ピンチザドーター3
「いやー、危ないところでしたね」
「そうね。ランクA魔獣グランドアースドレイク。翼が退化して空は飛べないけど岩のような外皮を持ち、強靭な顎で異世界産の鎧をも砕く全長8メートルを超える竜種……ですって」
ティーナさんが自分の端末で目の前の魔獣を検索してくれました。カメラを向けるだけで勝手に検索してくれるのですから便利なものです。
しかし、8メートルを超えるですか。これは10メートルは超えていますね。腕から脇の飛膜は退化して薄く千切れたようになっていますので書かれていた通りに飛べはしないでしょうが、デカく、素速く、硬そうで、力もありそうです。ドラゴンはブレスも吐きますからね。これとマットーに戦うのは難しそうです。けれども……
「石砲弾がまったく通用しなかったのには焦りましたが、やっぱり口の中は効きますねぇ」
ラキくんの時と同じ戦法で挑んだ結果、上手くハマって倒せました。本当にとっさにやったことでしたので、失敗しなくて良かったです。せっかく助けにきたのですからね。間に合わずに死なせては後味がよろしくありません。
ソレでなぜ私がここにいるのか……ということですが、つい先ほど救援要請信号をシーカーデバイスで確認した私は、すぐさまラキくんの背に乗って急いでここまで駆けつけることにしたのです。
ちなみに救援要請に強制力はありません。探索協会も救援可能な者に限ると説明していますし、腕に自信がなければ向かうべきではないという感じです。
もちろん私は向かいました。最高の探索者を目指すのであれば、退いてはいけません。
そして私が信号元に辿り着くと襲われていたのは女子高生くらいの少女でした。
たったひとりでなぜこんな場所にいるのか分かりませんし、何故か以前にどこかで見た気がする不思議な少女でした。まあ、あんな水色の髪の年頃の娘さんとの面識などありませんので気のせいでしょうが。
ともあれ彼女が食べられる直前という状況でしたので、私も石砲弾を連続で撃って仕掛けてみたのですが、直撃してもグランドアースドレイクにはほとんど通用していませんでした。
ラキくんの時もそうでしたが、あのクラスの魔獣相手の時には石の砲弾ではほとんど効果がないのですよね。いずれ対策は考えなければならないのでしょうが、外皮が硬くて攻撃が通用しないのであればラキくんの時と同じように内側から攻撃するしかありません。
ですので私はラキくんに近づいてもらってから時間遅延で時間を遅くして、収納ゲートを踏み台に空中移動で接近しました。そして解析収納空間を解除してグランドアースドレイクの脳の位置を確認してから、顎門を開いた口内へと収納ゲートを開き、脳に向かってロックナイフ五本を射出したのです。もっとも口内から攻撃しただけでは硬くて貫通まではできなかったのでさらに空気弾を撃って打ち付けることで無理やり貫きました。本当にドラゴンとは恐ろしいものですね。
「まったく、こんなのがいるのだからダンジョンは怖いのです」
「私はそれを普通に対処できたゼンジューローが怖いわよ」
「そうは言いますが、私も結構ギリギリなのですけどね」
時間遅延は烈さんに追いつかれましたし、ブレスのような範囲攻撃は収納ゲートでは防ぎきれません。勝てる相手にしか勝てない……ではいずれ限界が来てしまいます。精進せねばなりません。
それとこの魔獣を討伐したことでレベルも上がりました。一気に2レベル上がりまして、今は16レベルとなりました。
収納空間を16個、それに15レベルを超えたためか、特殊な収納空間をまたひとつ手に入れられたようです。効果は恐らく吸引と呼ばれるものです。
私が認識した任意のものを吸い込むことができるみたいです。砕いたゴーレムから精霊銀入りの岩を吸い込んで、それを解析収納に入れ直せれば、結構な時短ができそうですね。素晴らしいです。収納スキルはいつだって私にアメイジングな体験をさせてくれます。それではさっそく、試してみましょうか。
「あのーゼンジューロー。どこに行こうとしてるのよ。ほら、あの子が見てるわよ」
「おっと、そうでした」
いけませんね。ついつい自分の世界に入ってしまいました。今はそこの見知らぬ少女の救助を優先すべき時です。己の欲望のままに動いていては最高の探索者になどなれません。ということで……
「さて、大丈夫でしたかお嬢さん?」
「え? ちょっとゼンジューロー!?」
声をかけた私にティーナさんが慌てています。
もしかしてティーナさんのお知り合いの方でしょうか。
ふーむ。よく見れば見知らぬサーチドローンが浮いています。
それに派手な衣装でティーナさんのお知り合い。つまりは……私はストンと腑に落ちました。
「なるほど。彼女はティーナさんのメイチューバー仲間ですね」
「馬鹿なのゼンジューロー? アンタの娘でしょーが!」
「やっぱりパパじゃないかー!?」
え? 確かによく見れば私の娘の凛さんに似ていますね。うーん。アレ……もしかして本物の凛さんですか? 髪の色青いですけど。
【次回予告】
観客は問い続ける。その男の正体を。
観客は問い続ける。我らが偶像との関係を。
そして情報は収束し、紡がれるはひとつの結論。
それ即ち最強尊父伝説の誕生であった。