ピンチザドーター2
※現代ダンジョンモノによくある美少女配信者を助けておっさんがバズったりするアレです。
【逃げてリンちゃん】
【駄目だって。死んじゃうから】
【うわぁああ、追ってきてる!?】
バイザーに映るコメントに目を通しながら僕はひたすらにこの岩場を走っていた。ここは秩父ゲート先の深化の森、リビングバレーを越えたところにある境界の森。そして今僕を追ってきているのはグランドアースドレイクっていうデッカい岩のドラゴンだ。
「なんで、なんでこんなことになったのさー」
僕、涙目である。絶体絶命のピンチってヤツ。
僕の名前は前島凛。鬼肉と書いてオーガニックって読むクランの芸能部門『おが肉』所属メイチューバーのひとりだ。
今日、僕は秩父ゲート内にあるリビングバレーの遺跡探索に出ていた。リスナーのひとりから未発見の遺跡の所在を聞き、情報の裏取りもしてこうしてストリーミングで配信をしながらやってきたわけなのだけれども。
「なんで? なんで!? なーんで、あんなのがいるかなぁあ」
ドガァアアン
うわーー、岩石がいっぱい飛んできてるよ。ヤバイヤバイヤバイ。避けるにしてもギリギリだ。僕のスキル『直感』は危険感知やクリティカル狙いも可能な『集中』と並んで有用なスキルだけど、地味だからその分、冒険しないと撮れ高がないんだ。
だから足で稼ぐのが僕のスタイルなんだけど、今回はさすがにしくじり過ぎたと思う。でもランクDダンジョンでランクA魔獣に遭遇とか予想なんてできるわけないじゃないか。うわーん。
「って、うわっ」
あーもう、無理。避けきれない。
イタタタ。足をやられちゃった。
【リンちゃん、血が出てる】
【もう駄目だー】
【ちょっと誰か助けに行ってよ】
【無理だってさっき言ってただろ】
【その場所だと秩父ゲートから二時間はかかる】
【間に合うわけねーだろ】
【ランクDにアレを倒せる探索者なんていない】
バイザーに映るコメントが諦めムードだ。うん、僕もそう思うし。こりゃあ本当に参ったな。たはは。本当に……
「あーもうホント駄目かも。ごめんねぇみんな」
【泣かないで】
【頑張ってシスターリン】
【諦めるなよリンちゃん】
みんなが頑張れって言ってくれる。死なないでって言ってくれる。でももう無理なんだ。いくら直感があっても、反応できても対応できない。足が血まみれでもう動かないんだよ。悔しいなぁ。
「グガァアアアアアアアア」
【キターーーー】
ママごめんね。ボクはこれでもう
ドガァアアン
「え?」
僕が諦めて顔を伏せた瞬間、唐突に激突音が響いてきた。え? え? 何が起きてるの?
【なんだ?】
【砲撃か!?】
【おい、なんかデカいのが来たぞ】
【熊?】
【違う。大きなレッサーパンダだ!】
【なんでだよ!?】
【知るか馬鹿】
【レッサー? 別の魔獣が来たのか?】
【見ろ。人が乗ってるぞ】
アレって多分、探索者の男の人かな? 大型の従魔を従えてる凄腕のテイマーとか? アレ? でもあの人、レッサーパンダから飛んでグランドアースドレイクに向かっていってる。え? テイマーじゃないの?
【テイマーが突撃した? いくらなんでも無謀だ】
【だけど空を走ってる?】
【なんだアイツ。メチャクチャ速いぞ】
そう。速い。意味が分からない。まるで歩いているようなのに、何十倍ってスピード再生しているような動作で、一瞬で空中を駆けてグランドアースドレイクに近づいていった。まったく理解が追いつかないんだけど、どういうことなの?
【ホワーーーー】
【なんか出たーーー】
【ああ、出たな。脳汁がよ。ドラゴンの】
【ウッソだろお前】
【ドラゴンの頭が吹っ飛んだ!?】
【なんでだよ!?】
??????
え? え? え?
あの人が近くにいった途端にグランドアースドレイクの頭が内側から破裂した。何あれ? ヤバっ
すごい。すごい。ボクのピンチに駆けつけてくれた白馬の……レッサーパンダだけど……騎士さん? ってアレ?
【なんかきた】
【男だ】
【マジかよ。なんなんだよアレ】
【一瞬でドラゴンの頭をバーンしやがった】
おかしいな。僕知ってるよ。あの人って、え? え? いや、なんで? でも近づいてくるあの顔は、間違いなくあの人は……
「パパ……?」
【【【【パパ!?】】】】
【次回予告】
見知らぬ少女がそこにいた。
男は知らぬ。青髪の娘など知らぬのだ。
故に男は初見であろうと理解した。
されど妖精は知っている。その娘の正体を。
記憶に焼き付いた愛しき娘の存在を。
それはかつて分たれた血の縁。
かくして運命は再び交錯し、新たなる縁が紡がれる。