マジガチリベンジ3
「先手必勝!」
ティーナさんの合図と共に烈さんが飛び掛かってきました。これは速いですね。一般人スペックの私では烈さんの動きを捉えることすらできません。なので、こうします。
「お、ぉお!?」
目の前で烈さんが跳ね飛びました。
烈さんには見えていないでしょうが、彼と私の間には不規則に収納ゲートが並べられています。加速した烈さんはそこに突っ込み、収納ゲートに力負けをして弾かれてしまったのです。
現時点で未だ砕かれたことのない私の収納ゲートが12個、壁となっているのですから、近づくことすら容易ではありません。そもそも収納ゲートは私以外には見えませんしね。さて、烈さんはここからどう動きますか?
「チックショウ。また見えない何かがありやがる。これは以前と同じか。だったら」
空中で体勢を立て直して着地した烈さんが目にも留まらぬ速度で走り出しました。それも私の方に向かってではなく、闘技台を外回りにです。またジグザグと不規則にも動いていて、狙いが定めにくいですね。
「はっはー、やっぱり何かやってやがんな。けどな。上位の探索者は勘でそういうのも気付けるもんなんだぜ?」
怖いですね上位探索者。
野生の勘でも働いてるのか、まるで見えているかのように烈さんは収納ゲートを避け続けています。
そして背後の視覚外から仕掛けるつもりなのでしょう。回り込もうと動いています。私も視覚外に収納ゲートを配置するのは……できますけど、正確に置ける自信はありません。避けられて踏み込まれたら危ういですね。
ですので私もここで手札をひとつ切ります。すなわち時間遅延解除です。ポンッとですね。
「ぬぁぁあ……ぬぃいい……いい」
引き伸ばされる声が聞こえますが、烈さんには今の私が高速で動いているように見えていることでしょう。咄嗟の振り向きから烈さんに向かっての高速移動。そして懐に入っての掌底からの流れるような空気弾……を!?
「つぅぅうううかぁまああぇ」
なんということでしょう。烈さんの右腕だけが不自然な速度で動いて私の手首を掴もうとしています。これは恐らく身体強化を部分的に強めているのですね。まさか時間遅延解除を力技で凌駕してくるとは思いませんでした。ですが、私も捕まるわけにはいきません。
「ぇええたぁあ……ああ?」
私の腕を捕まえようとする烈さんの手の前に収納ゲートを展開しました。確かに時間遅延解除だけならば私は烈さんに敗れていたかもしれません。この速度域に対応できるという時点で私は速いおじさんからただのおじさんに成り下がるのですから。けれども私の手札はそれだけではないのです。
そして私は烈さんの掴みを阻んだ収納空間を解除して、その手に空気弾を撃ちました。
「ぎぃゃっ、がァ……ア」
間伸びした悲鳴とともに彼の右腕が弾かれます。けれども踏みとどまりました。流石ですね。ですが、即座に反撃に踏み出せるほどではないようですし、私も一歩踏み込んで烈さんの腹へと手を添えさせて頂きました。
「ッァアナ」
そしてその場に収納ゲートを五つ展開してゼロ距離で空気弾を放ちました。
「ヒゥ…………ウィギィイ……イイアアアアアアアアアッ」
おお。ちょうど時間遅延解除が解けて、錐揉みしながら烈さんが高速で噴き飛んでいく姿が見えます。すごい勢いです。あ、ヤバいかも。そんなことを思いましたが、それは杞憂というものでしょう。烈さんは身体強化をしていますから、頑丈で、強力で、だから大丈夫なんです。以前と違って問題はないはずです。
烈さんが床をバウンドし続けて、それから高回転で壁に激突してビターンとカエルを叩き付けたような音をしてようやく止まりました。ふぅ、止まりましたよ。良かった。やっぱり問題はありませんね。危ない。危ない。
「うわ、アレ……本当に生きてる?」
なんてことを言うんですかティーナさん。
【次回予告】
それは刹那に燃え尽きるではなく、悠久を歩むための変革。
ここまでの男の有り様が導き出された必然だった。
されど男は炎を望む。薪をくべ、轟々と、何もかもを焼き尽くす炎を望む。
故に男の前にできるのは劫火の道。その先にあるは益荒雄集う闘争の大祭。
そして男の視線は確かにそれを捉えていた。