トラブルアフター4
収納おじさんの書籍化が決定しました。
詳細が決まったら改めて報告しますね。
「それとこれはあくまで大貫様の任意を前提とした提案ですが」
「はい?」
「ティーナちゃんの契約の解除を望むなら探索協会が請け負います」
その言葉には私も少々ムッとしまして、顔をしかめてしまいました。
対して沢木さんは私がそんな反応をすることをあらかじめ察していたのか「希望すれば……ですよ」と続けておっしゃいました。
「従魔との契約解除は専門家にお願いする必要がありますから、個人的な伝手がない場合は探索協会を経由する必要があるんです。ただ専門家の方は数が少ないのでこちらも選考させてもらっています。実際契約してみたけど気にいらないからチェンジ……なんて理由で気軽に頼めませんし」
なるほど。そういう事情もあるのですね。
「ですが大貫様は今回このような望まぬ襲撃を受けたわけですし、それだけティーナちゃんは希少で魔獣の生態という視点から見てもとても重要な存在ではあるんです。なので契約を解除して従魔の安全性を確保できる方に譲渡するというお考えを持った場合には、私どももこうした選択をご用意できるとだけ知っておいて欲しかったわけです。先に言った通り、これは任意であって我々から大貫様に強要することはありません」
今回の襲撃者に関しては依頼主が死んでいるのであれば繰り返されることはないでしょうが、ティーナさんが希少な魔獣であるというのであれば別口でやってくる可能性は当然あります。それを考慮すれば沢木さんのいう選択も無しではありませんね。まあ、私がティーナさんと離れる選択を取ることはありませんが。
「申し訳ございません。少しカッとなったようです」
「お気持ちは分かります。探索者と従魔は精神的な部分でも繋がっています。それが離されるのは己の半身を切り離すようなものですから」
そうですね。確かにティーナさんと私は一心同体的な、常に繋がっているような感覚があります。
それが従魔契約というものなのでしょう。
「とはいえ、ここまで話したこと以上に探索協会でできることはあまりありません。先ほどは探索協会の保護のことをお話ししましたが、私個人として申し上げさせていただくならば、それを信用し過ぎるのも危険ではあると思います」
「ふむ」
「もちろん意味のないものではないですが、絶対というわけではないんです。担当として言わせていただくのであれば、大貫様がこれからも探索者を続けるなら、そして今回のような理不尽に抗したいのであれば、仲間が必要になると思いますよ」
「仲間ですか?」
人間ではありませんが、頼もしい仲間は揃っています……が、沢木さんの言いたいことはそういうことではなさそうです。
「今の大貫さんの実力は、実績から見ればレベル50の探索者に匹敵しています。従魔も合わせればその戦力は探索者の中でも上澄みの部類に入るかもしれません。以前にお話ししていたパーティを組む必要性も今はそれほどないと思いますが、それでもこの界隈でうまく、安全に立ち回るのであればもっと広い繋がり、つまりはクランに所属するのが一番良いですよ」
「……クランですか」
クランとは私のような個人や複数のパーティの探索者が個人事業であるのに対し、探索者同士が集まった企業を指しています。
「所属するとやはり違うのでしょうか?」
「はい。違います。個人では請け負えない規模の探索を行えますし、企業との繋がりも強ければ依頼の斡旋などももらえますし、クランに参加することで個人では目の届かぬところに対しての気づきも得られます。何より探索者をやる上での安定感が違いますよ」
「なるほど、事務所のようなところということですかね。分かりました。考えておきましょう」
と言っても私の知っているクランなんてオーガニックとグランマ騎士団ぐらいしかないですし、私の目標が最高の探索者である以上は誰かの下につくつもりはないのですけどね。
ちなみにティーナさんがメイチューバーになることについてもお聞きしましたが、沢木さんは頭を抱えながらも探索協会から縛りを入れることは特にないとおっしゃっていただきました。目立った際のメリットとデメリットはしっかりと把握して、常識的に、無理のないように……と当たり前の話を当たり前のように返していただきました。そうですね。当たり前って大事ですよね。
【次回予告】
大貫善十郎。
その名は闇の中を稲妻の如く駆け抜けた。
東洋の修羅、或いは狂犬。その存在に世界がようやく気づき始める。
そう、善十郎は確かに己の価値を示しはじめたのだ。
即ち触れるべからずと。





