのくらいはだけどね。


「あのおっさん。俺らが勝ち取ったニューカマーグランプリの参加資格をコネで手に入れたって言うんですよ」

「まだ探索者になって一ヶ月だって」

「運良く仲良くなった上級探索者に試しにって薦めてもらったらしいっす」

「それは……酷いな」


 頭が痛い話だな。

 聞いた限りではこいつらが怒るのも当然だった。

 なんでも無職になったので探索者に転職したおっさんが、上位探索者と知り合いになったコネでお試し感覚でニューカマーグランプリに参加させてもらった……ということらしい。それをヘラヘラと大したことがないように語っていたようで、それが余計にこいつらの怒りを誘っていたわけだ。

 そもそも僕らが出場できるニューカマーグランプリは、学生枠としての参加人数が限られている。そのために僕らはハイスクールシーカートーナメントを勝ち抜き、上位に入ることで参加権を得ているんだ。

 一方で学生以外の参加については有名クランや有識者などの推薦を得ることで資格を得られるわけだけど、時折どうしてコイツが? みたいな相手が入ってくることもある。推薦制度の穴ってヤツだね。

 あの中年男性もたまたま上位探索者の知り合いがいたから頼んで記念参加しただけなんだろう。そういうミーハーなだけの素人が参加している。それは確かに気に食わないことだけど……


「みんな、気持ちは確かに分かる。本気で生きている俺たちと遊びに来ているおっさんが並んでいるような状況が許せないってこともな。けど、だからこそ実力で示そうじゃないか。どのみち予選の前には適性試験もある。そこにあの人が通れるとも思えないし、仮に通ったとしても、それで僕らと予選で当たったときには遊びできたことを後悔させてやろう」

「「「はい」」」


 こういう言い方は良くないかもしれないが、遊びで参加しているヤツを眼中に入れる必要なんてないんだ。僕らはここに懸けている。ニューカマーグランプリを勝ち上がることで上級クランの目に留まることもあるし、在学中に入団だってあり得る。ここで勝ち残ることが後の人生を決めると言っても過言じゃない。

 それに予選を通れば、シードで参戦の決まっているシスターリン、憧れの前島凛ちゃんにだって会える。本戦で戦えるかもしれない。


「大貫さん、いますかー」

「あ、はい。私ですね。今行きます」


 まあ、あのおっさんが適性試験に合格できるとは思えないけどね。

 攻撃、防御、機動力、魔法等等、一定以上の戦える素養があるかを測る試験だ。見たところあの人のレベルは一桁前半がいいところ。どこかで見たことがある気もするけど、まあ気のせいだろう。



 ドンッッッッッ



「は? 揺れた?」

「地震か?」


 うん? 今、確かに揺れたな。

 地震というよりはなにかの衝撃があった?

 ここには訓練場もある。まさか上級探索者が高威力のスキルでも使ったのか?

 あ、試験会場から職員の人が出てきたな。なんだか慌てているみたいだ。


「申し訳ありません。測定器が故障しました。しばらくお待ちください」


 故障? まあ探索者の実力を測定をする機械だし、そういうことがあるのも仕方ないか。もしかして今の揺れと関係があるのか? となれば、相当のダークホースが今回参加している可能性もあるな。気を引き締めないと。

 そして二時間後、第二試験場に場所を変えて適性試験を再開。その後、日を開けながら五度の予選試合を経て僕は無事ニューカマーグランプリ本戦の出場を決めた。

 それとあの日以降にあのおっさんの姿は見なかったからやっぱり彼は適性試験で落ちたんだろうな。

 良い歳をして探索者になってコネでどうにかって考え方が甘いんだ。ここは実力がものをいう世界だ。二度と出会うこともないだろうさ。

 それにしてもどこかで見た気がするんだけど……まあ、そこら辺に歩いてそうな普通のおっさんだったし、気のせいかな。

【次回予告】

 善十郎は恥を知る男であった。

 善十郎は加減を知らぬ男であった。

 それ故に善十郎は大地に伏した。

 それはまるで地に堕ちた猛虎の如く。

 されどその意志は強固にして老獪。

 さらなる高みに至るため、次の一手の布石を打つ。

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収納おじさん【修羅】の書籍版1巻はアース・スターノベル様から発売中です。
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収納おじさん書影

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― 新着の感想 ―
[一言] そのおじさん、上位探索者が本気出しても勝てなかったよ。 そして、測定機をぶっ壊して出禁(新人枠から通常枠行き?)又はシード行き確定
[良い点] 見た目で実力を判断しては行けない…というのは、荒事を生業にする人にとっては必須事項なんですけどねぇ。 まぁ某有名漫画でも最終形態になったフリー○様を見たクソソソが「実は大したことない?」っ…
[良い点] そうか、新人枠には参加禁止か、、、
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