シンキングパパ2
川越メイズホテルの自室内の角を改造したフェアリークィーンチャンネルの撮影ブースにて、私は今自分が凛さんにできることが何かないかという相談をティーナさんに持ちかけました。
「ゼンジューローの記憶を持っている私にとってリンは娘も同然。だからゼンジューローがあの娘を心配する気持ちも当然分かるわ。ソレで、ゼンジューローは心配だからリンを探索者から辞めさせたい……というわけではないのよね?」
「はい。危険な目にあってほしくないという想いはありますが、凛さんの決めた道です。それを否定するつもりはありません」
今の世の中、ダンジョンに入らないから安全とは言えません。ある日突然近所にゲートが開いて、魔獣の群れが襲ってくる……などということは世界各地で起こっていること。日本も東西の一部や北海道の半分ほどが厄災級と呼ばれる魔獣の群勢の侵攻により彼らの領域となっています。
前職ではダンジョンに関わらなかった私とて迷宮災害は把握しておりますし、こうして探索者になった今ならば分かります。力だけが全てではありませんが、力がなければ全てを取りこぼす場合もあるのだと。
「ですので、相談のひとつとしてティーナさんにお願いしたいことがあってお声がけさせていただきました」
「んー、どんなお願いかしら?」
「はい。お願いというのはティーナさんには時折で良いので凛さんの探索について行ってもらえれば……と考えたからです」
「なるほどねー。まあ私の転移があれば、最悪の事態は逃れるからね。それはあっちとの調整次第だけど危険な撮影の時なら良いかなー。メイチューバー同士のコラボってことになりそうだけど」
「助かります」
「けど私、ゼンジューローから離れる気ないから、時々だからね」
ティーナさんがそう念を押しますが、それは私も承知しております。テイマーと従魔は一心同体。長時間離れることは精神のバランスを崩しますのでそもそも推奨されていません。しかし心配だからと仕事に親が付き添う……というのはパパウザいと言われかねません。要相談とはなりますが、やはりティーナさんに付き添ってもらう方が良いですね。はい。
「それと……凛さんの安全のためにも私ができることといえば、何か強力な武器などを贈るのはどうかと思ったのですが」
「んー。そりゃ、リンがあのグランドアースドレイクを倒せるくらい強くなれれば、不安も減るでしょうけど。あの子の武器って剣だったわよね。アレを倒せるほどのヤツって手に入るものなの?」
「そうですね。ドラゴンを倒せるほど……となると手に入れるのはなかなか難しいのですよね」
少なくとも目に見えて強化できるほどの武器といいますと、私の新車十台分以上のお値段がするそうです。ローンを組めばなんとかなるでしょうが、さすがにそれは私にとっても彼女にとっても重すぎると思いますし、それでも佐世子さんが用意したものよりも良いものが渡せるかといえばそうは思えません。ですので私は考えました。
「なので神霊銀。アレで造った武器ならば、それなりのものができるのではないでしょうか?」
神霊銀なら私が自ら採ってきたものですし、出所を隠す必要があるほど希少ですし、良いのではと思うのです。次点で私の採ってきた高純度ポーション原液を用いた中級ポーション詰め合わせも考えたのですが、凛さんは女の子ですし、透明でキラキラ光る感じのものを渡した方が喜ぶのではないでしょうか。
「神霊銀かぁ」
「女の子にはああいうものが良いと思ったのですが、安直でしょうか?」
「いんや、ゼンジューローにしては良い線だと思うわよ。ただねー。うーん。ちょっと待ってー。なんか出かかってるから」
そう言ってティーナさんがポンポンと自分の頭を叩いています。どうしたのでしょうか? あ、今クワッという顔をしました。クワッという顔を。何かが頭の中から出たようです。
「ふ、ふふ。私ってば最高の妖精女王だわ」
ティーナさんがかつてないほどにドヤ顔です。こういう自分の感情を素直に表に出せるティーナさんは素敵ですね。私は基本表情が顔に出ないため、何を考えているか分からないと時々言われていますので。
「ティーナさん。何か思いついたんですか?」
「勿論よゼンジューロー。確かグランドアースドレイクの魔石ってまだあったわよね?」
「はい。売ってはいませんが」
加工して何かしらの魔法具の媒介に使えるかも……という話でしたので、売らずにキープしてあります。
「うん。だったらいけるかもしれないわ。ゼンジューロー、リンに最高の剣をプレゼントするわよ!」
ティーナさんが自信ありげにそう宣言しました。なるほど。いけますか。なるほど……それで何がいけるんでしょうか?
【次回予告】
生み出されるソレは太古の再現。
かつての妖精の御業。王権の新生。
世界は未だソレを知らず。
されど種は蒔かれ、いずれは芽吹く。
それは魔王の再臨か。或いは救世の目覚めか。
少女の運命の輪は捻れ狂い、その形を歪に変え始めた。





