ピンチザドーター6
はい。吉野さんは思ったよりもあっさりと見つかりました。
グランドアースドレイクの移動跡は分かりやすかったですし、凛さんも吉野さんが尻尾で弾かれた場所をある程度は把握しておりました。加えて私の解析解除はそこらに隠れていようと問題なく察知できますので、岩陰に倒れていた吉野さんを見つけるのはそれほど難しいものではなかったのです。
現在は意識を失っていますが、おそらく岩陰に隠れていたのは吉野さんの判断だったのでしょう。幸い他の魔獣が来てお食事中……なんて状態にもなっておらず、ひと安心です。魔獣が吉野さんのモツとかを食べているところに出くわしたら私も凛さんもトラウマになっていたでしょうからね。ともかく吉野さんは確保できました。
それで吉野さんの現在の状況ですが、凛さんを庇ってグランドアースドレイクの尾の一撃を食らってしまったらしく、腕や足が曲がってはいけない方に曲がっております。あとは解析解除で調べた結果、全身打撲に内出血、内臓にも損傷がありそうなご様子で、有り体に言って生きているのが不思議なくらいです。生命の神秘ですね。それはもう凛さんの顔が真っ青になってしまうぐらいには危険な状態でした。
ともあれそうしたご様子でしたので、まずは中級ポーションを服用させて内側から回復を促し、ティーナさんの進言で午前中に収集した高純度ポーション原液も併せて使用することとなったのです。
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「よいしょよいしょ。ほい、包帯も巻いたし、ひとまずはこれで様子見かな」
ティーナさんの指示で動くフォーハンズによって吉野さんの応急処置が終わりました。フォーハンズは人体のことを熟知しているらしく、自ら判断して対処してくれるので非常に助かりました。
「ティーナさん、吉野さんは大丈夫なのですか?」
「ぶっちゃけ内臓にまでダメージ入ってるから大丈夫ではないけどね。まあ、やれることはやったわ。傷口は塞がったし、今は中級ポーションを混ぜて薄めた高純度ポーション原液を浸した包帯をやばそうなところに巻いておいたから。これでしばらくは持つはず」
「ほぉ。高純度ポーション原液が役に立ちましたか。今後は売るだけではなく予備に取っておいた方が良いですかね?」
「いや、止めておいた方が良いわよゼンジューロー。今回は緊急時だから上級ポーションの代用にしたけど、効果はあっても原液のままだと身体の負担が大き過ぎるの。上級ポーションってのはそういう負担を抑えて、反応も過敏にならないように調整されてるのよね。だから早く戻ってちゃんと治療しないと危ないことには変わりがないわ」
なるほど。効果はあるけれども劇薬というわけですか。
であれば万が一の時のために上級ポーションを買っておいた方が良さそうですね。
「ねえねえティーナさん。早くってどれくらい? ここから戻るとなると二時間はかかっちゃうん……だけど」
凛さんが難しい顔をしています。ここは存在境界線に近いダンジョンの端の方で、秩父ゲートまでは10キロメートル以上はあります。また間には岩場と森があって、道中はかなりの悪路となっています。ラキくんに乗せて移動したとしても重傷者を背負って無理に動かすのは危険ですので精々が早歩き程度。このまま徒歩での移動では間に合わないかもしれませんね。となれば……
「歩いて帰るのは諦めるしかありませんか」
「うわーーーん、あきらめるのぉ。よじのざぁぁああん」
あ、凛さんの中の何かが決壊したのか、泣いてしまいました。
「ゼンジューロー、言い方ぁ!?」
「む、そうですね。凛さん。つまりはですね。普通に歩いても、正直間に合いません。このままでは吉野さんは死んでしまいます」
「よじのじゃんじんじゃうのぉおお」
さらに泣き崩れてしまいました。おかしいですね。まだ説明の途中なのですが。
一応説明を続けますと一般人が入れるようなダンジョン内にはシーカープローブという、シーカーデバイスを介して通信を行うための中継機器が広範囲に埋め込まれています。
それにより配信などもできますし、私が受け取ったように救援要請も送れます。実際私がシーカーデバイス経由で探索協会の方とも連絡を取り合っているのです。今は秩父ゲート入り口で救助隊の到着を待っているようで、高速移動ができる探索者が上級ポーションを持ってきてくれれば、吉野さんもひとまず移動して問題がなくなるぐらいには回復するでしょう。
とはいえ、それでも30分以上はかかるでしょうし、その間に吉野さんの容体が急変する可能性もあります。
なので別の方法で秩父ゲートまで戻ろうと思いまして、そのことを説明しようとする前に凛さんが泣き出してしまったわけです。
「泣いてしまっては説明もできませんね。ティーナさん、あまりのんびりもできませんし、お願いできますか?」
「ゼンジューローはさー。ハァアアア。リンを泣かしちゃって。後でお説教ね」
「何かしら誤解が生まれているようです。申し訳ない」
私はこの子の父親だというのに不甲斐ないですね。
「すでに秩父ゲートの近くに植えた私の眷属は把握済み。いつでも飛べるけど、明日明後日はお休みもらうからね」
「そうですね。ゆっくりしてください」
ティーナさんの転移スキルの長距離転移は定めた座標であれば距離が離れても転移することが可能で、ティーナさんは自分の眷属となる植物を植えることでそこを座標として飛ぶことができるのです。
そして現在のティーナさんの眷属は秩父ゲートから少し離れた場所に植えてあります。ここから10キロメートル以上は離れているので、この人数を飛ばせばティーナさんの魔力は数日休まないと回復できません。そういう問題もあってこうした緊急事態の時でもなければティーナさんの長距離転移は使えないのですよね。
「どういうごど?」
「ヨシノは大丈夫ってことよリン。それじゃあ飛ぶわよゼンジューロー」
「ラキくんたちも集まってますし問題ありません。お願いします」
そして転移が始まりました。空間が歪んで……一瞬で……ああ、深化の森の秩父ゲート近くに到着しましたね。大量に魔力を消費したティーナさんがへローという顔になっています。お疲れ様ですティーナさん。
それでは吉野さんを外まで運んで、さっさと病院にいきましょうか。ほら、凛さんもぼーっとしてないで行きますよ?
これでマルっと解決ですね。良かった。良かった。
【次回予告】
凶報響き渡り、女は苦悩を顔に浮かべた。
男に悪意はない。男に咎はない。ただ求め、歩み続けた結果がそれだった。
されど男の放つ熱は女の身を焼き尽くさんとばかりに熱く、激しい。
そして男の告げた言葉に女の瞳から光が消えた。





