ピンチザドーター1
烈さんからシーカーグランプリについて色々と教えていただきました。
シーカーグランプリとは年に一度行われる探索者同士の闘技大会のことなのだそうです。
ホテルの地下闘技台をさらに強化した闘技台を用いての戦闘を行うとのことで、それならば今回の烈さんのように気絶することなく、安全に真剣にバトルができるのだとか。
私はまだ探索者になって一ヶ月しか経っておりませんので参加できて新人戦のニューカマーグランプリとなるそうです。それに実力証明のために上位クランからの推薦が必要とされるそうです。
烈さんからはオーガニックの推薦を出してくれると申し出ていただけましたので、私も参加する方向で考えてみるつもりです。こうして実力を周囲にアピールしておくことで最高の探索者にまた一歩近づけるのではないでしょうか。
そして本日は午前中は高純度ポーション原液を収集し、午後はまたもやリビングバレーです。手持ちの精霊銀と神霊銀がなくなったので補充をしたいのと、試してみたいことがあるのですよね。
「はい。終わりました」
「足を潰して倒して破壊。ゼンジューローが手慣れすぎてて怖いわ。人の心が通っていないマシーンのようよ」
「繰り返す作業は得意なんですよ。業務効率が上がるのが目に見えて分かるのでモチベーションも上がりますし」
「あーそー」
ティーナさんがジト目です。同じ記憶を持っているはずなのに認識に差って出るものなのですね。まあティーナさんは異世界の住人ですし、私たち地球人とは常識的な判断が違うのかもしれませんが。
「それでゼンジューロー。試してみたいことって何なの?」
「はい。私って時間遅延付き収納空間を解除することで時間遅延解除が使えるじゃないですか。私の認識時間で10秒間、時間が遅くなるものなのですが」
「そうね。あのビデオ再生速度20〜30倍だかもっといってるように見えるキモいヤツね」
キモ……そう見えるのですか。もっと見栄えにも気を使った方がよろしいのですかね。今度録画して動きをチェックしてみますか。
「はい、そうです。あのキモいヤツです。すみません」
「いや落ち込まないでよゼンジューロー。ごめんて。私も言い過ぎたから。ロイヤルジョークよ?」
「そうですか。ロイヤルなら仕方ないですね」
妖精女王様ですものね。そういうこともありますか。
「それで試したいのは同じことを解析収納空間でもできないかと思いまして」
「あー、解析の収納空間を解除すればまた別の効果になるかもってこと? 今まで試してなかったんだ?」
「はい。そうですね。暴走する可能性もあるじゃないですか」
最初に空気弾を出した時はベランダが半壊しましたし、時間遅延解除も恐るべき性能です。
「暴走って……どんなことを想定してるわけ?」
「解析だけならともかく、分離的な現象が起きた場合、ティーナさんのモツが体外に排出されたりする可能性が」
「いやいや怖い怖い。私のモツを出さないでよ」
「出すつもりはありませんが、想像してしまった以上、万が一考えが引っ張られてティーナさんのモツが分けられてしまうかもしれないじゃないですか」
スキルは自身の認識によって発動します。考えれば考えるほどティーナさんのモツが危険な気がしてきて今まで躊躇していました。
「ですが、何が起こるか分からないのは怖いので、落ち着いた時に試してみようと思っていたのです」
まあ、そう思い立ってからしばらく忘れていたのですが……それは良いでしょう。ともあれ、ティーナさんたちには距離を取ってもらって、私は目の前の地面の上にゴーレムのカケラを置いて試してみます。これを対象に意識しておけば、分離しても精霊銀が外に撒かれる程度で収まるでしょう。多分ですけどティーナさんのモツは平気なはずです。
「こっちチラ見しないでよゼンジューロー。怖いから。今のゼンジューローはブッチャーの気配を醸し出してるわ」
酷い言われようです。ともあれ、ティーナさんのことは忘れましょう。今はゴーレムのカケラに集中です。
「それではやってみます。解析収納空間を解除!」
解除しました。それはそれとして空気弾は出てゴーレムのカケラが吹き飛びました。そして効果ですが……
「ど、どう?」
「ふーー」
恐る恐る近づくティーナさんとラキくんですが、見た感じでは何も起きてはいないように思えるでしょう。私は少し頭が痛いですが、慣れれば何とかなりますかね。
「そうですね……一瞬ですが周囲を把握したような感覚がありました。精霊銀と神霊銀のある箇所は判別できましたよ。分離まではまだ無理ですね。あの一瞬で判断して振り分ければいけるかもしれませんが」
「そ、そう。私のモツの平穏のためにできなくていいわ」
やり様によっては心臓抜き取りみたいなこともできるかなと思いましたが今は無理ですね。解析ほどの精度ではありませんが、結構な範囲を把握できました。効果範囲は後で確認の必要がありますが、この効果は解析というよりも探査とでもいうべきではないでしょうか。
さて、それでは……おや?
ビービービー
メガネ型デバイスについている骨伝導イヤホンから警告音が発せられています。これは……救援要請の信号でしょうか?
【次回予告】
森の中を悲鳴が響き渡る。
それは絶望が彩る陰惨なる殺戮劇。
少女がただの肉塊に変わる錬金術。
そして嘆く観客たちの前でただ無惨に、ただ理不尽に、ひとつの命が散らされた。