トラブルアフター2
「ゼンジューロー。私、メイチューバーになるわ!」
ドドーンという効果音が付いたようなドヤ顔のティーナさんがそう宣言されたのは今から五日前のことでした。
どうも今回のホテル軟禁状態によりユーリさんのチャンネルの配信出演のお話が延期となったことで、ティーナさんの中にある承認欲求がゴーゴーと燃え上がったらしいのですよね。さすがは妖精女王様です。何がさすがなのかはさておき、メイチューバーになりたいと言っても即なれるわけではありません。
「ティーナさん。メイチューバーになりたいのは良いのですが、準備は必要ですし、メイチューバーはダンジョン実況者ですので、ダンジョンに潜れない今はなれませんよ」
「ふっふっふ。ゼンジューローは甘いわね。甘過ぎるわ。クリーム爆盛りしてシロップをぶちまけたアメリカンケーキぐらい甘いわね」
「なんと!?」
それは糖尿病になりそうですね。そういえば健康診断は今年から個人で受ける必要がありますか。確か探索者だと保険適用が変わるんでしたっけ。調べるのが面倒ですが、三十を越えると年一でもキチンと調べないと怖いですからね。バリウム嫌いなのですけどね。
「聞いてるのゼンジューロー?」
「はい。問題はありません」
「なら良いけど。あのねゼンジューロー。ユーリの実況を見てたんだけど、メイチューバーって、ダンジョン潜ってる時以外はゲームの実況とか、料理の動画とかを流しているみたいだわ!」
「なるほど。確かにメイチューバーはダンジョンの配信をするものですが、ダンジョン配信だけではありませんものね」
「そうよ。そもそもダンジョン配信なんて大抵はダラダラとやってるんだから、そういうのはハイライトだけ繋いだダイジェストの方が見応えあるし、むしろゲーム実況とかの方がアクセス数が良いことの方が多いわ」
「身も蓋もありませんね」
まあ切り抜き編集の方が見応えあるのは当然でしょう。とはいえ、実況者の良しも悪しも誤魔化しようもないリアルタイムの方が一体感を得られるようですけども。
「それに私もゼンジューローにお小遣いをもらって過ごすだけじゃあ駄目だと思ったのよ。今の時代は女も自分で稼ぐ時代なのよ!」
それ、私が子供の頃から言われてます。どちらかというと女も……とか男と比較しての発言はNGになってきてますけど。まあ女性が言う分には問題にはなり辛いのですが。いや、今は逆に揉めるんでしたか。生き辛い世の中です。
「ティーナさん、お金が欲しいのであればダンジョン探索は共同でのものですし、給料という形で支払うのは問題ありませんが」
「そうじゃないの! 配信したいの! チヤホヤされたいのー!!」
「……そうですか」
はい。ティーナさんは承認欲求の塊でした。まあ妖精女王様ですしね。写真とか求められれば率先して撮っていましたし。いや、女王ってそういうものでしたっけ? よく分かりません。
まあ良いでしょう。カメラはサーチドローンのものが使えるのでそのまま流用しています。というかですね。アレ、普通の機材よりもお高くて高性能です。
録画映像に音が乗らないくらいに静音で、アプリをインストールすればカメラワークも自動で良い感じにしてくれるとのこと。
ライブ配信ならすぐにできますし、切り抜きは携帯端末の動画編集アプリで仕上げるそうです。ゲーム実況に関してもコントローラーはタッチ液晶にボタンを自由に設置できるスマホアプリがあるらしく、ティーナさんはそれで普通に遊んでいます。時代ですねー。というか、ティーナさん、私よりも遥かに文明の機器を使いこなしていますね。
ともあれ、そんなことがありまして……
「セバス、お茶をくださいな」
「はいどうぞティーナ様」
私もティーナさんの配信に手だけ出演しています。いわゆる手タレというものでしょうか。
【おお、巨人の手が画面外からティーナ様のカップに紅茶を注いでるー】
【シージー? デカ】
【いやティーナ様が小さいんだろ】
【やっぱり本物の妖精なの?】
【後ろのドールハウスも市販のだし見覚えあるもんなぁ】
【なんで馬鹿でかいタブレットにボタン表示させて叩いてるんだろうと思ったら】
【PZ6のゲーコンに普通に座ってたからなティーナ様。あのサイズ差じゃ使えないよ】
わずか数日でティーナさんのチャンネルの登録数は一万を超えました。ユーリさんが宣伝したからなんですけどね。コラボ前にあっためておいたって言ってましたっけ。
そんなわけで私たちはそれぞれ休暇を満喫しておりました。
そしてホテルの謹慎状態ももうそろそろ解けるはずです。明日に沢木さんがこちらに来て近況の説明をしてくれるそうですので、いつぐらいから外に出れるのかも分かるのではないでしょうか。
【次回予告】
咎人の末路は血に染められ、水の揺らぎとともに世界へ明かされた。
告げられるは終わりの言霊。休息の終焉。
そして檻の鍵は外され、男は再び世に放たれる。